第5話 夏休み風景
陸の孤島学園の夏休みは生徒それぞれ気ままに、自由に過ごすのが普通である。
宿題で学力を伸ばすとか小手先の指導は入らないが、部活はある。
山頂付近にある陸の孤島学園の朝は早い。
「ん……」
真城は寮の部屋で、元気な運動部員たちの声を目覚まし時計代わりに目覚めた。
「……なんで陸上部の掛け声が『エッホッ、エッホッ』なんだよ……」
ちなみに陸の孤島学園の運動部は、陸上部やチアリーディング部などがある。
基本、山を転がって落ちていく危険のあるスポーツは禁止だ。
ただし山岳部はある。
「そろそろ起きるかぁ~」
真城がベッドで大きく伸びをする横で、ルームメイトの坂下が隣のベッドの中でゴソゴソと動き出す。
「おはよー、坂下」
「ん、おはよー、真城」
朝の挨拶は基本である。
陸の孤島学園の生徒たちは基本、育ちのよろしい家庭の出なので、ルームメイトにもしっかり朝の挨拶もしちゃうのである。
真城は朝の身支度をしながら、グズグズとベッドから下りようとしている坂下に聞いた。
「お前、夏休み中はずっと寮にいんの?」
「ンン~そうなりそう~」
「なんだ、それじゃ愛しのスーちゃんと会えないじゃん」
洗面所の鏡の前でケケケと笑う真城の足元に坂下はガバッと飛びつくようにして縋りつき嘆く。
「そうなんだよー、聞いてくれよぉ~真城~。おれん家の親、ヒデェんだよぉ~。迎えにきてもくれないし、金も送ってくれないから、帰れないんだよぉ~」
「おー、ヨシヨシ。可哀想に」
真城は右手で歯ブラシを持って歯を磨きながら、左手で自分の足に縋りついている坂下の頭を撫でた。
「金がなければバイトをすればいいじゃない、って話だけど、この学校の立地じゃバイトも無理ぃぃぃ。スーちゃんに会いに行けないっ。無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「あーハイハイ」
口を漱いでさっぱりした真城はテキトーに返事をした。
陸の孤島学園ではバイトは禁止されていない。
そのため夏休みは芸能活動をする生徒などもいるようだが、一芸もない一般生徒に出来ることは限られる。
交通手段もろくにない山の上にある寮から通いでバイトをする猛者は、まずいないのだ。
「単発の時給いいヤツとかすれば?」
「だから無理だって言ってるだろぉぉぉぉぉ。おれは勉強もできないし、運動も出来なきゃ力もないし、芸事もダメなんたよぉ~。顔もそばかすだらけの上に糸目で冴えないしぃぃぃ」
「ケケケッ。知ってる」
「ひどいよぉ、真城。おれは性格の良さだけで生きているのにぃぃぃ」
猫っ毛の癖毛の髪を振り回しながら、真城のパジャマのズボンに涙と鼻水を擦り付ける坂下。
性格が良いかどうかはともかく、いい性格をしているのは間違いない。
真城はペイッと坂下を引っぺがすと、パジャマのズボンをポイッと洗い物のカゴへと放り込んだ。
「ひどぉぉぉぉい、真城のバカぁぁぁぁあぁ」
嘆きながらルームメイトを罵倒し始めた坂下は、細い体をくねらせながら爆発した髪の中に手を突っ込んでガシガシとやっている。
いつものことなので真城は放っておいた。
気持ち悪くクネルのに飽きた坂下は、両手を突っ込んでガシガシとほぐした髪をブラッシングするなど何事もなかったかのように朝の身支度を始めた。
「早くしろよー。あんまり遅くなると朝食を食いっぱぐれる」
「ああ、わかってる」
陸の孤島学園の食事は美味い。
寮母さんである道崎金之助の料理の腕がよいからだ。
「頭数が減っている今は沢山食べられるチャンスだからな」
坂下が細い糸目をキランと輝かせて言う。
真城もケケケと笑ってこたえた。
「今のうちに食っておかないと、寮母さんもお盆休みを取るみたいだから」
「ああ、それはいかん。今のうちだな」
2人はバタバタと身支度を終えると、上級生の「廊下は走らないっ!」という怒声を浴びながら食堂へと向かった。




