時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「どうか」
これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本編が始まる以前、アミカナが現代に時間転送される際の、番外編「アミカナの日曜日の夜:ダイブ」で描いた出来事を、ミカの視点で再描写したものになります。
<遥か未来、現代では日曜日>
オペレーション・ルームのミカは、全力で走って来たせいで、まだ肩を上下させていた。モニターには、巨大な時間転送室でダイブに臨むアミカナを、様々な角度から捉えた映像が映っている。
「ミス・デフォルマ」
チーフ・オペレータが声を掛けた。
<はい>
スピーカーからアミカナの声が聞こえた。
「ブリーフィングの時にも伝えたが、今回、メタクニームが時間転送させた物体は、これまでに例がないほど巨大なものだ。恐らく数百トンクラスと想定される。奴らの目的は不明だが、何かとんでもないことを仕出かそうとしているのは間違いない。我々の周りでも、色々と不穏な動きがある」
<はい>
チーフは続けた。
「せめて重装備での時間転送を希望したが、やはり許可は下りなかった。通常通り、単独・標準装備でのダイブになることを申し訳なく思う」
<いえ、大丈夫です>
……ああ……ミカは胸の前で両手を握り締めた。大丈夫のはずはない。でも、彼女がそう言うしかないのだ。この部屋にいる誰もが、標準装備での出動に納得しているはずはない。しかし、誰にもどうにもできないこともまた事実だった。
チーフは、一瞬ミカに目をやった。
「おい、時空座標をもう一度確認しろ」
女性オペレータに指示を出す。オペレータは驚いて振り返った。
「既に最終調整は完了していますが……」
「いいから。再確認だ」
「……了解」
彼女は、何かを悟ったように向き直ると、コンソールを触った。
「時空座標調整中」
アミカナに指示を出す。
「よろしい。暫く待機してくれ」
<分かりました>
アミカナからの応答を確認すると、チーフは無言でミカにヘッドセットを差し出した。ミカは目を瞠った。まさか、最後にアミカナと直接会話をさせてくれるなんて……。でも、何て言ったらいい?
ミカはゆっくりとチーフに近づくと、ヘッドセットを装着した。
「アミカナ、聞こえる?」
<ミカ?>
アミカナの戸惑った声が返ってきた。ミカは天井を見上げた。声が震えないように、一呼吸を置く。
「そう、私」
<どうしたの? 今までダイブに立ち会ったことはなかったのに>
……一体何を言えば、彼女の心に寄り添うことができるのか……
「うん……今回は、ちょっと心配で……。特別に、オペレーション・ルームに入れてもらったの」
……違う。そうじゃない。私が言いたいことは……
「今回は長丁場になるかと思うけど、今まで訓練してきたあなたなら、きっとできるわ。私が保証する。頑張って!」
『頑張って』――これほど空虚な言葉はなかった。音声通信であることが救いだった。きっと、自分は苦悶の表情を浮かべていただろうから。
<ありがとう、ミカ。あなたのためにも、任務は必ずやり遂げるわ>
アミカナの答えに、ミカの目には涙が溢れた。私は一体、何を言おうとしているの?……既に覚悟を決めている彼女に対し、私には一体何ができるというの?……
チーフは見かねたように、ヘッドセットを返すよう、無言で手を差し出した。ミカはそれを手で制し、平然を装った声で、しっかりと答えた。
「違うわアミカナ。ミカのためじゃない。アミカナのためよ」
そう、私のためじゃない。あなたは私の影じゃない。あなたは、あなたの人生を生きて欲しい……。例えそれが、泡のように儚いものだったとしても……
ミカは思わず口を押えた。ヘッドセットを外してチーフに渡す。チーフは女性オペレータに目配せした。
「座標調整完了」
女性オペレータが告げて、チーフ・オペレータは力強く宣言した。
「よし! では、ミス・デフォルマ、ダイブだ」
<はい。アミカナ=デフォルマ=4、行きます!>
モニター越しでも目が眩むような閃光が走り、アミカナは消えた。
ミカは必死に嗚咽を堪えていた。涙だけが零れ落ちる。きっと、このオペレーション・ルームにいる誰もが、アミカナの運命を思い、それでも沈黙を守っている。
「アミカナ4の時間転送完了。転送座標を報告書回収班に連絡しろ」
そう言ったチーフは、ミカの肩をそっと叩くと、部屋を出ていった。
これが、世界を守るということ? たった一人の、心のある存在とすら認めてもらえないアンドロイドに全てを任せて、その最期を見守ることすらできないなんて。
世界を守る……か……。私のようなちっぽけな人間には、世界というものを明確にイメージできない。ただ、広大な空間に漫然と雲のように広がっている感じがする。でも、「誰か」の世界なら、その誰かを中心にして、世界が輪郭を持つ。例え小さな世界だったとしても、守りたいものを明確にイメージできる。世界を守ったアミカナ1から3は、そんな「誰か」を見つけたのだろうか?……それは分からない。でも、分かったことがある。私にできること、それはアミカナ達の世界を守ること。例え、儚く燃え尽きる世界であっても、その最期の瞬間まで、私は、どうにかしてあなた達の世界を守りたい。記録媒体はその一つ。そして、私は強くなる。私が強くなれば、あなた達も強くなる。それが、あなた達を生み出し続ける私にできる、唯一のことだから。
涙は止まっていた。ミカは、アミカナの消えた暗い空間を見つめた。青い瞳に力が宿る。
どうか、彼女の盾が砕けませんように。
いいえ、例え砕けても、どうかまた立ち上がれますように――
お読み頂きましてありがとうございます。次の番外編に関しては、「時間戦士は永遠の夢を見るのか・時系列まとめ」で[2/18公開予定]という箇所を探して下さい。ここまでお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。




