第1話 天然で突然な告白
こんな暑い日の日中に屋上へ来るヤツなんて馬鹿だ。
何の悩みもない真城優輝と、何も考えてない黒江春日は、屋上で風に吹かれていた。
真城は半笑いで言う。
「熱風だな」
「ああ。熱風だ」
黒江は無の表情で答えた。
屋上への出口に取り付けられた屋根の作る小さな小さな日陰で、2人は縮こまるようにして並んで座っていた。
そこから見えるのは山、山、山、といった感じだ。
「ははっ。木の緑は目に優しいけど、熱風半端なぁ~い」
「そだな」
真城優輝の取柄は元気だ。
だがその唯一の長所も、今日の熱さで影をひそめている。
真城は日陰からはみ出さないように両腕で膝をギュッと抱え込んで、ちんまりと座っていた。
真城は、少女と間違えられるような顔立ちをしている。
高校一年生の男子にしては可愛らしい。
髪の色も瞳の色も日本人にしては薄い茶系で、肌の色も白くて小柄。
それでいて運動神経がよくてチョロチョロとよく動く元気なリス系の16歳だ。
真城は、まだ声変わり前のような高めの声で嘆く。
「あちぃ~。夏休み前だってのにさぁ~」
「そうだなぁ~」
黒江春日は落ち着いたボソッとした声で相槌を打った。
黒江は真城と同じ16歳だが、タイプはまるで違う。
黒々とした髪は短くしていても暑苦しいし、紫外線が良く集まりそうな黒々とした瞳をしている。
そして体はデカい。
日焼けしやすい黒江は、運動部というわけでもないのに褐色の肌だ。
ついでに特に運動していないのに立派な筋肉がついている。
力はあるものの運動はどちらかといえば苦手なため、口の悪い友人に張りぼて筋肉と言われるほどだ。
何を考えているか分からない黒江春日の取柄は特にない。
あえていえば厳つい見た目に反して穏やかな性格をしているくらいである。
黒江は両腕を後ろについて体を支えるようにして座り、黒い学生ズボンに包んだ長い脚を太陽の日差しの下に投げだしていた。
真城は、隣に座っている黒江を見上げるように覗き込んで聞く。
「なぁ、黒江は夏休み、なんか予定あんの?」
「ん? ねーな。親も帰ってこないから、寮に残るよ」
ここは、とある地方都市にある陸の孤島学園。
周囲を山に囲まれた全寮制の男子校だ。
ケケケと笑う黒江に、真城は勢いよく言う。
「あーーー! 一緒だぁ~。オレも寮残留組~」
「夏休みも一緒だ」
「キャハハハッ。そーだな」
楽しそうに笑う真城を眺めていた黒江は、2、3回ほど首を左右に振ると口を開いた。
「なー真城ぉ~」
「なに~?」
「俺たち、付き合っちゃう?」
唐突な申し出に、真城はピタっと動きを止めた。
「……は? なんで?」
黒江は目を大きく見開いた。
「あ、もしかして俺振られる?」
真城は両手のひらを黒江に向けるとブンブンと振った。
「いや、そういうんじゃなくて……え? だって僕ら男同士じゃん?」
「あ? だから?」
黒江は小首を傾げている。
(いや大男が小首を傾げたって……可愛いな?)
真城は混乱した。
両手で頭を抱えた真城は、混乱のままダラダラと汗をかきながらしどろもどろになって言う。
「だって男同士なんて……変だよ」
「いいじゃん。恋したら、みんな変になるんだから」
「なんだよー。そのもっともらしい言い分は~」
屋上はクソ暑い。
唐突な申し出に適切な返しをしようとしても何も浮かばない。
「いいじゃん。もっともらしいなら、もっともなんじゃないの? 校則で交際は禁止されてないし」
「でもぉ~変だよぉ~」
「俺は真城と一緒にいると楽しいから好きだよ。真城は?」
「ん、オレも黒江といると楽しい」
黒江はニマッと笑う。
「だったらいいじゃん。俺たち付き合っちゃおうよ」
「え?……そういうものなの?……」
「それとも他に好きな人とかいるの?」
黒江の瞳から光が消えて、ドーンと何か重たい空気が熱風と共に真城を襲う。
(なんか仮に好きな人がいたとしても、いるって言えない雰囲気~。しかもオレ、別に好きなヤツとかいないぃぃぃ)
真城は焦って答える。
「い……いや、いねぇ」
「だったらいいじゃん」
一気に重たい空気が消えて、黒江がニコッと笑った。
(ん、悩んでも仕方ないか)
真城は単純だった。
そして自他ともに認める悩みのない男である。
(そもそも悩むのって面倒だから嫌いだし)
「そうだな……」
真城は首を傾げながら答える。
「オレたちの前世に滅茶苦茶暗い出来事があってぇ~。今生はご褒美タイムかもしれないんだからぁ~。悩んでるの勿体ないし、悩んでも意味ないね。……うん、オレも黒江のこと好きだし。まっ、いっか。じゃ、オレたち付き合おう」
くそ暑い真夏の昼日中。
熱風に吹かれながら、真城と黒江はお付き合いを始めることに決めた。




