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疑う円環  作者: 夏樹 真
2時間目
13/32

第十二話 二人目の犠牲者

 学校の空気はシンと澄んでいた。


 教室にある人影は、みな一言も発さず、身じろぎもせずに、罰の執行者を待ちうけていた。沈黙は、不安からでは無く、自らを責める心がそうさせたのと、現実的な意味としては罰の執行者を刺激しないためであった。


窓さえ開いていないこの教室では、人が動かなければ当然何も動くものが無い、わずかに呼吸のための動作と不安げにチラチラと扉の方向に目を向ける動作だけが、短くも長い執行までの数分間の間延びした時間を支配していた。


もうすぐ、時刻は11時となる。


 普段ならあるものにとっては、既に就寝している時刻であり、あるものにとっては勉学に励んでいる時間、友達と長電話している時間、ネットの掲示板を眺めている時間であったはずの時間に、

なんで自分たちはこんな状況にいるのかと、自問し諦観しながらそのときは来た。



1時間前とまったく同じように、足音は聞こえ始めた。




パタッ、パタッ


規則的な音は、前回と全く同じ音程で響く。

車の音も無い、耳が痛くなるほどにシンとした夜の校内に単調に足音だけが響く。



 全員が身構える。1時間前の再現がされる恐怖と、もし罰の内容が変化していたら、という不測の事態を迎えることの恐怖。


ガララ


そんなことを感じているうちに、普段と全く同じように教室のドアが開いた。



1時間前に出て行った黒ずくめの姿がそのまま現れた。

ゆっくりと進み、教壇に立ち、全員の方を向く。足の運びになれたように1回目よりも淡々と進んでいく。



「みんな、今回はすぐに決めてね。さっきみたいに、長引いちゃうのは嫌だからね」


 明るい声で告げ、全員の顔を見す。その顔はフードのように覆いかぶさった布に隠されて見えないが、

やはり、本物の如月ヤヨイなのだろうか?


 それでも、全員少しだけ安心する。特に、いらいらしている様子も無く、怒っている様子も無い。

今のところだけど。変な事態は起こらないだろう。特に問題なく、南谷が犯人となって罰を与えられるだろう。



「さあ、今回の犯人を指定してください」



雨宮から順番に1人ずつ南谷の名前を告げた。佐々木ヨシノも、弱々しくだがはっきりとその名前を告げた。



「あれ?今回は、南谷君に意見が集まってたんだねぇ。本人も自分を指名してるし、どんな相談や告白があったのか知らないけど、これは本物かもね」


答えが分かっているはずの如月は、まるでとぼけた調子でおどける。



「サトネも南谷君でいいの?まぁ、全員の意見を公平に扱うけど」

如月は突然に宮原に話を振った。

やはり、宮原と話をしたがる辺り本物なのだろうか。


「・・・。私もいいわ。どうせまだ続くでしょうし、本命はこれからって事で一緒にがんばろう。ヤヨイちゃん」


「本命はこれからか。ふふ、なるほどね。まぁそういう事ならいいわ。今回が本命とも、本命じゃないともまだ言って無いんだけどね~」


「本物でも、偽者でも分け隔てなく罰するんだったろ。本物かは、いいから次に進めてくれ!無駄に長くして、俺たちとユウキの事を苦しめないでくれ!」



 ツトムが、そのふざけた空気を壊すように言った。

如月ヤヨイのしゃべり方がどうしても気に障ったのだ。

ツトムからすればそれは、命をかけて志願したユウキを馬鹿にするしゃべり方だった。



ツトムの突然の発言は、如月の事を刺激しかねない言葉だったが、特段気にした様子も無く。



「別にこのくらいの雑談の時間くらい。どーって事ないでしょ。

ふーん。まぁ、いいけどね。協力的なのは助かるし、次の時間もこんな風に決めてくれると嬉しいな」



早く終わったおかげなのか、如月は少し発言がやわらかく。上機嫌みたいだ。



「次の時間があるってことは、南谷は犯人じゃないって事か?」



刺激されても暴走することは無いと見て大神が、如月に突っかかった。


「あっ、そうね。それもヒントになっちゃうか。・・・・・・まぁ、確定した後だし、もう変更できないからね。それに、続行するかどうかの判断はどっちにしたって伝えるんだから・・・。うん、うん、・・あんまり、ヒントにもなってない関係の無い話ね」



たいして考えること無くそう告げながら、南谷の座る椅子の前にまで進む。



「それじゃ、さっさとやりますか。抵抗しても無駄だし、南谷君は受け入れているみたいだから、じっとしててね。そう、そんな感じで。じゃあ、お休みなさい。長い眠りか、短い眠りかどっちかしらね」



山里ユウコの時と、同じように注射器を取り出し、腕に当てる。



「みんな、救出頼むな!俺は、生き残るから!」



言葉を無視し南谷の腕に、注射器が突き立てられる。


「さっき、語ったからもう多くは、言わないとにかくがんば……って……」


俺ちゃんと最後まで強がれたかな……

最後まで言葉を言い切る事無く彼は沈黙した。



 彼が黙ってしまう瞬間をみな食い入るように見ていた。

それは、命が消えていく瞬間かそれとも、わずかばかりの休息の時間か。見るのは2回目でもこの緊張感には慣れない気がした。


「これぐらい早く終わるといいわね。1回目が長すぎたわ。さっきまでの話で、見当ついた人もいると思うけど。まだ続くからね。じゃあ、次回も決めておいてね。それじゃあ」


あっさりと、話を終わらせると如月ヤヨイは退室した。



 彼女が来る前と変わらぬ静けさが教室に戻った。

変わったのは、罰されて黙ってしまった人間が一人から二人に増えたところだけ。


それさえ除いてしまえば、何も変わってないとすら思える。

みんな黙りこんでいる。


 今度は、南谷の死を悼んでいるのか。それとも死なないことを祈っているのか。自らが生き残る戦略を考えているのか。




「ともかくさ」


雨宮ケイが切り出した。


「今回は無事に乗り切れたんだ。罰の方法は、誰のときでも変わらないし、穏やかに進めば、10分もあれば話は済んでしまう事もわかった。今、思ったんだけど。如月さんがこの教室に居る時間は短い方がいいと思う。もし、救助が来ても鉢合わせしたら面倒なことになると思うし」


 返事を返す者は居ない。

そもそも、彼らのここから先の戦略は、外からの救援が来なければ始まらないのだから。


縛りつけられた手にイライラしながら力を込めて雨宮は続けた。


「ともかく、今は救出を祈ろう。後は、外の音にできるだけ気を配って。それしか方法は無いんだから」


雨宮の悲痛さも分かったのだろう。みながうなずいた。


大神だけは、一瞬ニヤッと笑ったような気がした。


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