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煌めくままに恋しよう  作者: 天田 れおぽん @初書籍発売中


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8/10

第8話 森行くぞ、森

「同じ部屋でいいじゃん」

「いやダメだろ?」


 黒江は真城と同室になる、ならないで揉め散らかしてイチャイチャしていた。

 だからこめかみに青筋浮かべた寮母さんから声をかけられたのは必然である。


「君たち。もう食堂は片付けるから帰りなさい」


 割烹着の腕をまくっている寮母金之助(きんのすけ)が、デカい手をテーブルの上に置いて2人のほうに顔を寄せた。

 かなり離れてはいるが、体が大きな金之助(きんのすけ)にズィと近付かれると遠近法が狂う。

 2人は体を縮こまらせてグッと後ろに反った。

 それでも反論するは忘れない。


「えー、いいじゃん。オレたちお話しているだけだからぁ~」

「そうそう、俺たちは大切な話が……だからもうちょっと……」


 真城がそう言えば、黒江も同調する。

 しかし我が儘な高校生を扱いなれている金之助(きんのすけ)にささやかな抵抗など通じない。


「ダーメ。ぼくは明日からお盆休みに入るから、食堂を片付けておきたいの。君たちは帰りなさい」


 真城と黒江は、笑顔の寮母金之助(きんのすけ)につまみ出されるような形で食堂を後にした。


◇◇◇


 真城は、ブツブツ言っている黒江を従えて廊下を歩きながら、提案する。


「カブトムシとりにいこう、カブトムシ」

「またそれか? 今の時間だとセミしかいないだろ?」


 あきれ顔の黒江を気にすることなく、真城は意志を曲げない。


「セミが目立つだけだよ。あいつらうるせぇから。森にはセミも、カナブンもいるけど、カブトムシやクワガタだっているって」

「だって見つけられないじゃん」

「探し方だよ、探し方。カブトムシ氏やクワガタ氏は、時間帯で生きたり死んだりしているわけじゃないんだから、どっかにいるよ」


 カカカッと笑う真城に黒江は引きずられるようにして森へ行くことになった。


◇◇◇


 陸の孤島学園は四方を森に囲まれているので、360度どの方角へ向かっても森がある。

 とはいえ森は危ないので、生徒が出ていけるところは校庭の脇、食堂を挟んだ奥からのみだ。

 食堂を出た真城たちは上履きから靴に履き替えて、森を目指した。


「せっかく食堂まで来てたんだから、靴もってくればよかったな。下駄箱まで行くのマジだるい」

「カカカッ。黒江の筋肉は本当に張りぼてだな。昇降口まで回ったって、森まですぐじゃん」


 真城が元気に森を目指す後ろを、黒江はトボトボとついていく。

 午前中ということもあり、森を抜けてくる風は若干涼しい。

 だが今日も見事な晴天だ。

 じきに熱風が吹き抜けていくようになるだろう。


「親たちはココが高原のリゾート地だと勘違いしているよね」

「あー、そうかも。高い場所にあるのは確かだけど、合ってるのはそこだけ」

「だよねー。山の上にあったら全部リゾートってわけじゃないよー」


 真城はカカカッと笑った。

 黒江は嘆く。


「あー、遊びに行きたい。金欲しい~」

「キャハハ。金があっても遊びに行くトコないじゃん」

「それなー」


 ここは陸の孤島学園。交通手段がそもそもない。

 強者の運動部員であれば自転車で坂道を下って街へいくという選択肢もあるが、帰りは急な上り坂だ。

 路線バスのバス停が近くにあるといっても、田舎基準の近くである。

 しかも急な上り坂だ。

 バス停から歩いてかかる時間で、下手したら映画一本見られる。


「しかも黒江は筋肉張りぼてで体力ないし」

「それなー」


 真城は近くに落ちていたイイ感じの枝を拾う。

 黒江も真城に倣ってイイ感じの枝を拾うと、それを振り回す。

 軽くチャンバラのように枝と枝をぶつけ合いながら、2人はキャッキャしながら森へと入っていった。


 小石の混じった土を踏みしめて進む。

 下草を踏み潰せば、土の香りに植物の香りが強く混ざっていく。

 高く伸びた木に茂る葉っぱの隙間から落ちてくる光。

 降るようなセミの声。


「うるせぇ。マジ、セミうるせぇ」

「ハハハッ。そうだな。マジでセミうるせぇ」


 2人笑いながら先を進む。

 蚊や名前の分からない小さな虫たちが体にまとわりつくように飛んで行くのも笑い飛ばしながら、先へと進む。

 何がおかしいのか分からないまま笑う。


 回りにあるのは、木と、草と、土と石ころ。

 なのに妙に楽しくて、ただ笑う。

 意味が分からなくて、意味のない時間を過ごしながら先を進めば、進入禁止ゾーンとの境目に立てられた仕切り板が見えてきた。


「意外と行ける場所って狭いよな」

「ああ狭い」


 真城は森の中に刺さった仕切り板を眺めて言う。


「森の中といっても、あんまり奥まではいけないから、つまんないね」

「そうだな。でも奥のほうへ行くとクマとか出るらしいぞ」

「マジか⁉ クマはヤベェ、クマは」


 真城はケラケラと笑いながら、ポケットから出した蜂蜜を板の上に垂らした。


「何してんだよ?」


 黒江が眉をしかめながら、不審そうに真城の手元を覗き込む。


「ん、虫を呼び寄せようと思って」

「あー、餌か?」

「うん。餌」


 ニコニコしている真城に、黒江は疑問をぶつけた。


「つか何でお前、蜂蜜なんて持ち歩いてるんだよ?」

「高校生って腹減るじゃん? いつでも大丈夫なように色々と……」


 真城のポケットから出てくるお菓子やら飴やらを眺めて、黒江は「お前の服のポケット、どうなってんだよ……」と呆れながら呟いた。

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