第29話 校内部活探検
「へっへっへっ、100,000,000陸の孤島学円~」
真城は100,000,000陸の孤島学円を手にしてご機嫌だ。
膨らんだチャック付きの透明なビニール袋を右手で掲げながら歩く真城の横で、坂下も同じようにしてニコニしている。
「これで食いっぱぐれる心配はないな? 真城」
「そうだな坂下」
キャッキャしている2人が再び屋台の方向を目指すのに気付いた黒江は、右手で真城の襟元を掴み、反対の手で坂下のポロシャツの襟をグッと掴んで引き寄せた。
「おいっ、お前たち。どこへ行くつもりだ?」
「ん? 屋台へ……」
「お金も出来たしなぁ~」
真城と坂下は後ろを振り返って黒江を見た。
ギロリと睨まれて、2人はヒエッと小さく喉奥で叫びながら息を呑む。
黒江は、威圧感のある重く低い声で言う。
「お前たちは、懲りるということを知らないのか?」
「だってだってぇ……なぁ、坂下?」
「うんうんうん……ねぇ、真城?」
真城と坂下がモゾモゾしながら顔を見合わせてコクコク頷き合っているのを見て、黒江は脅すように言う。
「今お金を使いに行ったらまた足りなくなって、夕飯の時に大騒ぎするだろうがっ」
計画性のない2人はシュンとなった。
2人の反応を見た黒江は満足そうな笑みを見せた。
「よって俺たちは校内展示を見に行きます」
黒江の宣言に2人は大人しく従った。
使い慣れた校舎が、今は文化祭用に飾りつけられている。
「でも校舎は校舎だな?」
「だな」
真城と坂下がキョロキョロしながら進む後ろを、黒江が保護者のようについていく。
「部活の展示って何やってるんだろうな?」
「油絵とか飾ってあるんじゃないか?」
真城が教室を覗き込みながら言うと、黒江が興味なさそうに言った。
「おお、ちょうどそこに美術部の展示があるぞっ」
坂下が大声で言いながら指さした先には、カフェの看板のような木製のウェルカムボードがあった。
チョークで綺麗にペイントされた立て看板には、矢印と美術部の文字も踊っている。
「わー、それっぽーい。見に行こ、見に行こ」
真城の号令に坂下が先陣を切って進む。
黒江は真城に手を引かれて仕方なく付き合うといった雰囲気をだしているが、目が笑っている。
内心はノリノリのようだ。
「アッ、お客さんだー」
「どうそどうぞ、ずずずぅぃぃぃぃぃぃぃぃっと奥へどうぞー!」
調子のいい美術部員たちに案内されて、真城たちは暗幕に仕切られた向こうへ進んだ。
「なっ、なんじゃこりゃーーーーーー!」
真城はイーゼルに掛けられた絵を指さして叫んだ。
「マジでなんじゃこりゃーーーーーー!」
坂下はイーゼルの向こうにある立体物を指さして叫んだ。
「うっわっ。これは最近流行りのアニメの……」
「お兄さんたち、お目が高いっ!」
黒江の言葉を遮るように、太い黒ぶち眼鏡をかけた痩せていて小柄な美術部員が、ズズッと3人に近寄ってきた。
「こちらの立体造形物は、ヒロインちゃんの等身大フィギュアです。美術部の立体造形部隊が頑張りました。見どころは空中を舞う曲線を描きながらなびく髪とスカート、遠心力に負けそうで負けない小物たちです。こちらの油絵たちは、アニメのイメージを広げて描いたファンアートです。実際には作中にないシチュエーションを想定し、それぞれの描き手のなかにある作品の概念を、広げまくってファンタジックに仕上げてあります。100色以上ある多彩な緑のなかに佇む躍動的なヒロインちゃん。そしてこの透け感。神々しい。神々しい瞬間を切り取ったような絵の数々をお楽しみくださぁ~いっっつ」
熱く語る美術部員に、3人はコクコクと頷く係に徹した。
たっぷりと美と芸術とアニメについて聞かされた3人が、次にやってきたのはオセロ大会の会場だ。
将棋部と囲碁部、そしてチェス部が対決するオセロ大会である。
真城が首を傾げて言う。
「なぜオセロ? オセロで戦いたいなら、オセロ部作ればいいじゃん」
「オセロだけじゃ飽きるからじゃね?」
黒江が言うと坂下はウンウンと頷いた。
だが真城は納得しかねるといった表情を浮かべながらブツブツと言っている。
「でも将棋部と囲碁部、そしてチェス部が対抗とかさー」
そこに大会の進行係の「将棋部とチェス部、因縁の副部長対決だぁぁぁぁぁぁぁっ!」という煽るような声が響く。
ワァワァなっているところへ、真城と坂下も訳が分からないままワァワァとガヤとして参加した。
黒江は後方彼氏面をしながら教室の一番後ろでウンウンと頷いている。
なんだかんだで将棋部の大勝利まで確認してから、3人は次の展示へと移った。
真城は満足げな表情で言う。
「面白かったー」
「はははっ。あれは司会の勝利だな?」
「かも~」
黒江の言葉に頷く真城の隣で坂下もウンウンと頷いている。
その後、3人は新聞部の展示で学園の歴史を学び、放送部で録音体験などしつつ、校内をブラブラと回った。
窓の外を何気なく見た真城が言う。
「なんかさー。まだ時間は早いけど、夕方っぽい雰囲気」
「ん。日が落ちるのは早くなってきたからなー」
黒江も外の様子を見ながら言った。
「そうだな。それにココ、山だし」
「言えてるぅ~」
坂下の指摘を聞いて真城はケラケラと笑った。
黒江は教室にかかっていた時計をチラリと確認した。
「そろそろ午後5時になるな。しょうがない。屋台へ行くことを許可しよう」
真城は黒江の隣から時計を確認して笑う。
「キャハハハッ。まだ4時半じゃん。実は黒江、腹が減ったな?」
「ん、やっぱ授業が終わる頃になるとさー……」
「黒江の腹時計、規則正しすぎ~」
正直な黒江に坂下が突っ込みを入れながら、3人は屋台のある辺りを目指した。




