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疑う円環  作者: 夏樹 真
ゲームの後で
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第二十八話 警告と闇の中

 翌日は、特に薬の後遺症も見られなかった事から普通に登校する事となった。


いつもと、同じ電車にいつもと同じように乗るのだが、頭の中は複雑な思いでいっぱいだった。


通勤、通学の人で満杯の電車と同じように色々な思考で溢れている。



前日は学校を休んだため、結局大神はそれほど情報を得る事はできなかった。


単純な話、あの場に居たメンバーの連絡先を把握していなかった事が原因だ。


三条以外の連絡先を知らなかったため、他の人の動向を掴めなかったのだ。



犯人の意図は、全くとして分からない。


そして、ある意味で如月の自殺の犯人という事が明らかになった自分と三条すら、何もされて居ないという事の違和感。


犯人がしたかった事は、復讐では無かったという事なのか?


なんであんな手間のかかる事をしたのか?


考えたところで、結論がでるはずもない。


大神タダシはため息をつくと、満員電車の中で押しつぶされながら、時間が過ぎるのを待つために思考を放棄した。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ちょっと、話いいか?」


わざと軽い調子で雨宮が告げた言葉に大神は、すぐに反応した。


あんな事があった翌々日なのに、あの時教室に居たほとんど全員が学校に出て来て居た。


大神はもちろん、もう一人の犯人であった三条も、かっこよく散っていった南谷も、


全員に色々とぶちまけた鈴木さえ普通に登校して居た。


クラスの様子としては、本当にいつもと変わりない。あの時教室に居た者どうしは、どうしても普通に接する事ができないようだが、その他の生徒にとっては普通の日常が過ぎていく。


「ああ、ここじゃなんだし、休み時間に校舎裏でな」


雨宮はそれだけ告げて、大神の机から離れていく。


普段しゃべる中でも無いのに教室で、物騒な話をするつもりは両方とも無いようだった。


ただでさえ、前日に突然大量の欠席者を出して教室全体に不安な空気が漂っているのだ。


ここで、波風を立てない程度の配慮は両方が持ち合わせいた。






 昼休みの屋上や体育館は人で溢れている。


日当たりの良い、屋上では生徒たちが弁当を広げて談笑をしながら楽しく食事を取っている。


一方で日当たりが悪い校舎裏にやってくる人は居なかった。


ここで昼練をする部活も居ない。秘密の話にはうってつけだった。



「近藤さんも一緒か?」


お互い昼飯のビニール袋を下げた、大神と雨宮の姿の他に近藤シズクの姿もあった。


「構わないだろ、当事者なのは一緒だし」


「そりゃ、全然構わないけどね」


あの夜、近藤シズクにしてやられた大神としては、少し微妙な気分だ。きっちり負けは認めてはいるが、いい思いがするものでも無い。


一方のシズクは、今日はあの時の様子が嘘のように黙って雨宮に任せていた。


「手っ取り早く結論から言おう。三条さんから話があったと思うけど、これはあの夜教室に居た人全員に対してなんだけど。


この事件の事については無かった事として、これから先も誰が犯人なのかとか、探るのはやめようって提案なんだ」


「……なんでだ?犯人は俺たちに危害を加える事は無いからか?」


「そうだよ。犯人は僕たちに危害を加えるチャンスを放棄している。それに、罰を与えられた、山里さん、鈴木君、佐々木さん、それに三条さんに大神君も


全員普通に今日登校している。宮原さんは休んでるけど、シズクから無事って事は確認してもらってる。


だから、あの夜の話はおどしってだけで実際には適量の睡眠薬しか入って居なかったんだろう」


「犯人に害意が無いとしても、何が起こったかは知りたいと思うのは間違っているのか?俺は、特に怒る立場じゃ無いが、


お前や、巻き込まれた人は怒って無いのか?鈴木なんかは結構心にショックを負ったと思うけど」


「それは……」


雨宮が顔をしかめて、言いよどむ。


それを見て、大神は何かあの夜の事を探られたく無いように感じた。が、あえて突っ込まずになにも内容に流す事で反応を見た。


「まあ、本人が言い出さないならそりゃいいけどな。正直、あの晩の事は思い出すのが嫌ってやつも居るんだろ」


ふっと、安心した顔をして雨宮は続ける。


「ああ、シズクもあんまり話たく無いようだし、鈴木君なんかも触れたく無い感じだった。犯人は確かに謎なんだけど、それを探ろうと思うと、


思い出したく無い事にも触れる事になるから。やっぱり避けたいんだ、結局の所あの夜教室に居た僕達が話題にしなければ、いずれは立ち消える事だと思うから」


しばらく考える振りをした後で大神は、突然切り出した。


「君らが、思い出したく無いってのは分かったよ。だから、君たちには話をしない。だけど、俺が勝手に気にする分には構わないだろ?昨日の朝何か変わった物を見なかったか


クラスの奴にそれとなく聞いてみるとか」


「いや、それは……」


「正直な所さ、あの場に居なかったウチのクラスの奴が絡んでるんだろ?」


言いよどんだ雨宮にぶつけると、あからさまに慌て始めた。


「いや、僕は誰が犯人とか知らないけどさ。ウチのクラスの奴が犯人って事も言い切れないだろって思うだけでさ」


あの夜議論をリードして来た雨宮にしては可笑しいくらいの慌てぶりで、雨宮の後ろに控えているシズクの方が思わず気遣っているくらいだ。


「大神君」


シズクの方が突然、静かに大神の名前を呼んだ。


「警告しとくわ。私を始めあの夜教室に居た人の多くは、あの夜を無かった事にしたいと思っている。そして、私達はいざとなったら、貴方と三条さんは


如月ヤヨイを自殺に追い込んだ犯人であるという事実をクラス全体に暴露できる状態になっているの。大神君は気にしないと言うかもしれないけど、


内申にしてもクラスでの過ごしやすさにしても、事実が公になれば大きく変わると思うわ。だから、ヘタには動かない方がいいと思うわ」


きっとこのために、シズクは呼ばれていたのだろう。


雨宮だけでは足枷にならなかったであろうけれど、近藤は確かに大神に釘を刺した。


「了解。一応覚えておくよ。それにしても、あの夜から本当に性格変わったみたいだね?どうしちゃったの?」


その返事でスイッチが入ったようにシズクは雨宮の後ろに隠れ、そのまま話は終わったとばかりに二人は立ち去ろうとする。


「ごめん、これだけは教えてくれ!如月さんは生きているのか?」


解決しなければならない疑問を思いだし、雨宮にぶつけた。雨宮は冷たい声で、


「死んだ人は生き返らないよ。なんで犯人が如月さんを名乗ったかは分からないけど、宮原さんには残酷な事だね」


と告げた。その声だけは、この事件を起こした犯人を批難している刺のある言葉だった。


じゃあ、と一言つぶやいて今度こそ二人は校舎へ戻っていった。


仲良く手を繋ぐその様子は、傍目から見ると楽しそうなカップルそのものだろう。








 一人だけ残された大神は、コンクリートの地べたに腰を下ろした。


結局の所今まで袋を開ける事さえできなかった昼飯の袋を半ば機械的に開け口へと運ぶ。


雨宮達との話で、ある意味告白を受けたのも同じだった。


あの二人は、犯人を知っているか、もしくは犯人である人の予想がついているのだ。


だから探られたく無いし、そしてそれはおそらくこのクラスの生徒なのだろう。


それも、恐らくは一人では無い。10人もの人間を搬送するのには、ワゴン車でも最低車2台は必要で、


大神の家に現れた人物と、三条の家に現れた人物が別人である以上共犯者も2人以上居るだろう。


車まで、10人の人を運ぶなら共犯者が2人って事は無いだろうし、時間の問題も含めて考えれば実際にはもっと多いだろう。


そう考えれば何人かのクラスメイトが絡んでいると考えた方が良い。


クラスでの交流が少ない事がアダとなり探るのは困難になるが、根気よく探りを入れればいずれは犯人に行き当たるだろう。




しかし、


これ以上踏み込むなとの警告は受け取った。


この事件についてこれ以上追求しない。その事が合理的な結論だという事も分かっている。


自殺にまで至ったいじめの主犯格なのに、それをバラされて居ない現状はまだ幸運な結果とも言える。


「自分の興味ともやもやの解消のためだけに、これ以上はつきすすめない……か。悪あがきも、たったこれだけで終わりかよ。全ては、闇の中なんて笑えないぞ」


一言悪態を付いた後で、確か本当は藪の中って言う方が正しいんじゃ無かったかな?なんてどうでもいい事を思いながら。


大神タダシは、ビニール袋をくしゃくしゃに丸めてポケットに放り込むと、校舎に向かって歩きだした。







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