第31話 夕食屋台
屋台の並ぶ辺りまでくると、真城は怪訝そうな表情を浮かべた。
「あれ? なんかさっきと違う気がする」
「そうか? あんま変わらないと思うけど」
真城が首を傾げるのを、黒江は後方のチョイ上から眺めながら可愛いなと思った。
坂下がすかさず突っ込む。
「多分、今は真城を褒めるトコじゃない」
「あ、声に出てた?」
「うん。「可愛いな」とか聞こえた」
「はははっ。声に出ちゃってたか」
坂下は黒江の頭を軽くはたいた。
真城は後ろ2人の動向は丸っと無視して、右手をヒサシのように目の上に当てると腰のあたりからグルッと回して辺りを眺めた。
「森の側だから、日差しの関係? なんかさっきと雰囲気が変わっている気がする」
「いや、これはそんなんじゃないな。部活で出していた屋台が撤収し始めているからじゃない?」
坂下がどうということもないといった感じで言うも、まだ違和感のある真城は首を傾げる。
「ホントだー。文芸部の屋台も、自然科学部の屋台もなーいっ。……でもそれだけじゃないような……」
「ん、屋台が幾つか壊れているね」
黒江の指さす先には、壊れた屋台と、その前で正座させられている生徒たちの姿があった。
真城は塩にぎりを作りながら店頭に並べている金之助の姿を見つけ、駆け寄って聞く。
「金之助さーん。なんかありましたか?」
「ああ、あれ? 屋台に突っ込んで壊しちゃったんで、反省を促されている。毎年のことなんだけど、はしゃぎすぎた生徒が殺到して屋台を壊すのが恒例みたいになっちゃってるんだよねぇ~」
金之助が苦笑を浮かべるのを見て、3人は「「「あぁ~」」」と納得した。
真城は目を煌めかせながら、両手を拳にして握り、胸の前でブンブンさせながら言う。
「学生と祭りと食欲が合体したら、そりゃ事件は起きるよね」
「そうだ、そうだ」
坂下はコクコクと頷いた。
「だからって迷惑かけたらダメだろ?」
黒江は顔をしかめた。
そこに怒声が響いた。
「おーら、一年生っ! 牛串買うつもりならちゃんと並べぇ~」
上級生に言われて声のする方を見る途中で、金之助が塩にぎりを出している隣の屋台が牛串の屋台だと3人は気付いた。
中途半端な位置に立ち止まっていた3人は、牛串の屋台の列に横入りしそうな場所に立っていた。
3人は上級生に向かって「「「はーいっ!」」」と元気に返事をすると、大人しく最後尾に並んだ。
真城は列に並びながら、小さく縦に跳ねている。
「うおー、ラッキー。屋台探す手間が省けたっ」
「まぁこんだけいい匂いがしたら、すぐに見つけられる自信はあるっ」
黒江も自信満々に言い切った。
「あぁ、早く順番こないかなー」
坂下は顔を上に向けて鼻をクンクンと蠢かせた。
ジュージューといい音を立てながら牛串は次から次へと焼かれていく。
男子校なのでココには男子生徒しかいない。
胃袋の底に穴が空いているような状態の男子生徒にこの香りは罪である。
食欲増進の効果しかない。
そのせいか、牛串の屋台の隣にある塩にぎりの屋台も盛況だ。
金之助ともう1人の寮母が握る横から塩にぎりは消えていく。
その勢いは、見ていると怖いほどだ。
「すげぇな。男子高校生の食欲半端ない」
「まぁ俺たちも男子高校生だがな?」
真城が怯えながら言うと、黒江が確認するように言った。
坂下が体をくねらせながら言う。
「仕方ないよ、満腹中枢とか行方不明なお年頃だもん」
「やめろぉ、坂下ぁ~。お前は、可愛くはないんだよぉぉぉ」
3人で何が楽しいのか分からないままノリでゲラゲラ笑っているうちに順番が回ってきた。
「はい、おまちっ」
額に手ぬぐいを巻いた寮母さんから牛串を渡された3人は、次の生徒に追い立てられながら屋台を後にした。
真城は手を伸ばして牛串を目の前に掲げる。
「これが牛串っ」
「うーんいい匂い」
香りを満喫している坂下に頷きながら、黒江も自分の手元を見つめている。
「確かに美味しそうだ」
「バイト、頑張った甲斐があったぜ」
「そういうほど高くはなかったがな。」
ホクホクしながら言う真城に黒江が突っ込む。
坂下は真顔で言う。
「でもさんざ飲み食いした後の300,000陸の孤島学円って、そこそこ高くね?」
「だよなー。あーだからオレらがバイトしてた時、運動部のヤツっぽいのも沢山バイトしてたんじゃね?」
「あーかもな」
真城の言葉に黒江は頷いた。
無事に牛の串焼きを手に入れた真城たちは、屋台から少し離れたところでさっそくかぶりついた。
真城は食いちぎるようにして食べると、じっくりと噛み締める。
「牛串うめぇ」
「苦労して手に入れた牛串の美味さは格別だな?」
黒江も口に合った様子で満足そうに食べている。
坂下は手にした一本をガツガツ食べながら、次を狙うように牛串の屋台を眺めていた。
金之助の情報通り、昼間と夜ではメニューが変わっていた。
まだ夕方というにも早い明るさだが、そこは丸っと関係ない。
黒江は忠告するように言う。
「暗くなったら舞台へ行かないといけないからな」
「校長先生の話はブッチしたいっ」
素直な思いを吐露する真城に、坂下が残酷な現実を伝える。
「でも一年生が一番前の席だから……」
「マジかぁ~?」
真城は串を手に持ったまま顔へ手を持って行こうとして、黒江に串を持つ右手を掴まれた。
「危ない。回収します」
「ありがと」
真城は素直に黒江へと串を渡し、ブツブツと欲望を垂れ流す。
「牛串もまだ食べたいし、アメリカンドッグも、焼きそばも食べたい」
「でもさー。なんかさー、こう脂っこいものばっか食べると、救済用の塩にぎりも食べたくならない?」
「あー分かるー! 塩にぎり間に挟んでエンドレスコースだぁぁぁぁぁ」
坂下の指摘に真城も同意した。
「りんご飴とかイチゴ飴も捨てがたい」
「うん。スイーツスイーツ」
普段の食堂がほぼ食べ放題状態のせいか、屋台のメニューも値段の設定はそう高くない。
しかし、牛串やイチゴ飴などは値段が高めだ。
真城はご機嫌で笑う。
「はははっ。バイトしといてよかったな?」
「ああ。陸の孤島学円が尽きて、欲しかった特別メニューが手に入らなかったヤツも多かったみたいだ」
黒江が指さした先には、肩を落として塩にぎりを食べるクラスメイトの姿があった。
「その一方で、計画的に過ごしたヤツもいる、と」
坂下が指さす先には、メイドコスのままの佐藤が、笑顔で山ほどのイチゴ飴を抱えてホクホクしながら歩いていくのが見えた。
「ああ。アレはそういう……」
黒江が納得したように呟き頷いている横で、真城と坂下はジッィィィィッとイチゴ飴を見つめながらコクコクと頷いていた。
「もう我慢は要らないな? 坂下ぁ~」
「そうだな、真城ぉ~」
3人は夜の部が始まる時間になるまでの間、陸の孤島学円で膨らんだチャック付きの透明なビニール袋の中が透明になるまで、買って食ってを繰り返したのだった。




