第十四話 混迷
円形に座った生徒達は、今はもはや敵同士だった。
自身が助かるためには、他人を蹴落とす必要がある。
最初に口火を切ったのは、今までも議論をリードしてきた大神だった。
「じゃあ、とにかく次を決めるよ。さっきは、決め方と言ったけど、細かいルールなんて結局決めようが無いと思う。だけど、とりあえず時間だけは守りたいから、時間の10分前になったら全員で決を採る。発言の順番も問題になると思うけど、これは決められないから各自言いたい人から。基本的には前言撤回は無しで、票数が同じだったら決選投票。っと、こんなところか。なるべく公平なようにしたけど、不満があったら言ってくれ」
「いや、それでいいよ。もう、他に方法も無いし。早く議論に入った方がいい」
「大神君の言った方法でいいわ」
「そうか。反対が無いなら、このやり方にさせて貰う。もし問題があったらその時に全員で検討することにするか。それで、一番はじめに話したいのだが、次回の犯人は宮原を指名したい」
全員の動きが一瞬止まる。いきなり、言葉の爆弾を放り込んだのだ。
そしてその一言で全員が戦場に放り込まれたのだ。
一方でその大胆な発言をした本人は、いたって普通の顔をしていた。
「まあ、もう余計な議論をする時間も無いからこれでいいだろ。宮原を指定する根拠だが、犯人であるかどうか。という事よりも、これから話合いをするのに不安要素を排除したいからだ。俺達の中に、如月側の人間がいるのはちょっと許容できない。不安をあおる結果になると思う。だから俺は、一番に宮原を押す」
理論的な理由であって、でも本題からは外れた理由。それをあえて大神は口にした。
「ひとつ確認したいのですが、私がヤヨイちゃんをいじめていたと言うのですか?」
「いや、その可能性は低いと思うが、それでも話合いをする上で邪魔だと思うだけだ」
「大神君らしくない論調ですね。感情で判断するなんて、私はまあ、全員処刑でもいいと思ってはいるけど、それでもヤヨイちゃんについて一番詳しいのは私です。その私を排除してしまったら、本物の犯人を見つけるのが難しいのでは無いですか」
「そうだぞ、大神。お前の言う不安要素というのも良くわかるが、でも僕は議論の邪魔になるからとか、そういう方針で処刑を決めるのは良くないと思う」
雨宮が横から口を挟んだ。
「だが、さっき宮原自身が言ったように、宮原は全員が罰される事を目標においている所がある。そしたら、みんなの知らないヤヨイやいじめについての情報だって捏造しかねないぞ。特定の誰かが怪しいように仕向けたりって事も可能だろ」
「それを言ったらそうだけど。ねえ、宮原さん。宮原さんは本当に全員の処刑を望んでいるの?」
「ええ、全員が罪があるのだから当然ね。ヤヨイちゃんは、生き残る可能性のある処刑を選んでくれているのだし、全員一度処刑を受けるべきね。」
三条ツバサの希望のこもった発言を宮原サトネはあっさりと切り捨てた。
「そっか。でもさ、私たち全員を処刑送りにする前に、本物の犯人が誰なのか知りたくない?宮原さんだっていじめの犯人を知らなかったんだから全員処刑って前に、先に犯人を知りたいと思わない?それなら」
「言いたいことはわかったわ。なるほどね。私も犯人を知らないし、全員処刑されろと考えてはいるけど、犯人を知りたいって意見が一致するなら全員で協力できるって事ね。いいわよもともとそのつもりだったけど、情報提供します。嘘は言いません。これでいい?」
大神は、やれやれというように頭を振った。
「今の発言があっても、申し訳ないけど。全面的に信用ってわけにはいかない。嘘をつかない保障なんて、無いんだから。というより……」
「というより?」
なぜか、途中で言葉を切った大神は慌てたようにフォローした。
「いや、なんでも無い。ちょっと考えついた事があっただけだ。とにかく俺は信用しない」
「ご自由に」
宮原の方は落ち着き払っている。
このやりとりで、自分の処刑は無いと考えているのかもしれなかった。
「私は」
次に声をあげたのは、三条ツバサだった。
「さっき話だけど、最初から犯人を捜した方がいいと思う。なるべく多くの人が助かるためには、それしか無いもの。だから、宮原さんの処刑は反対です。それで、変わりに質問なんだけど。宮原さんは誰があやしいと思っているの?一人目は、山里さんでしょ?南谷君は別だとして、誰があやしいのかな。」
宮原サトネは、考え事をするように天井に目を向けるとしばらく唸った。
「私も、ヤヨイちゃんを救ってあげられなかった以上、えらそうな事は言えないけど。犯人はヤヨイちゃんと多く接触していた人だと思う。クラスでは、そうね。私と三条さんと、佐々木さん、男の子なら宮内君くらいかしら。この中に居ると思う。自信はないけれど」
いきなり自分の名前を言われて三条ツバサは驚いたようだった。
「私も入ってるの?」
「誰だって例外は、無いわ。クラス内でのいじめであるならこの中に居る可能性が高いってだけ。例外は無い。事実わたしの名前だってはいってるじゃない」
「なあ、男で俺だけ入っている理由はなんだ?」
「宮内君が一番しゃべっているってだけよ。他に判断材料は無いもの。私としては、今の人達をローラー作戦でつぶしていってもいいけれど」
「ローラー作戦ってなんだよ」
宮原の言い方が気に触ったように、宮内ツトムが突っかかった。
「私としては全員の処刑が目的なんだし、今言った人達を順番に指名していけばいいんじゃ無いかってだけよ」
宮原サトネだけは、このゲーム自体をみんなと別のルールで考えている。それを意識させられた瞬間だった。彼女は、本当にフリーな存在だ。全員が処刑される事を望んでいる以上、下手に犯人が分からない方が彼女にとってはいいのだ。
もっと正確にいえば、彼女は感情から犯人が誰であるか知りたいと思うだろうけれど、同時に戦略上は他のクラスメイトに犯人が誰であるか知られたく無いと思うのだろう。
「そのローラーってのは、極端だがよ。如月さんがいじめを受けていたのをクラスの誰も知らないってのはおかしいんじゃ無いか。良く話していた人が犯人ならむしろ態度とかに出て誰か気づくだろ。逆に普段は話さないで、メールを送っていたとか掲示板上でいじめられていたとかそういう事なんじゃないか?」
宮内ツトムが反論に打って出た。