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疑う円環  作者: 夏樹 真
4時間目
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第十八話 疑惑

 突然の事態に全員の動作が固まっていた。

特に、鈴木ヨシヒコの近くに座っていた三条ツバサに視線が集まった。


「え?みんな何で私を見てるの?ローブが落ちたことを気にしてるんだよね。残念だけど、この位置だと体が邪魔になって床に落ちた布は見えたんだけど、顔は全然見えなかったんだよ」


確かに三条の言うとおりで、位置で言えば一番近いのが三条だが、その分顔の方向が中央向きになって、後ろにいる如月は見えなかったに違いない。

見やすさで言えば、鈴木ヨシヒコの対角線に位置している佐々木ヨシノや宮内ツトムの方が見やすいのだが、


「いや、こっちはこっちで鈴木の体の影だからさ、暗さもあるし全然見えなかった」

「私も残念だけど、一瞬だったし髪の短い女の子って事は分かったけど、本当に如月さんだったかどうかは分からない」

二人が続けて反応を返す。しかし、やはり決定的瞬間は見られなかったようだ。


「となると、中間の二人に期待だが」


 大神が告げた二人は、雨宮と宮原だ。雨宮は黒板側、宮原は教室の後ろ側でそれぞれ、ヨシヒコの座っている位置から見て中間になる。


「僕は、正直言って……こんな事を言うと、ますます混乱するだけだと思うけど、あいつは如月ヤヨイじゃなかった」


「いいえ、あの子はヤヨイちゃんだったわ。私が言うんだもの間違い無いわ」


雨宮が否定的な意見を出した瞬間に、宮原がそれを遮った。


「だいたい、この暗さで距離だって2mくらい離れていて顔なんてきちんと見えるはずないわ。あれはヤヨイちゃんよ」

顔なんて見えるはずないと言いながら、ヤヨイだと主張して矛盾している事を堂々と言い放つ。


「でも、宮原さん僕が見た顔では、如月さんじゃ無いと思うよ。そりゃ、変装とかメイクで変えてたらわからないと思うけど、あれはそういんじゃ無いと思う」

「じゃあ、雨宮君は誰かがヤヨイちゃんの振りをしてるっていうの?それこそナンセンスです。そんな事する意味がないじゃない。という事はあの子はヤヨイちゃんなのよ」


 雨宮が否定し、それを宮原がさらに否定する。そんな問答が繰り返される。

当然議論は平行線となる。どちらも、はっきりは見えていないのだからそれは、仕方無い事だ。

しかし、大神がその議論にさらに割って入った。


「宮原。お前見たんだろ。アイツが如月じゃ無いって事を」


「な、何を言っているの大神君。私はちゃんとヤヨイちゃんを見たって言ってるじゃない」


「お前は、さっきから雨宮の意見に対して、無理に食ってかかり過ぎなんだよ。普通じゃない。そりゃお前にとっては、生きててもらいたい人間だからな。如月が生きていて欲しいと考えるのはわかる。だけど、それを否定する何かをみたんだろ」


断定的な言葉だった。反論を許さない目。獲物を狙うネコ科の猛獣のように、宮原を見ている。


「違う、私はみていない。私が見たのはヤヨイちゃんだけよ。本当に、本当よ」


全員から疑いの目を向けられているのを感じたのか、雨宮に助けを請う。


「ねぇ、雨宮君も見たでしょ。はっきりヤヨイじゃ無いと分かったわけじゃ無いんでしょ?」


「宮原、僕が見たのは」


「いや!聞きたくない!ヤヨイちゃんは生きているもの、もうそれでいいじゃない!」


サトネの絶叫を最後に議論は一時中断した。

みんな、これ以上宮原サトネを追い詰める気を無くしてしまったのだ。



「で、実際のところ大神はどう思ってるんだ?」


この問答を大きくした本人である大神に、宮内が尋ねた。


「さっきのローブの件だったら、俺は最初から犯人は如月じゃ無いと思っているよ。今のでその確信は強くなったって所だ、でもまあ、この話はこれくらいにしよう。どっちにしても、脇道の話だし。まだ、犯人はこの中なんだから」


急に会話が引き締まる。結局宮原だけは顔を伏せているままだったが。


「如月さんって便宜上そう呼ばせてもらうけど、彼女も言っていたように、ただ消去法で時間をかけていくのは賢い選択じゃ無いのかもね」


三条の声は深刻だ。結局また疑わなければならないんだから。


「じゃ、じゃあどうするの?」


尋ねる近藤シズクの声は震えている。


「わかんない。わかんないけど、何とかして論理的に導かないと。鈴木君には悪いけど、彼みたいに選んでも仕方無いんだよ。犯人の可能性じゃなく、その人との友好度合で人を見てるようじゃ。こんな事言いたくないけど」


「あんまり自分を責めるなよ。三条、鈴木が選ばれたのを自分のせいみたいに捉えると良くない」


雨宮がフォローを入れるが、三条は聞き入れない。


「いえ、でも、私のせいって部分はあるよ。犯人の可能性じゃ無く感情で選ぶなって、鈴木君も主張していたもの。でも、私それを黙殺しちゃったんだ」


「あのときは、如月と親しく無かったやつらの中に犯人が居るって話になって、親しくない方だから、全員が同じ位あやしく無くて、仕方無く選んでたんだ。公平だったんだよ」


「そう、かもね」


 彼女の意見は一面では、正しい。感情として鈴木ヨシヒコを切り捨てた部分があるのだろう。

だが、その選択が間違っていたとは誰にも言えない。みんながみんなして切り捨てたのだから。


「とにかく、次の事を考えよう」


その言葉に今まで黙っていた、佐々木ヨシノが言った。


「ねぇ、もうさ犯人に名乗り出てもらおうよ」


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