第十七話 3人目の犠牲者
「じゃあ、今度の犯人は鈴木君で」
クラス会で係りを決めるときのように淡々と三条ツバサの乾いた声が告げた。
冷酷な声には、感情を宿さないように、抑揚が抑えられ機械の声のようだった。
時刻はもう直ぐ、12時となる。
この衝撃的な日が終わる。今まで想像もしていなかった事が起きたこの日。
しかし、この日が終わったからと言って、それで終わりではなく、日をまたいでも最悪の夜は
続いているだ。
みんなの気分は最悪だった。
次の犯人に指名された鈴木ヨシヒコはただただ嗚咽を漏らすのみだ。
最終的な決定を告げた三条や、議論をリードしている大神、雨宮の顔は凍ったように固い。
それに対して、議論には消極的な近藤、佐々木、宮内は、まるで自分が犯人に指名されたかのように、
顔を青くし、じっと考え込んでいる。
如月と同様に、皆の処刑を望んでいる宮原だけは、満足そうに次の犯人見ているだけだった。
三度目の処刑、四度目の足音は時間ぴったりに聞こえて来た。
日付が変わる時報を告げるように、一歩一歩、上履きの音が聞こえる。
1時間前の緩んだ空気と違い、全員が再び緊張していた。
南谷が犠牲になってくれた1時間前がどんなに良かったことだろうか、みんなして救助が来た時の事を
想像できたあの時間が今になっては滑稽に思える。実際には、助けなどみじんも無かったのだから。
姿を現した如月ヤヨイは、いつものようにおどけた調子だ。ここにいる他の誰とも空気が違う。
「みんな、前の時間より緊張しているね?どうしたのかな。だんだん人数も減ってきてるし、不安になったのかな。それとも、・・・・・・・・・・12時になっても何も無いのが不安なのかな?」
その言葉に大神が噛みついた、
「12時になっても、何も無いって言ったな。逆に聞くけど、12時になったら何かあるのか?」
「うん?大神君の家はこんな時間に外出してても許されるのかな。普通なら許されないから、家族の人が
探しに来るんじゃないかとか、期待してるのかと思って。でも、残念ね。そんなことにはならないから」
そっけない形で決定的な事実が知らされてしまった。
まあ、この時点で何も動きが無い以上、全員そのことは分かってはいたが、それでも救助の見込みが
全く無い事を知らされるのは大いにショックだった。
「そうかよ、全部対策済みってわけだ」
大神の吐き出した声は負け惜しみにしか聞こえなかった。
「まあ、その位は想定してるからね。さあ、雑談はこれくらいにして、次の犯人指名してもらおうか、じゃあ鈴木君から」
びくっとヨシヒコの肩が震えた。いきなりの指名に戸惑い、肩を震わしながら
「僕は・・・・・・”鈴木ヨシヒコ”を犯人に指名する」
ただそれだけを言いきった。
「あれ?また、自分の事を犯人だって言うんだ。南谷君の時と同じだね、みんなのために犠牲にってやつ?
そんなやり方してたんじゃ、犯人分からないよ」
やれやれといった様子で首を振る如月に、鈴木がキレた。
「みんなの為に犠牲にだって!そんな訳ないだろ!みんなが僕を指名したんだよ、逃げられないんだよ。ただそれだけだみんなの為にだなんてこれっぽっちも思ってないね。みんなに殺されるようなもんさ、言っとくけど、お、俺はもし死んだら全員恨むからな!俺を特に理由もなしに選んだやつらを徹底的に恨むからな、
南谷みたいにいいやつだと思うなよ、絶対、絶対に許さないから」
鈴木の表情は、もし体が拘束されていなければ、全員に掴みかかって首を絞めかねないほど、怒りの形相に歪んでいた。
「どっちにしても、犯人探しをまともにしないで、消去法を使って感情で選んでも無駄だからね」
おどけた調子を落として、如月はそれだけ告げると、再び声を明るくして、
「じゃあ、全員一致で鈴木君でいいんだね。それだと、こっちも早くて助かるな」
と言うなり、ヨシヒコに歩み寄り、その腕に針を突き刺した。
何度見てもその光景の異様さは変わらない。
真っ黒のローブをまとった如月はまるで、死者を選ぶ死神のように、椅子で出来た円の外側を周り、
選ばれた死人の背後にかがむと、椅子に固定された腕に注射針を突き立てる。
犠牲者の顔も見ずに、たんたんと処理する。
すぐに、ヨシヒコの顔から怒りの形相が消え、もう何も浮かばない死人のような顔つきに変化した。
何も抵抗せずに、あっさりと落ちていった鈴木に満足そしたように、如月が歩き出そうとすると、
不意に、その真っ黒いローブがずり落ちた。ローブの下からは、女子の制服姿が現れる。
すぐに、如月は、全員の目線から顔を逸らすように顔を廊下側に向ける。
良く見ると、ヨシヒコの指先にローブの端が引っ掛かっている。
偶然か、それとも最後に力を出して引っかけたのか。
如月は慌ててひったくるようにして、ローブを手にするとその場ですぐに被った。
「それじゃあね、みんな残念だけど、まだ犯人は居るから、犯人探しは続くよ」
焦った調子で、素早く告げると、教室のドアも閉めずに廊下にかけだした。