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疑う円環  作者: 夏樹 真
5時間目
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第二十四話 野兎と蛇の戦い

如月ヤヨイは、犯人が自首しない事を知っていた。

それはどんな意味を持つのだろうか。


「犯人が自首しないと知ってたって、それって普通なんじゃないか?犯人に自覚があったとしても、自分の罪を認められるやつばっかじゃないと俺は思うけど?」


雨宮の解答に対して、ツトムの声は懐疑的だ。


「俺も、同感だな。この場にいる中で、いざとなったら自首できる人間がどれだけいるんだよ」


被せるように、大神が続ける。


「自首するかどうかだって、如月がどう思ってたかの主観の問題だろ、いじめの相手が憎くて憎くて仕方ないなら、犯人は意地でも自白はしないって考えているのかもしれないしな。どうあれ、これもその先が見える話じゃなさそうだ」


いつものように、そっけ無い態度で議論を流してしまう大神。

矛盾点を発見して意気込んでいたばかりに、雨宮は苦虫を潰したような不満そうな表情を浮かべた。

議論が息詰まる流れに対して、意外な人が待ったをかけた。



「みんなちょっと、まってよ。ケイちゃんの話で、如月さんのルールに矛盾があるのは確かじゃない。それとも、他に矛盾あるの?」


シズクだった。

いつも気弱で、雨宮がいれば雨宮に、いなければツバサに隠れてばかりのシズクにしては、ありえない位の強気だ。


「だけど、シズちゃん。如月さんの主観で決まってるんだったら、それだけだと何のヒントにもならないんじゃない?普通に考えたら、私や大神君、雨宮君、辺りは自首しなそうで、あなたとか宮内君とか、宮原さんは自首してくれそうって感じではあるけど……」


三条の言葉にも、シズクは強く首を振った。


「そうじゃ無いの。まず、主観で決まっているって所から間違っていると思うの。だってさっき如月さんは、私1人では止められないって言ってた。1人で止められないって事なら当然、他の人が止めさせないって事で、つまり協力者が居るって事じゃ無いかと思うの」


「協力者は、確かに居ると思うわ。私たちは10人も居るんだし、色々準備も1人では難しいと思うし、でもそれが?」


「犯人が自首しないと考えているのは、如月さんだけじゃ無いって事になるのよ」


シズクはそこで、一度言葉を切った。

みんなが押し黙る中、一瞬だけ目線を雨宮に向ける。二人の視線は一瞬だけ合った。

シズクはすぐに、視線を廊下側にそらし、強く頷くと言葉を続けた。


「つまり、協力者が居るならその人の意見も入っている分より客観的になる。如月さんが主導でやった事なのか、全員の合意でやった事なのかは分からないけど、計画しないとこんな事無理だよね。だから、存分に計画は練ってあると思う。犯人の行動についても考えているだろうし、相談した上で、客観的にみた上で、犯人は自首の可能性が低いって事になるはずなの」


シズクの言葉は暗に告げている。怪しいのは、大神、三条、雨宮の三人だと。


「正直な話、怪しいのって大神くんなの」


まるで、朝教室で出会った時におはようと告げるように、そんな意気込みも何もない自然な調子で、近藤は大神に挑戦状を叩きつけた。


大神の顔が、可笑しそうにニヤッと笑う。

でも、その顔は怒りの表情よりもさらに恐ろしげに見える。


「いきなりだね、近藤さんは……そんな性格とは知らなかったなぁ。まあ、俺が怪しいって理屈までは分かるよそれで?」


「怪しいというより、おかしいなんだよね。さっきから、ずーっと大神君は議論を切ってばかりで、ちっとも先に進もうとしてない。犯人に自首を促す方法も、本を貸した人の線から犯人を探そうって時も、全部切り捨ててるのは大神君なんだよ」


 それまで、議論に深く参加していなかった分だけ、周りを観察していたのか、近藤シズクは良く議論を観察していた。

そこから、大神に違和感を感じ取ったのだろう。

本気で犯人探しをするのでは無く、ただひたすらに逃げきろうとだけ、していたのではないかと。


「俺が、議論を切り捨ててたように見えたなら、まあそれはそうなんだろうな。でもさ、俺はあくまでその理論だと正解は出ないと思ったから、言ってただけで何もわざとじゃないぜ」


 近藤シズクのふしめがちな弱い瞳が、大神タダシを睨みつける。

対する大神タダシは、見下したように冷たい視線を返す。

全く動揺は無い。犯行を暴かれた犯人では無く、堂々とした目で見返すだけだ。

まるで、牙も持たない野兎と毒牙を持った蛇の戦いのように、追い詰めようとする側が追い詰められているように見える。

自分の意見を認めてのらりくらりと交して隙あらば噛みつく蛇。


「わざとかどうかなんて、分からない。本人の主観だから分からない。そんな逃げ方している時点で負けてるんだよ大神君は、だって普段の大神君なら、多少不細工な理論でも怪しいと思った人をつぶしにいくでしょ」


「いや、どうか……」


「おかしいよな、そりゃ。考えて見ると最初からおかしい感じはしてたんだよ」


大神の否定の言葉を、雨宮が塗りつぶした。


「今、この時点で明確に答えを出せよ。答えられなきゃお前が犯人って事になっちまうぞ。どうだツトム?お前も怪しいと思うか?」


いきなり振られた宮内も既に大神を睨んでいる。


「ああ、今思ったが怪しいな。特に追い込まれてから、顔は余裕のふりしてっけど。足震えてんじゃないか。怪し過ぎだよお前」


「宮原さんも怪しいと思ってるって事でいいか?」


「私は、誰がどの順番でもいいと思ってるわ。最後は全員罰されるのだから」


言葉は、そっけなくだが大神を見る目は鋭い。


「という事だ。みんなお前が怪しいと思っている。さあ、解答を聞こうか?」


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