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疑う円環  作者: 夏樹 真
5時間目
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第二十五話 決着

「あくまで、俺が犯人だといい切るってわけか。でもさ、そっちの要求だって相当無理があるんだぜ。俺自身、自分が犯人で無い事を証明できるんなら、とっくにしているし。追い詰められたからって、起死回生できるものでもないだろ」


ごくっ


緊張に耐えかねたように、一瞬喉を鳴らす。

しかし、表面上はあくまでも淡々として、一番否定しにくい一般論を積み上げる。

体の上では、緊張は隠せない。額に大きく汗がうかんでいるのも見える。

それでありながら、大神は表情を変えずに立ち向かう。


「という事は、大神君は犯人に決まりという事だよね」


追い込むシズクにはもちろん容赦が無い。

こちらも、瞳に大きな緊張を湛えながら、大神をじっと見る。

椅子の後ろで握られた手がじとっと汗をかいている。


「そうか?俺が怪しいというのは分かったが、みんなが俺の性格を完全に理解してるとも思えないし、なおかつこんな異常な状況だ。普段と違う行動を取る事の理由にはなるだろ?そういう意味なら、今の近藤さんこそ普段らしからぬ行動だよね。自分が犯人だから、さっさと俺を追い込もうとしてるんじゃないの?」


議論では平行線。

大神が怪しいとしても、彼は馬鹿では無い。決め手の一撃に欠ける状態では、どんなに追い詰めてものらりくらりとかわす事ができる。

チェックをかけても逃げ続ける千日手。終わりは来ない。

大神からの終わりは来ない。

それなら、そこに他の人間の手が必要だ。


シズクが努めて冷徹な声で告げた。


「どちらにしても、もう大神君を庇う人はいないしね。次の回は、大神君で決まりだよ」


そう告げて全員の顔を見渡した。

大きく自信を持った顔で、シズクを見返す雨宮、宮内。興味の無い顔で眺める宮原。涼しい表情で見返す大神。

そこに、慌てたように三条ツバサが割り込んだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。シズちゃん。大神君が犯人だって決める根拠は、弱いと思うけど……」


シズクの表情がふっと緩んだ。

さっきの凍てつく氷柱のように尖った視線が、今は吹雪きのなか一瞬顔をだした太陽のように慈悲深さを見せていた。


「その言葉を待ってたのよ。これで決まりだよね、ケイちゃん?」


「えっ?」


慌てた表情から、そのまま呆けた表情に切り替わった三条を横目に、雨宮が口を開いた。

その顔は、逃げきった安心感と少しの暗さの入り混じったものだった。


「ああ、これで決まり、チェックメイトだな。犯人は、大神と三条の二人ってわけだな」


「ええっと?雨宮君どうしてそうなるのかな?大神君が怪しく無いと私が言ったからそうなったの?」

怯えながらも、それだけは口にする。


「簡単に言えばそういう事だ。この状況で、大神を庇いに来るのは、その仲間しかいない。だから、あえてシズクは大神にプレッシャーをかけたんだ。大神自身はプレッシャーで潰れるタイプでは無いけど、同じ犯人が庇いに来る可能性があると考えてね」


なんて事の無いように、雨宮は告げる。全ては、シズクの計画通りだと。


「そ、そんな、ただ大神君に味方しただけでそんな事になるなんておかしいわよ……」


「それだけじゃ無いんだよ。さっき、大神君に回答を迫った時、ケイちゃんはワザとツバサさん以外にだけ大神君を疑っているかを聞いたの。しかも、ワザと全員が疑ってるって宣言して、その時ツバサさんから意見は出なかったよね。普通は飛ばされても、私も怪しいと思ってたとか言うものだよね?

それを言わなかったのは、大神君を疑え無い立場に居てなおかつあの時点では、大神君がかわし切る可能性があったから。今になって言い出したのは、いよいよ本当に決まってしまいそうになったから。さっき言わなかった時点でもうほぼ確定だったから、今の一言でダメ押しだっただけだよ」


その時、大神がぽつりと口にした。


「諦めろ。もう負けは決まった」


「大神君?!」


「お前のミスでもあるんだから、潔く認めろ。もっとも、俺がもっとうまくかわせていれば、良かったのだから俺のせいでもあるけどな」


「じゃあ、認めるのか?犯人だって事を」


ツトムが代表して尋ねる。


「ああ、どうせ犯人じゃ無くたってこの状況は覆せないさっき雨宮も言っていたがチェックメイトだ」


冷静な表情はくずさずに、それでも悔しそうに大神は俯いた。


「ねえ?一つ聞いていい?」


三条ツバサは放心状態になりながら一つだけ質問した。


「さっきの話だと、シズクがわざと大神君を責め立てて、雨宮君が私を罠に嵌めたって感じだったけど。それって、最初から計画していたの?」


「いや、基本的にはシズクが考えたんだと思うよ。僕は議論していて、あまり気づいていなかったけど、考えてみると大神は、議論を潰すだけじゃ無くて、三条さんを庇っていたし、そこからシズクが気づいたんだろ。僕は今の議論の途中でシズクから教えてもらったよ」


「教えてもらったって?喋って伝えられない中どうやって?」


雨宮はちょっと自慢気に顔をシズクの方に向けた。


「シズクが大神を追いこんでいる途中で、僕の方に視線を向けたんだよ。そこで目をあわせたら、シズクは視線を廊下の方に反したんだ。つまり、一番廊下側に座っている三条さんの方に。それで、シズクが大神君と、三条さんをペアとして疑っているって分かったんだ」


自慢げな雨宮の顔に、ちょっと恥ずかし気にシズクが視線を返す。


「あきれた、たったそれだけで上手く連携してはめるなんて。でも、さすがだね貴方達。これに、負けたのならしょうがないって思えるかも、ははは…」


乾いたツバサの声が響く。大神は敗北宣言以来無言のままだ。

こうして、熱い戦いの時間はひとまず幕を下ろした。



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