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疑う円環  作者: 夏樹 真
1時間目
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第四話 めぐる議論(山里ユウコ)

 その真っ黒い女が去った後、教室は沈黙に包まれた。

沈黙を破ったらあの、訳の分からないゲームを認める気がして、それで誰もしゃべれないのかもしれないと思った。



それでもあの黒い女が、如月のヤツだなんてアタシこと山里 ユウコは認めはしないけど、

死んだ人の名前を騙られるってのは本当に、気分の悪いものだった。冗談だとしても、ついていい冗談じゃない。

冗談を言った方だって、言われた方だって嫌な気持ちになる。

あの女にとっては何かしらの意味を持っているのかもしれないけれど。

 演出にしたって悪趣味で、嫌な気分になるだけだ。アタシ達の気分を下げるためにやってるんなら、狙い通りの効果なんだろうけどさ。


ああ、本当に気分が悪い。



本当なら今日だって、今この時間だって外で遊んでるはずだったんだ。

ここに連れられてきた経緯をはっきりと思い出せないのだけど、今日はここに居ない友達とずっとファミレスでおしゃべりするつもりだった。

最近のドラマの話とか、最近告白された時の話とか、話に飽きたら、ファンシーショップを廻るか、コンビニでバイトしてる友達をひやかしに行こうか、それともカラオケかな?


 いつものように、ドリンクバーだけで二三時間も居座って、

”ジャンケン負けたんだから取ってきてね~アタシはメロンソーダで”

”ええー。あんたまたそれなの太るよ?”

”その位なら大丈夫よ。寝る前三時間以内に食べなきゃ平気”


”あー、金ねーなー。どうしよー”

”どっかに、奢ってくれる優しいお兄さんとかいないのかね~”

”……あんたそれ絶対食われるわよ。怖いねぇ世間知らずは、女子高生とかに男は弱いからねぇ”

”そこを上手く奢って貰って逃げ出してってのは、やっぱり無理だよね~”


そんな、くだらない会話をしながら普通の事でぐだぐだと悩むつもりだったのに、なんなのこの状況は!


 如月ヤヨイについては、正直アタシの印象は良くない。

そこにいる、宮原サトネと一緒にいつも暗い感じで居たのを覚えているだけだ。

ファッションにも流行にもほどほどに付き合うけど、根っこは真面目のいい子ちゃん。

中学の頃までは、アタシだって成績優秀で親からも先生からも期待されていたもんだから、

如月ヤヨイと変わらなかったけど。高校に来てから、頭の差ってやつに気がついた。

どんだけやったって、敵わないヤツはいる。それが、宮原サトネで、如月ヤヨイだ。

同じ時間勉強したんじゃ追い付けないし。

倍ぐらい頑張っているつもりでも、私がぶつかった壁を易々と乗り越えていく。


 まぁ、アタシがその差に気づく頃にはもう学業優秀ないい子になるのは諦めてたし、なにより高校生活を楽しむので忙しかった。

劣等感は感じたけど、僻んだり恨んだりっていうのとはちょっと違って、まあアタシはこの程度だからしょうがないかなって自分で諦めた感じで。

派手目な遊びに惹かれていったアタシと如月ヤヨイの気が合うわけ無いから、極力クラスでも寄らないようにしていた。


クラスの中で無駄な衝突は避けるべきだってのがモットーだ。

それこそ時間の無駄だからさ。

せっかくの青春の時間をそんなつまらない事で浪費するなんてバカだよね?

アタシと如月の関係なんてそんなもので、こっちから絡まないと向こうから絡む事なんて一切ないし。

こっちだって面倒なことは嫌だから絡みにはいかない。

積極的に嫌ってはいないけど、消極的に嫌ってるって感じだったかな。




そういう訳で、アタシは如月ヤヨイについては良く分からないんだけど、さっき奴が告げたのルールは気になる。


”如月ヤヨイが誰かにいじめられていた”


 ここまでは、まだいい。クラスが一致団結していて、いじめなんて一切ないなんて事は所詮先生の頭の中だけだ。

ひとクラスに40人も人が集まっているんだし、何か衝突があってもおかしく無いじゃない?

アタシはよく知らないけど、あの子は確か吹奏楽部に入っていたはず。

クラスに他にも吹奏楽部の女子は居たはずだから、クラブ活動のなかで何か衝突が合ったって事も考えられるし、とにかく可能性だけは排除できない。

 まあ、そんな事情をクラスに対して隠しきれていたというのなら結構疑問だけど。

こういった事ってのは特に、視線やなんかで簡単に知れてしまう物だから。

本当にいじめがあったかは、すぐに信じるべきじゃないと思う。


次に、

”1時間ごとに私達の中から犯人を選ぶ”


 これが良く分からない。

 そもそも、何がしたいんだか。アタシは、あの黒い女が如月だとは思ってないから、

如月が死んだ今になって、犯人探しをさせる事になんの意味があるんだろ?

弔いなのか、復讐なのか、復讐だとしても随分とねじ曲がってやがるし。

しかも、あの女は犯人を知ってるんだ。それなら、アタシ達に犯人探しをさせるなんてまどろっこしい事しないで、犯人だけを罰すればいい。




 アタシが考え込んでいる間にも誰も一人も言葉を発しなかった。

窓からわずかばかりに、月明かりが差し込んで、アタシ達の影を床に伸ばしている。

影の形だけを見れば、縛られてなんかいないから、ただ丸くなって座っている図。

まぁ、でもこんな風に丸くなって座っていると悪巧みでもしている絵みたいだ。世界を裏で操る参謀達の秘密の集会とか・・・・。


 くだらない。

くだらない事を考えてないで、そろそろ先に進むべきだ。

みんなも考えているのだろうけど、結局相談しないことには始まらない。


 ふと、時計を見上げる。

前髪が気になったけど、指でどける事ができないから、しょうがなく頭を振る。

隣のツバサがビクッと反応した気がした。


9時20分。

あの女が言ってた時間までは40分。だけど、40分なんてあっという間だろう。何をしゃべればいいのかも分からないけど、議論が始まれば収束しない気がする。

それでも、アタシは声を出した。


「黙っていても仕方ないしさ。ともかく出来る事を相談しようよ」



「相談・・・・・・・。しないとダメだよね」


ツバサが相槌を打ってくれた。でも、他の人の反応が薄い。


「相談って何の相談よ!アイツに!あの如月さんを名乗った得体のしれないヤツに!誰を差し出すかって相談でしょ!!」


突然弾けるように、近藤さんが叫んだ。目に涙まで浮かべて、アタシを睨みつける。

普段大人しいから、逆に迫力がある。


この子こんな風な性格だったんだ。

アタシが追加で説得する前に別の声が遮った。


「シズク!落ち着けって。お前が反発したいのは分かるけど、ユウコだって、そういう反発があるのを分かっててあえて言い出してくれたんだ。

 10時の時点で、誰を犯人として指名するかって問題はあるけど、それ以外にだって話さないといけない。みんなでなにも話さないまま、10時になっちゃうのが一番いけない。とりあえず、落ち着いて。みんなで話し合おう」


「・・・でも、ケイちゃん・・・私」


「大丈夫。大丈夫だよ。最悪の場合でも、お前を一人目にはしないから」


「ケイちゃん・・・・嫌。イヤ・・・最悪なんて」


雨宮の言葉で、近藤さんはさらに顔を歪めてしまった。



「おい、彼氏!近藤さんの心配煽ってどうする。近藤さん、その最悪にならないために、これから相談するんだ。こんな風に縛り付けて監禁して、おまけに1時間ごとに1人罰を与えるなんてゲームじみた事を考えるサイコ野郎だけど。説得するっていう方法もあるかもしれない。

 罰って言っても、まだその中身は分からないんだから、怯えすぎるのも良くないしね。ケイのセリフと被っちまうけど、大丈夫だ」


深刻になってしまいそうな雰囲気を、ユウキが修正した。

スポーツ馬鹿に見えてこういう気がきくんだよね。南谷って。



「サンキュー!ユウキ。シズク、落ち着いて、な?最初は、俺たちの話を聞くだけでいいから。な?」


「ケイちゃん。私・・・。私・・・」


それっきり、近藤さんは黙ってしまった。

残念だけど、気を使う余裕は無いから先に進めさせてもらおう。

それになんだか、こういうのを見ているのはうざったい。


「コホンッ!!それじゃあ、もう一度言うけど。出来る事を相談しよう。といっても、話を絞らないといけないけど。大神。何か意見ある?」


アタシは、大神に振る。こういう時は、頭のいいやつにお願いする。

こういう状況をアタシじゃ上手くまとめらんない。



「・・・・そうだな。疑問点はいくつかある。

1.アイツは本物の如月なのか?

2.ゲームじみた方法を取るのはなぜか?

3.1時間ごとに与えられる罰とは何か?

4.アイツの語った事は事実か?特に、俺たちの中にイジメの主犯がいるというのは本当か?

5.以上を考えつつ10時になった時にどう対応するか?

といった感じか。

正直言って、分からない部分だらけでこのまま、考えてもラチがあかなそうだな。

アイツの正体や、罰の内容については、今は考えてもというか。考える事すら無理なくらい情報が無い。

とりあえず、10時になった時の対応から考えるか。誰か意見はある?」


「さっき、説得案を出した以上。説得する案について話合いたいんだけど。みんなどう思う?

俺は、やってみるだけの価値はあると思う。話が通じるかは、分からないけど」


「説得ねぇ。アタシにはあんまり話が通じそうには思えなかったけどなぁ。それでも、

やってみるだけなら良いんじゃない。この状況で、なら相手と話して何か引き出すしかないし」


「説得その物は、俺も賛成する。相手の体格から見て直ぐに暴力に訴えるタイプでも無いし、

会話は成立するだろう。ただ、どう説得するかは、また別に考える必要があるだろうな」


南谷、アタシ、大神が続けて、説得を支持したので、場は説得する方向に傾いたようで。

みんな口々に、私も、僕もと賛成を告げた。

最後に大神が決を取り、全員一致の形で説得を試みる事に決まった。




この議論の時点でまた、10分経過した。

今の時刻は、9時30分だ。

あと30分だ、あと30分で、説得の内容と、犯人を誰にするかを決めないといけない。



「大神、さっきどう説得するかって言ってたけどそれは、どういう意味?」


「ああ、あれは犯人が如月を自殺に追い込んだ犯人を・・・こう言うと混同するな。あいつの言い方をそのまま使わせてもらうと。如月は如月本人の自殺の原因になった犯人を恨んでいる。だから、こんな犯罪行為をしたのだろう。

だが、先ほどのルールを考えるとそれを見逃した友達も恨んでいる。しかし、友達の方には犯人を当てれば生き残れるように配慮している。ここから考えて、如月を説得するには、犯罪行為であるこの教室に監禁されている俺達全員の開放は認められなくても、犯人以外を開放してくれるようには、説得できるかと思ったんだが・・・・。いや、もちろん全員開放を求めて説得すべきだ。ただ、状況によっては犯人以外の開放としなければならないかもしれない」


 大神は取り繕ったが、

その議論は・・・。先ほど近藤さんの指摘していた、誰かを犠牲にする。議論だ。

もちろん、建設的で、ある意味正論で、反論できないほどで、何となく成功する確率のある気がする。多く生き残るための方法論としては正しい方法だ。


「別に、大丈夫でしょ?ここに犯人なんて居ないでしょ?」


言葉とは裏腹に、不安そうな顔で佐々木さんが全員を見渡す。



 微妙な沈黙が続いた。本当はみんな、アタシ達の中に犯人がいると う・た・が・っ・て・いる。

ただそれを口にはできない。

アタシ達はともに捉えられた仲間だし、この場でみんなを敵に回す発言をしたら最悪1人目の犯人が自分になってしまうかもしれない。



「佐々木さん。犯人の居る居ないは、関係無いんだよ。如月が俺達の中の誰かを犯人だと思っているって事が大事なんだ。それを否定できない以上、真実は分からないけど犯人として開放されない人が出てしまうかもしれない。そう言っているんだ。それとね、俺は如月への説得は、宮原一人にお願いしたいと思っている」



大神はまた、一歩進んだ議論に飛び込んだ。




一人目の確定まで残り・・・・・・・・・・・・・・25分・・・・・・・・・。


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