第十三話 サバイバル
時間が経つ
希望がやってくるはずの時間までは待ち遠しく
希望がやってこなかった後の時間はうらめしい
時間の経過だけは、止めることができない。
次の罰までの時間が近づいて来る。
そして、救助はまだ来ない。
始め生徒たちの頭にあったのは、脱出してからの行動についてだった。
誰か救いの人が現れた時、如月に気づかれないように、相手が騒がないようにすぐさま小声で、
手足の枷を外してもらうように頼んで、罰を与えられた二人を連れて救急車を呼んで。
どちらにしても、手足の枷がなくならない限り、自力で何かをする事ができないので、救助が来た時点で何かができるわけでも無いのだが、
せめて救助の人が何も道具を持っていなかった場合を考えて、ガムテープを切れる道具がある場所を思い浮かべる。美術室か、職員室が近いか。
いや、カバンの中にハサミ位ならあったか?
そんな妄想は本当に無意味だ。救助さえされてしまえば、ハサミが手に入るまでの時間の差なんて合って無いような物なんだから。
夜の校舎には静寂を破ってわずかに虫の声だけが聞こえ始めた。秋のきれいな虫の音色でも無く、何となく虫が鳴いているとしか意識されない。
特に無くても、それはそれで済んでしまうような。意味の無いワンシーン。
校舎の中で物音がしないどころか、付近を通る車の音すらしなかった。
先生が来るにせよ、親が来るにせよ、警察が来るにせよ。
車で来ないというのも、おかしい。救助に向かっているのなら、車の音位はしても良いはずだ。
犯人を刺激しないため?
それならもう到着して準備しているのか?
でも、教室の様子なんて外からは、わからないし。
外からパッと見ただけでは、この教室に異常なんて無いはず。なら、犯人を刺激するなんて考えずに入って来るのでは?
もしかして、もしかしたら、まだ誰も探し始めていないのだろうか?もしくは、如月ヤヨイが何らかの方法で情報を攪乱をさせていて、親達は必死で全然見当違いのところを探しているのだろうか?
そして・・・・・。もし、この夜のうちに助けが来ないというなら。
もしそうなら、南谷君を前回犯人に指名したのは、間違いだった・・・・・・のかもしれない。
救出の時を今か今かと待っていた、生徒たちの心は、段々と恐怖に支配されていった。
最初は、救出されない恐怖に、徐々に前の自分達の判断が間違っていたのではないかという考えに。
「間違いだったのよ」
佐々木ヨシノが口を開いた。全員の視線が、集まるのも待たず。廊下に響くような声で言った。
「南谷君に庇ってもらって、全員で生き残る事が間違いだったのよ。もう誰も、助けになんて来ないわ。アイツが、アイツが私達の親とか先生とかに、適当に嘘ついて、誰も探しに来ないようにし向けているのよ。何日もの間隠すわけじゃない!たった1日位なら、友達のところに泊まっているとか、なんとか言えば、親だって探しに来ないのよ」
「落ち着け!近藤さん。声大きいよ。ちょっと冷静にならないと。」
慌てて、雨宮ケイが声をかける。
喉が渇いていて、まともな声になるまで少し時間がかかった。
「声の大きさなんて関係ないわよ。どうせ、外には届かないし、アイツは処刑を確実に実行する以外に興味が無いんだから。騒いだって無視するでしょ!だから、もう決めるしかない」
「落ち着いて佐々木さん。南谷君がみんなのために、先に罰を受けてくれた事が、無駄になったわけじゃ無いのよ。本人も言ってたけど、南谷君は助かる確率が高いって、だから。だから、落ち着いて考えよう」
「考えても無駄よ。三条さん。どっちにしても最初から私たちには、自力で助かる手段が無いんだから」
その言葉は、反論を許さなかった。2時間前なら反論したであろうことでも、今は反論できる者はいない。
夜の12時まであと少し、それなのに誰も探しに来ないというのは、普通の事態ではない。
捜査の妨害か、情報の撹乱か、何にしてもこの場所に人が来ないように、如月ヤヨイが手を打っているのは間違い無いように思える。
そして、何かしらの手を打っているのなら、それは明日の朝までこの学校に来ないような手なのだろう。
「私は・・・・冷静だよ。私が・・助かる方法は、もう一つしか無いの。誰かが助けに来てくれる可能性は、もうゼロなんだから。こうなったら、アイツの言う通りになるのはしゃくだけど。やるしかない。私たちの中に居る犯人を見つけ出すのよ!」
彼女の眼には、何か吹っ切れたような、冷静さがあった。
自分の感情なんかを吐き出しすぎて、がらんどうになってしまった、心が計算されたように動き続けている。そんな、感情の無い声だった。
弱々しいと思っていた、佐々木ヨシノの思いも寄らない発言で、場は乱れた。
いや、待って。
落ち着いて考えないと。
でも、他に方法は。
佐々木さんは、興奮してるけど・・・言ってることは、正しいかもしれない。
「いいじゃない。犯人探し、私とヤヨイちゃんの目的にも沿ってるし。みんなで罰しましょう?」
山里ユウコを選択して以降ほとんど、発言の無かった宮原サトネが唐突に発言した。口元には笑みすら浮かべている。
「そういや、あんたはそういう立ち位置だったわね」
宮原を睨みつけるように見るとあきれたように、首を振る。
「敵のスパイが仲間内に居るってのもぞっとするわね。でも、いいわ。それも含めてこれから決めましょう。どうせ、どうせ全員で助かる事なんて出来ないんだから」
誰もが暗黙で認めているようだった。
すなわち、全員で助かる事をあきらめ、各自が考える犯人を指定しあうしか無いという事を。
それでも、確認のために大神が全員に尋ねた。
「じゃあ、念のためと。時間までに、確実に一人を決めるために、一応確認とるな。ここからは、全員で助かることを目指すんじゃない。やりかたは、後で話すとして、
方針としては、ここからは各自で犯人を蹴落とす形になる。いいね?」
力強いうなずきなど無かったが、それでも全員がうなずいて見せた。本当のサバイバルがこれから始まろうとしていた。