第25話 満喫
真城たちは屋台を渡り歩いて文化祭を満喫した。
「この箸に巻いたお好み焼き、食べやすいっ。しかも美味い」
真城はご機嫌で割りばしに巻き付いているお好み焼きを食べていた。
食べながらキョロキョロと次の獲物の物色に余念がない。
坂下が屋根の端に括り付けられてたなびく吊り下げ旗を指さして叫ぶ。
「かき氷もあるっ!」
「あっ、オレ、全部の味を制覇したいっ!」
真城は坂下の背中を飛び越えそうな勢いで飛び跳ねながら叫んだ。
黒江は冷静に突っ込む。
「かき氷のシロップって色違うだけで味は一緒って説があるぞ?」
「マジか⁉ でも全部制覇するっ!」
「おれもっ!」
真城は右手で握りこぶしを作ってゆっくりと顔のあたりまで上げた。
坂下が右手で作った握りこぶしをゆっくりと真城の前に出す。
真城は坂下の拳に自分の拳を軽くあて、お互いに頷き合う。
そして呆れる黒江の視線を浴びながら、真城と坂下は目的を果たしたのであった。
芸達者な寮母たちは競い合うように、さまざまなメニューの屋台を出していた。
「チョコバナナ♪ チョコバナナ♪」
真城がチョコバナナの屋台を指さすと、坂下が提案する。
「せっかくだから、誰が一番汚さずに食えるか、勝負しない?」
「なんだよそれぇ~」
ケラケラ笑う真城を挑発するように坂下が言う。
「え? 勝負しないの?」
「勝負はするぅ~」
「あーこのメンバーだと俺は負ける気がしない」
黒江が不敵な笑みを浮かべて参戦し、言葉通りの勝ちを得た。
チョコでデロデロになった服を着替えに一旦寮へと戻った真城と坂下は、顔を洗ってシャツとズボンを着替えた。
「おー2人とも白っぽくなったな」
そう言う黒江は朝と同じように、ベージュがかった半そでシャツに茶色のカジュアルズボンといった格好だ。
「うわー寮まで帰ってきて着替えなかったのかよ、嫌味っぽーい」
「ホントだー、嫌味っぽーい」
坂下と真城に突っ込まれた黒江だが、自分のシャツの胸元を右手の指先でつまんでパタパタさせた。
「これ、着替えたぞ? 朝とデザインが違うだろ?」
よくよく見て見れば、ベージュがかった半そでシャツのデザインが微妙に違う。
真城はシャツの襟元の小さな刺繍をまじまじと見た。
「んー……間違い探しみたいだな?」
「たしかに~」
坂下がケラケラと笑っている。
3人でじゃれ合いながら屋台のある辺りへと再び向かうと、屋台が増えていた。
「お、冷やしキュウリもあるぞ」
「お客さん、お目が高い。キュウリの栽培から手掛けた園芸部特製の冷やしキュウリ、いかがですか?」
「おまっ、佐藤っ! なんでお前、メイドコスしてんだよっ」
真城がゲラゲラ笑い転げる横で、黒江は少し後ろに引いて佐藤をまじまじと眺めていた。
ガリガリで色白な佐藤が冷やしキュウリを売っているが、なぜか着ているのはメイド服だ。
「伝統? つか、今日は売り上げに繋がるならなんでもするよ! 今日のボクは売れれば何でもする放浪の売り子なんだ」
黒い長袖のロングワンピースに白いフリル付きのエプロンを合わせた佐藤は、アゴを親指と人差し指で挟んでポーズを決めた。
「なんだよ、その設定」
真城は佐藤を指さしてゲラゲラと笑う。
メイド服を着ているといっても、動きは男のままなので女性的には見えない。
「さぁさ、笑った分は買い物をしてくれ」
「えー、どうしようかなー」
真城が迷ったふりをすると、奥の方からキュウリの栽培を手掛けた園芸部の生徒がヒョイと顔を出した。
人のよさそうな笑みを浮かべ、いがぐり頭を右手の平で照れくさそうにグリグリと撫でている。
「ほらほら買って、買って~。生産者の顔が見える店だぞー。これ以上の店はなかろうて」
佐藤がメイド服で腰を落とし、両手のひらを合わせるように叩きながら真城たちを煽る。
「冷やしキュウリは買うぞー」
「毎度あり~。1本100,000陸の孤島学円ね」
黒江が手を上げると、佐藤は手早く冷やしキュウリを手渡しながら、100,000陸の孤島学円を受け取った。
「あ、これうめぇっ」
「あああ、オレも欲しい、オレもっ」
「はいはい。毎度あり~」
真城が興奮しながらたかってくるのをメイド服の佐藤は上手いこと捌きながら商品を手渡した。
「こっちにも1本ちょうだい」
「はいよぉ~」
黒江が絶賛する冷やしキュウリを真城と坂下も買った。
一口齧った真城が目を丸くする。
「冷やしキュウリがうますぎるっ」
「え? そこまで?」
真城の反応に坂下は首を傾げた。
「あ、オレさー海外が長いから、冷やしキュウリを食べたの初めてかも」
「マジかー。初めては効くからなー」
そう言いながら冷やしキュウリを齧った坂下も目を丸くする。
「うまっ」
「なー?」
3人はキャッキャしながら冷やしキュウリを平らげると次の屋台へと移動していった。




