第7話 黒江は部屋交換を希望する
「坂下。お前、俺と部屋代われ」
唐突に言い出した黒江の目は座っていた。
「えー? おれがよくても真城がさぁ~」
坂下は糸目を更に細くして笑みを浮かべて間延びした声で言った。
「真城ぉ~」
「いやー黒江。そんな捨てられた子犬みたいな目で見たってダメだ。オレはお前と同室にはならない」
「なぜだ?」
黒江がいじけるように言うと真城は誤魔化すように説明する。
「オレさー、いびきかくんだよね」
「いいじゃん。息してるって感じで。俺は気にしない」
「いやいやいやいや、オレが気になるんだって」
「いびきが酷いと無呼吸って場合もある。万が一のことがないように俺が見守っていてやるよ」
黒江がガンギマリの目で真城に迫る。
「いやぁーそれはどうかなー。いびき聞かれるの恥ずかしいし」
「俺は気にしないっ」
「オレが気になるっつーの」
「じゃ、坂下はいいのかよ」
黒江から突然話を振られた坂下は、自分を指さして真城をみる。
「あー、坂下は平気。コイツってば、スーちゃん一筋だから」
「なんだそれは」
真城の言葉に黒江が突っ込む。
「坂下ならいびき聞かれても恥ずかしくない」
「おれも真城にいびき聞かれても平気~。自分のいびきで目が覚めるときもあるくらい、おれもいびき酷いけど真城なら聞かれても気にならなーい」
「ははっ。オレも坂下なら、何を聞かれても気にならない」
坂下と真城は黒江の前でキャッキャッし始めた。
「オレ、坂下が相手だと何も気にならなくて、いびきどころか寝っぺ聞かれても平気~」
「おれも~」
「それは気にしようよ?」
2人の会話を聞いていた黒江は軽く突っ込んだ。
真城はコクコクと頷きながら言う。
「いびきって不思議だよなぁ~。苦しくて目が覚めるって話もあるけど、自分のいびきで目が覚めたときって、めっちゃスッキリしてる時あるよね?」
「あるあるあるあるっ~」
真城の言葉に思い当たる節があるのか坂下はケタケタと笑っている。
「それってストレスじゃないの?」
同じクラスの謎の人、杉田が右手に文庫本を、左手に空いた器の載ったお盆を持って突っ込みながら、真城たちの座っているテーブルの横を通り過ぎていった。
「ストレス⁉」
黒江が衝撃を受けたように目を見開き、口も開いたまま、肘を曲げた右腕を口元辺りに持ち上げて何かをブロックするかのような姿勢のまま固まった。
そして唐突に頭をかきむしり始めた黒江は、天井に向かって叫びだす。
「ストレスなのかっ? 実は俺の存在がストレスなのかぁぁぁぁぁぁ⁉」
「うわっ。なんだよ黒江。発作か?」
椅子に座ったまま頭を抱えてクネクネと、もだえ苦しみ始めた黒江に真城は慌てた。
「じゃ、おれは先に行くねぇ~」
坂下はワチャワチャイチャイチャし始めた2人を置いて、さっさと自室へと逃げた。




