第三話 犯人の告げる言葉(宮内ツトム)
「誰も、覚えていないなんてショックだわ。私の名前は如月 ヤヨイよ」
真っ黒な格好のその人物が告げた言葉に俺たちは声を無くしてしまった。
なにから説明すりゃいいかな?
こういう場合は、自己紹介とかか?
いやまあ、俺自身の心の中の独り言なんだから順番なんて俺が勝手に決めりゃいいのか。
そういや他の誰かが決めてくれるわけじゃないもんなぁ。
それでも順番は大事か?
ただでさえみんなからバカと呼ばれる事が多いんだから、こっちだって自分が馬鹿だって事位分かってる。
それでも、愛される馬鹿だって胸を張って言えるけどさ。
まぁそれだけ馬鹿でもあんまりいつもいつも馬鹿にされたいわけじゃないんで、
なるべく、事の順番とかやり方は守ろうってわけだ。
それで自己紹介するなら俺は、ここの高校のクラスメイト宮内ツトムだ。
俺の性格とかは、既になんとなく伝わってる気がするから省く!
イヤ、面倒な事は嫌いなんだ。
とにかく俺は気がついたら、夜に自分の教室で縛られてて、
周りには俺の他に縛られてる奴らが、9人も居て。
脱出できない代わりに犯人らしき人もいないから、なんとか、みんなで脱出の方法とか考えて、といっても俺はあんまり考えが浮かばなかったから議論は任せてたんだけどな。そしたら、いきなり9時になった時に真っ黒の恰好の犯人(推理物のアニメじゃあるまいしどうなんだそれ?)が現れて・・・・・・
で、その犯人があの”如月 ヤヨイ”ってのはどういう事だ。
如月ヤヨイっていうのは、ほんのひと月前までこのクラスに居た女の名前だ。
そう、居たっていう言い方で分かると思うが今はもう居ない。
自殺したんだ。
テレビや何かで自殺の報道を見るんじゃなくて、まさかうちの学校の俺の居るクラスで自殺が起きるなんて完全に想定外だった。なにせ、そこそこ優秀な学校だしな。先輩の話でも、自殺なんて聞いた事ないくらいで学校の歴史上初めてくらいの大事件だった。
校門に報道のカメラが群がっていたり、事件当日は報道のヘリなんかも出てきて大騒ぎになって、俺もさすがにその時は、クラスに笑いを提供する訳にもいかず、おとなしくしていたもんだ。
そんなのがまだ一ヶ月前だ。
そう、クラスは表向きもう正常に戻っているけど、彼女の机は最近ようやく片付けられたばかりだ。
ようやくクラス全体がクラスメイトの自殺を認識し、忘れていけるようになったところだった。
それにしても、どっちにしたって決まってる。”如月 ヤヨイ”が死んでる以上目の前のこいつは如月ヤヨイじゃない。死んだやつの名前を騙るなんてふざけるな!
「ふざけるな、このクラスの如月ヤヨイは死んだんだよ!それも自殺だ、だからここにいる訳がない」
「ひどいなぁ。宮内くんも。私はここに居るんだけど、まぁ、こっそり生き返ったでもいいし、実は幽霊ですっていうのも面白くていいね」
黒いヤツ(今の段階ではこいつを如月ヤヨイとは呼びたくない)は、自分の事のはずなのに興味の無い口ぶりで答える。
そして、一人でククッと笑った。
俺は、その笑いに凍りつく。
冗談じゃ無い。こんな状況で笑っていられるなんて普通じゃない。
冗談や芝居でも無く、この状態で普通のやつは笑えないだろ。
「ね、ねぇ。本当にヤヨイちゃんなの?ねぇ、私、サトネ分かる?」
「もちろんよ。さっちゃん、親友なのに忘れるはずないでしょ」
「や・・・ヤヨイちゃん・・・ぐす・・・、生きてたの・・・良かった」
そういえば、宮原は如月と仲が良かったな。いつも、隣に居て雑談していたきがする。だから、黒いヤツの言葉をそのまま信じてしまっているのかもしれない。生きているという希望に縋ってしまって。
「宮原、まだこいつが本当に如月かは分からんぞ」
大神から、鋭い警告が飛ぶ。冷静な顔で発されたそれは、間違いなく宮原の耳に届いたはずだが聞こえていない。
「ねぇ、ヤヨイちゃん・・・・私・・・どれだけ泣いたと思う・・・寂しかった。悲しかったよ・・・・でも、こうして会えて嬉しい」
「ふふ、ありがとうさっちゃん。でも、ごめんなさい。私ねあなたたちを・・・ゆ・る・せ・な・い」
いきなり空気が変わった。それは、一瞬だけだったが狂気に歪んだ声色だった。
しかし、その声も次の瞬間には普通の声に戻っている。
酷く違和感を感じる感覚、まるで外見は人間の宇宙人を見ているような、根本的な違和感を感じる。
まるで、俺たちとは別のモラルで動いているような……
俺はこの黒いヤツが前にもまして、得体の知れなく感じられた。
「ちょっと、つまらない話になるよ。それでも聞いてもらうけど。
私は、如月ヤヨイ。まぁ、疑いたい人はどうぞ。私が誰であっても、私があなたたちにやってもらう事にかわりはない。そして、拒否権も無いわ。まぁ、あなたたちのこの状況で拒否権とか言い出せたらある意味すごい強者だけど。
話は、そうだな。やっぱり、みんなせいで私が自殺した所から話そうか。私の自殺について、みんな詳しいことは知らないよね。自殺した状況から、動機から、時間から、何も知らされていないはずなんだ。
うちの家庭で、親が教師っていうのもあって、身内で、しかも学生で自殺者が出るなんて恥なんだよね。
だから、世間に対してもいろいろと状況を隠しているというわけ」
黒いヤツの話はよどみなく進む。自分の自殺の話をしているというのに、どこか楽しそうだ。狂ってやがる。
「で、私の自殺の動機なんだけど。はっきり言って、この中の人にいじめられてたのが原因なんだ。気付いてなかったでしょ。私が生き返って来た理由なんだけど、正直未練とかあってさ。その人に復讐ってのもあるんだけど、それだけじゃなくてね」
自分のクラスメイトの中にいじめの犯人が居て、そいつに復讐したいなんて事をあまりにあっさりと、
今日の日経平均みたいなつまらないニュースのように淡々と言われて俺は反応できなかった。
はいっ?
うちのクラスでいじめで、それが原因で如月が自殺して、それで・・・。自殺したはずの如月が生きていて復讐しようとしている。
なさけなくもあるけど、そんなもんは、本人同士てやってくれ、俺みたいな清く正しい一般人を巻き込むなよ・・・・。
「自殺させた奴もだけど、クラスメイトでありながらいじめに気づいてくれなかった貴方たちも憎い。
それほど、巧妙に行われてたわけじゃ無いから気づこうとすれば気づいたはず。
なのにみんなのんきに学生生活を送って来た。ふふっ、自分は何もしていないのになんでこんな目に合うんだとか思っているでしょ。
何もしなかったからよ!
私に声をかけてくれるだけでも良かった!
ほんの少しいたわってくれるだけで良かったのにだれもそんな事すらしてくれなかった!
生きているならいいじゃないか?ふざけないで!私は一度死んだのよその重さを考えなさい!」
黒いヤツ・・いや、ここまできたら偽物だとしても如月と呼ぶか。如月はそこで興奮しすぎたのを抑えるためか、
一度深く息を吸った。
「という訳で、貴方たちには罰を与えます。といっても、ただ単純に殺すなんて事はしません。
今からでも考えて、誰が私をいじめていたのか気づいたら助けてあげる事にします」
「大事な事なんで良く聞いてください。
今から、1時間時間後・・・10時になった時点で貴方達10人の中から、いじめの犯人であったと思う人を提示してもらいます。
自分で名乗り出ても、多数決でも何でも構いません。ただし無回答は許されません。
もし、犯人であってもなくても、私はその人に罰を与えます。次の1時間後にさらに1人を指定してもらいます。
これを1時間ごとに繰り返して行ってそして、貴方たちの中にいじめの犯人が居なくなった時点で、
貴方達を開放します。どうです?公平でしょ?いじめの犯人を先に指摘してしまえば、他の人は罰を受けずに済むのだから。
今までの・・・私が自殺するまでの事を良く思い出すと良いでしょう」
それだけ告げると、教卓から離れ扉に向かって行く。誰も何も話せない。
扉を開く前に一度だけ振り返るとさらにこう告げた。
「頑張ってください。私も友達は罰したくありませんから。そうそう1つだけヒントを。イジメの犯人は2人いますよ。ふふふ・・・・・・」
その言葉を残し、如月は去った。
1人目の確定まで残り・・・・・・・・・・・・・・50分・・・・・・・・・。