第22話 部外者の来ない文化祭
陸の孤島学園の文化祭は独特だ。
真城は周囲をキョロキョロと見回した。
校庭や校舎は少々飾り付けられているが、特別に普段と変わった様子はない。
土がむき出しになった道を歩きながら、真城は黒江に話しかけた。
「うちの学校の生徒しかないな?」
「なんといっても陸の孤島だからな?」
黒江は虫除けの香りを突破してきた小さな羽虫を追い払いながら答えた。
四方を山に囲まれているといっても、そこまで標高が高いわけでもない。
ただ交通の便が悪い。
車で来られると駐車場が足りなくなるため、結果として保護者の参加も禁止という完全在校生のみの文化祭となっている。
卒業生が遊びに来ることもない。
そうなるとどうなるか?
真城は不満げに言う。
「確かに祭りではあるけどさー。男しかいねぇ~。クソあちぃ上に男しかいねぇぇぇぇぇぇっ」
「はっ⁉」
黒江が顔色を変えるとワナワナと震えた。
「お前、俺というものがありながら、女子を求めているのかっ」
「別に女子を求めているわけじゃねーよ。つか『俺というものがありながら』ってなんだよ? お前はメンドクサイ女か?」
「はうっっっっっっ」
真城に冷たくあしらわれ、黒江は震えながら胸を押さえて仰け反った。
「イケナイ扉が開いてしまいそうっ」
「おいっ、ヤメロ。キモイッ。おれもいるんだぞ?」
坂下は下手な小芝居を始めた黒江の頭をパコーンと軽く叩く。
黒江が坂下を睨むのを見て、真城がケケケッと笑った。
黒江が改めて周囲を見回して言う。
「でも確かに男しかいねーな?」
「男子校だからなー。逆に女がいたら怖いだろっ」
坂下が顔をしかめる横で真城が高い声で「八尺さま~」と言ってケケケッと笑う。
黒江がガッと真城の肩を両手で掴んで真顔で言う。
「真城は可愛いからなぁ~。連れていかれるなよ?」
「ケケケッ。背の高い女なんて怖いから逃げるっ」
坂下がコクコクと頷きながら言う。
「そうだよなぁ~。八尺さまはだいたい2メートル40センチくらいの身長だそうだから、真城は半分だな?」
「そこまでチビじゃねーよっ」
真城は坂下の肩を指を広げた手の甲でペシッと軽く叩いた。
黒江が笑いながら言う。
「はははっ。そもそも部外者入れんから、八尺さまも入れない」
「八尺さま推しすぎだろ?」
真城と黒江が仲良く笑いころげていると、坂下はしみじみと言う。
「そうそう。部外者は入れないんだよねー。だからスーちゃんも呼べないし。まぁ呼んだところで来られないけどさぁ~」
坂下は糸目をさらに細くしてショボーンと背中を丸めた。
真城が頬をぶくっと膨らめて不満げに言う。
「オレはさー、日本の高校の文化祭ゆーたら、アニメで見たみたいな男女混合のワチャワチャしたヤツが見られると思ってたからさー。もうホント、残念」
真城が口を尖らせてブチブチと言うのを聞いて、黒江は笑った。
「はははっ。男子校だからな~。諦めろぉ~」
「うん、しゃーない。諦めるぅ~」
真城は潔く諦め、黒江はご褒美と称して彼の茶色っぽい髪をカイグリカイグリと撫でた。
「どっちへのご褒美だよ、どっちへの⁉」
坂下が突っ込む。
「も~さぁ~、お前らはさぁ~、暑苦しいんだよ!」
坂下がブチブチ言うのを聞いて「「そっち?」」と真城と黒江は声を揃えて返しつつ、そういわれれば暑いかも、と一旦離れた。
少しずつ増えていく生徒に混ざって真城たちは進んでいく。
「文化祭っていっても、なんかあんまり文化祭っぽくない?」
「んー、文化部の出し物は校内でやってるみたいだから、あとで行ってみようぜ」
「うんっ」
真城が笑顔を煌めかせてコクッと頷くと、黒江はまた茶色がかった髪を両手でクシャクシャと混ぜた。
「ハハッ、お返しだぁ~」
真城が黒江の背中に飛び乗り、彼の真っ黒な髪をわしゃわしゃと混ぜ返していると、山へと続く道の両脇に屋台が現れた。
真城は黒江の背中に乗っかったまま感心したように言う。
「おお。なかなか壮観」
その隣で坂下もキョロキョロしながら口を開いた。
「寮母さんに混ざって、文化部や先生方も店を出してるみたいだな」
「そうだな。みんな頑張ってるよなー」
そう黒江が言った瞬間「じゃ、おれも頑張ろうかな」という声と共に坂下がニコニコしている真城の上に飛びついた。
一番下になった黒江は「グェッ」と潰れたような声を出したが、張りぼて筋肉ながら、なんとか耐えた。




