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疑う円環  作者: 夏樹 真
4時間目
20/32

第十九話 別の解答

 その言葉に今まで黙っていた、佐々木ヨシノが言った。


「ねぇ、もうさ犯人に名乗り出てもらおうよ」


「犯人に名乗り出てもらうって?」


みんなの困惑を代表して、三条ツバサが尋ねた。ヨシノは淡々と話し出す。


「犯人に名乗り出てもらうのよ。それ以外に、多くの人が生き残れる可能性は無いんだよ。こんな風に……鈴木君を決めた時みたいなやり方をするわけにはいかないし、この状態で話続けても仕方無いもの。

それでね、考えたんだけど。この処刑のやり方って犯人にとって、生き残る確率が無い話なんだよね」


ヨシノは一度そこで言葉を切った。その言葉が全員に広がるのを待っているようだった。


「犯人に生き残る確率が無いって?」


再びツバサが尋ねる。

「だってそうでしょ、あの如月さんは犯人が全員処刑されるまで、これを続けると言っていた。だから、犯人の人は生き残れる可能性ゼロって事。このまま、消去法の形で全員ランダムに削っていっても、いつかは犯人に行きついて、残った人は注射されること無く生きて帰れるかもしれない。でも」


再び、言葉を切り決意表情で一気に言った。


「今の時点で、犯人だと自分で心当たりのある人が出てきてくれれば、それで残りは助かると思う。

如月さんだって、いつまでこれを続けるつもりか、分からない。もしかしたら、何時までたっても終わらなければ、焦れて全員に一気に注射するようになるかもしれないし、全員が助からないかもしれない。だから、だからね。お願い!私たちのために、なんて身勝手なこと本当は言えないんだけど、名乗って下さい。少しでも多く助かるために、心当たりのある人が名乗り出てくれれば、それで、それで全部終わるんだから」


ヨシノはもう、涙を流していた。真摯に、切に多くの人が助かることを望む。それだけが、涙に歪む瞳から伝わってくる。


「一つ気になることがある」


大神が、ヨシノの涙声に対して極めて冷静な口調で尋ねた。


「なんで、今になってこんな事を言い出したんだ?もし、この考えが頭にあったなら、最初の山里のあと。

遅くとも、南谷を選ぶ時点で言い出してもおかしく無い。というか、あの時点で南谷の処刑を嫌がっていた佐々木さんがそれを言い出さなかったのは、おかしい気がする」


「おかしいって、どういう事よ?」


「つまり、全員でお互いを疑い合う状態になってから発言したとも、取れる。もっと、簡単に言うと、さっきのは演技なんじゃないかって事。犯人に名乗り出てくれと、懇願する事で、自分が犯人として疑われるのから逃れようとしているのではないかって事」


大神は冷静に、しかしバッサリと佐々木ヨシノに切りかかる。


「大神、それは疑いすぎなんじゃないか。佐々木さんの言ってる事は、正しいと思うし」


雨宮が横からたしなめる。


「この状況で、疑い過ぎもないぜ雨宮。今は、もうサバイバルに突入してるんだ、どれだけ疑ったって足りないくらい疑わないと。別にクラスメイトを疑いたいわけじゃ無いが、言っている事がきれいすぎるというか、本音を隠しているように聞こえただけだ」


「私が演技してるかもって。ひどいな……でも、そっか、そういう風にも見えちゃうんだよね。大神君はそんな風に考えるんだ、南谷君の時に言い出せなかったのは、如月さんがこの犯人探しをさせている意味を説明した時、私たちに探させることに意味があるみたいな言い方したと思うんだ。だから、犯人が自首する形は望んでないって言うか、逆にそうしたく無いんだと思ったんだ。如月さんが、どんな風に対応するかも分からなかったし、あのときにこの話を持ち出しても、もしそれが如月さんにバレたら逆上させるだけで、あの後の時間にすぐ助けが来るなら、そのリスクはとりたく無かったのかもしれない」


「なるほどね、了解。一応筋は通ってるな」


さほど、納得したわけでもないように軽く頷くと、探るように大神タダシと佐々木ヨシノの視線が絡まった。


「じゃあさ、逆に聞くけど大神は、何で私が嘘を付いていると思ったわけ?私が嘘をついてるなら、私が犯人って事でしょ。でも、私が犯人だったとしても私がさっき言った理論は通ると思わない?犯人は絶対に処刑から逃れられない。それなら嘘をつく意味も無いでしょ」


「犯人が助からないかは、分からないだろ。如月が処刑をすると言っているだけで、それがこの先どうなるか分からないのは、お前も言った通りだしな。後は、俺自身が犯人が名乗り出る可能性が低いと考えているから、どうしてこういう策を思いついたのか分からなかっただけだ。最初の議論の時点でも言ったが、犯人は自覚的で無いかもしれない。如月が一方的に恨んでいるなら、本人は分からないし。それに、もし自覚があったとして、積極的に自分から処刑されに行く気持ちにはならないんじゃ無いか?助からないかも知れないと思いながら、希望にすがってしまうものだろ、人間って」


 大神と、佐々木の睨み合いは続くお互いに目線を逸らさない。

二人の見つめあいは、ほんの5秒ほどで終わった。

視線を外したのは、佐々木の方からだった。吐き捨てるように一人つぶやいた


「それぐらいの理屈、私だって分かってるよ。でも、そんな事言ったら名乗り出る空気には絶対ならないじゃない」

そうして、吐き出した言葉を吹き飛ばすように強く問いかけた。

 

「ねえ、お願い!出てきてよ!お願いだから」


佐々木の再度の呼びかけに応える声はなかった。


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