第10話 最後の晩餐
八月のお盆近くなると生徒の数はグッと減る。
真城と黒江は全く予定がなかったので、夕食の時間にはいつも通り寮の食堂へと足を運んだ。
坂下も一緒だ。
坂下が当然のように真城の前に座りながら言う。
「運動部の奴らもだいぶ減ったな?」
「ああ、部活も休みになるらしいよ。短いけど」
真城が答える横で、黒江が渋い顔をしている。
頭数の少なくなった生徒の前で、教師である旭ヶ丘八雲が何やら説明していた。
「寮母さんは明日からお休みに入ります。今晩の食事は心していただくように」
「はは。大袈裟ですよ、旭ヶ丘先生。寮母は休みをズラしましたから、明々後日には別の者が食事くらい作りますよ」
「いえいえ。金之助さんのご飯は格別に美味しいですから……」
寮母たちは時期をズラして夏休みをとるようにしているが、お盆の時期になると流石に残れる者は減る。
「今晩のハンバーグは味わって食べとかないとな」
坂下の言葉に、黒江も頷きながらお椀片手に言う。
「豚汁も味わっといたほうがいい。コレは絶品だ」
黒江に言われて豚汁を一口すすった真城は目を丸くした。
「うまー。金之助さん、神」
「お前は神多すぎー」
笑いながら言う坂下は一転、真顔で言う。
「今年は寮母さんゼロの年か。寂しいねぇ」
そんな坂下を指さして真城が笑う。
「カカカッ。【今年は】って、古参みたいな顔して言ってるけど、オレら一年生だもん。初めての夏休みじゃん」
「そだな」
坂下と真城がキャッキャッしているのを、黒江は横目で面白くなさそうな表情を浮かべて見ている。
「それにしてもさー、八雲ティーチャー、やばくない?」
「ヤバイ、ヤバイ。見ろよ、寮母さんを見る目。ヤバすぎる」
身長は高いが痩せっぽちで、マッシュルームカットのなれの果てのようなボサボサの黒髪の八雲はマッチ棒のようだ。
そのマッチ棒が、マッチョな寮母を横目でチロチロと見ている。
真城はケケケと笑いながら言う。
「八雲ティーチャーってば、寮母さんにハート飛ばしてない?」
「あーそれだー。分かりやすい」
坂下は手を叩いてケラケラ笑った。
黒江が庇うように言う。
「八雲先生は、変態くさく見えるタイプだから……」
「いや、ド直球に変態だろ?」
フォローのつもりで言った黒江の言葉に、真城は真顔で突っ込んだ。
黒江は真面目な顔で言う。
「でも明日からは、金之助さんがしばらくいないのか」
「ん。戻ってくるまでは、森に行かん方がいいな?」
「え? なんで?」
真城の言葉に坂下が興味を持って身を乗り出した。
「実は今日さー」
真城が今日あったことを説明した。
坂下はウンウンと頷きながら言う。
「そっかー。それツキノワグマの名前がエリザベスなのか。全てのツキノワグマをエリザベスと呼んでいるのか。気になるなー」
真城も頷きながら言う。
「だよなー? でもちょっと聞きにくいよな」
「だよなー。そこは謎のままにしといたほうがよくない?」
「だなー」
坂下の意見に、黒江もウンウンと頷いた。
これにより【エリザベス】のことは永遠の謎となり、金之助の作るハンバーグと豚汁は寮母イチということで意見の一致をみた。




