第9話 あるぅ日~森の中~クマさんに♪ 出会った~♪
※クマが出ます。
陸の孤島学園の売りは四方を囲む山である。
山である以上、木が生えている。
木のあるところ、虫はいる。
「カブトムシ氏、くるかなぁ~」
「どうだろうなぁ~」
真城は森の中に立っていた仕切り板を一枚引き抜いて、よさげな木の側に立てると蜂蜜を垂らした。
蜂蜜を垂らした板は何枚かあって、森の境界線を描いていた板は何枚か歯が抜けのようになっている。
仕切り板を適当なところに立てた真城は、少し離れたところにしゃがみ込み、板を眺めていた。
真城の隣でしゃがんでいた黒江が疑問を投げる。
「でもさ。木に直接、蜂蜜を垂らしたほうが虫は寄ってきやすいんじゃね?」
「木の板のほうがカブトムシ氏が来た時、分かりやすいじゃん」
黒江は、分かりやすいから来にくいのでは? と思ったが、真城があまりにワクワクと表情を輝かせていたので口にはしなかった。
真城は板をジーーーーッと見ている。
黒江は真城をジーーーーッと見ている。
セミはジーーーーッと鳴いている。
「セミうるせぇ」
「ああ、セミうるせぇ」
真城が嘆くと黒江は同意した。
ガサガサガサ―ッと葉っぱを揺らして地面で鳴いているのは、ファイナル間近で地に落ちたセミだ。
「うおっ」
「びっくりしたぁ~」
真城に向かってきたセミが突然軌道を変えて黒江にぶつかった。
断末魔をあげながら落ちてくるセミは無敵なので体当たりをかましていくやつもいる。
真城は目を丸くして地面を見た。
「あー地面……よく見たらセミがいっぱい落ちてんな」
「ああ。茶色だからわからん」
「わからんといえば、セミって抜け殻のほうがしっかり木に残ってるのに、地面におちてくるのが意味わからん」
真城が、ジジジジジジィィィィ―ッとうるさく鳴いて羽音を立てながら落ち葉を掻きむしりながら地面に背中を向けてを飛んで行くセミの軌道を追いながら視線を動かしていくと、黒いつぶらな瞳と目が合った。
「ん?」
「どした真城?」
黒江が真城の視線を追うと、黒いつぶらな瞳と目が合った。
「うわっ⁉ クマ⁉」
黒江が思わず声を上げた。
巨大とはいえないが、そこそこ大きい黒いシルエット。
黒い毛皮に首もとには三日月形の白い毛がある。
その視線の先にいるのは小型とはいえクマ。ツキノワグマだ。
小型のクマといっても、犬よりも大きいしふっくらしているし、腕も太い。
そしてマッチョだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「真城⁉」
真城の叫びに驚く黒江。
「真城、あんま叫ぶな。刺激したらいけない」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
頭では理解しているのか真城はコクコクと頷いているが悲鳴は止まらない。
走って逃げようにも腰が抜けたようになって尻をずっているし、そもそもツキノワグマのほうが足も速いだろう。
だいたいがツキノワグマもビビりなので、人間を食べようと思って襲ってくるようなことはない。
ツキノワグマのほうも真城のように腰を抜かしながら攻撃してくる、まであるだろう。
「まずは落ち着け、真城」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
黒江に右手で服を引っ張られ、左手を口に当てられながら、真城はコクコクと頷いているが叫びが止まらない。
「うわっ、エリザベス。お前、またこっちに出てきたのかっ!」
そこにマッチョが現れた。
「「寮母さんっ!」」
黒江と真城が両手を繋いで縮こまっている前へ飛び出た寮母金之助は、近くに刺さっていた板を両手で掴むと、こちらに突進してきたツキノワグマに盾のようにしてバーンとぶつけた。
突進してきた自分の勢いまで板を通して返された一撃を鼻先に浴びたツキノワグマは、ふらふらになった。
そこを金之助がもう一撃、板を使って与えると、ツキノワグマは山肌をゴロゴロと転がって落ちていった。
「エリザベス。もう来るなよ!」
転がっていくツキノワグマを、金之助は笑顔で見送った。
「君たち、板は抜いちゃダメだ。コレ、害獣除けだから」
笑顔で注意する金之助へ、黒江と真城は手を握り合ったままコクコクと激しく頷いてみせた。
「明日から休みだからと念のためにチェックをしにきてよかったよ」
金之助はニコニコしながら木の板をザクッと元の位置へと戻す。
木の板の蜂蜜を垂らしたあたりには、ツキノワグマの黒い体毛がベッタリとついていた。
※陸の孤島学園周辺のクマは訓練されたツキノワグマです。よく鍛錬した寮母さんがいない環境下では出会わないのが一番です。正しい対策で安全に森を楽しみましょう。




