第17話 刺さる男子チア部
男子とは、なぜ刺さるのか。
木の上でヘルメットを被ってギャーギャー言っているチア部の部員を見ながら真城は思った。
「やっぱ楽しいからだな?」
「なにその結論」
真城のつぶやきに黒江が突っ込む。
寮の廊下にあるデカい窓から外を眺めていた真城は、木の上の男子を指さす。
「あいつ男子チア部の一年生だろ? 一番ちっこいの」
「そうだな」
男子チア部が木の側でスタンツの練習中、ポーンと飛んだトップを務めていた一年生がうっかり木の上へ飛んで行ってしまったようだ。
「なんか楽しそうだよなー」
「自分で降りて来られない木の上に乗っかっちゃったのに?」
ギョッとした様子で黒江は横を見たが、真城はマジで楽しそうだと思っているようだ。
「やっべ。コイツ、やっべ」
「なんだよ、黒江。マジでやっべぇのは木の上のあいつだろ?」
真城は校庭に向かって顎をしゃくった。
そこでは八雲が「待ってろ! 動くなっ! 落ちるっ!」と叫びながら脚立を持って走っている。
脚立の後ろ側を持っているのは寮母である金之助だ。
「ケケケッ。あいつ、後でたっぷり怒られそうだ」
「悪いヤツだな。他人の不幸を喜んで」
悪人顔の真城に突っ込んだ黒江は、彼と目が合うと同じような表情を浮かべてケタケタと笑った。
学校はまだ夏休みだが、生徒はポツリポツリと戻り始めた。
先生方はもちろん、寮母も戻ってきている。
黒江は頬をポリポリと掻きながら言う。
「男子チア部は大技が多いからなぁ。あいつスタンツのトップのヤツだろ?」
「ああ。そうみたいだ。人を積み上げるみたいな技の、一番上になるヤツ。下で支えるのは大柄な先輩方が多いけど、上の方は身軽な下級生のほうが面白いからな」
「いや、面白さを基準には……いや、面白いか?」
黒江はちょっと首を傾げる。
真城はうっとりと言う。
「男子チア部ってカッコイイよな? 身軽だし、力強さもあって」
「まぁ、カッコイイのは認める。だけどさ、何で木の側でやるかな?」
男子チア部は何故か校庭の隅、森のすぐ脇でスタンツの練習をしていた。
ダイナミックな動きをする男子チア部は、木登りも得意だ。
だからといってトップを木に飛ばすのはいかがなものだろうか、と黒江は思った。
「そうだな。でも木が近くにあれば掴めるしさー、地面にそのまま落ちるよりはマシじゃね?」
「確かに」
ただし男子チアに詳しくない2人は、どんな場面なら木に掴まる必要性があるのか、さっぱりわからなかった。
スタンツのトップを務めて木に刺さった男子チア部員は、はしごを伝って無事降りてきたようだ。
夏休みも終盤に入ると、運動部はもちろんのこと、文化部も戻ってきている。
なぜなら夏休み明けの第一日曜日は文化祭の日だからだ。
「賑やかだな」
「そうだな。夏って感じ!」
あちらこちらで様々な練習が行われているし、あちらこちらで何に使うのか分からないものが作られていたり、物が干されたりしていた。
夏の終わりは欠片も感じられず、森を抜けて吹きつけてくる風は相変わらずの熱風だ。
「蝉ファイナル的な?」
「そうっ! 蝉ファイナル的な!」
黒江と真城は顔を見合わせてゲラゲラと笑い転げた。
今日も空は晴れたり、遠くに見える入道雲が天気に影響を与える様子はない。
むあっとした暑さを保ったまま、夏休みはゆるっと終わりを迎えていくのであった。




