蜂蜜のように甘く
***サイド鷹明
日曜の昼。時計は11:25。
背後には、昨日の新聞部の奴が気持ちだけ隠れて立ってる。「雪白さんには許可貰ってます!」と言われたから無視だ。
チャイムを押せばガチャリと鍵の音がしてドアが開く。
「いらっしゃい、どうぞ」
出てきたゆきしろは紺色のエプロン姿…後ろから「新妻キター」とか聞こえる。うるせーな。
「お邪魔します」
「もうすぐできますから座っててくださいね」
通されたリビングはモノトーンで物が少ないからモデルルームみてー
「ゆきしろの部屋かっこいいな!」
「そうですか?あまり物を飾るのが好きではなくてシンプルなだけですよ?」
「いや、なんか、めっちゃ金稼ぐインテリエリートの部屋みてー!」
「なんですかそれ」
「俺の部屋なんか、本当男子学生の部屋!って感じだぜ?ゆきしろに言われてから食いもんだけはすぐ片付けるようになったけど散らかっちまって」
「今度掃除してあげましょうか?」
「マジで?頼む!」
「いいんですか?プライベートに入れて」
「あ?それ、ゆきしろもだろ?」
「片付けさすと、いろいろ見られますよ?」
「見られて困るもんなんかねーし」
「そうですか?…さ、唐揚げ、揚がりましたよ」
「あ、なんか、手伝えるか?」
「じゃあ、コレ。運んでください」
「おぉ、うまそー!」
炊きたてご飯に、具だくさんの味噌汁。
こんがり揚がった唐揚げとコブサラダ
「まともな飯久しぶりだー」
「今までどうしてたんです?」
「ん?購買やスーパーの弁当か、インスタントとかレンチン」
「不健康ですね」
「あー。だよなぁ。ゆきしろが弁当作ってくれるようになってからは調子いいもんなぁ」
「…そうですか。さ、どうぞ?」
「いっただきまーす!」
デザートに手製のゼリーまで出て来て心も腹も満腹だ。
「本当、良い食べっぷりですねぇ」
食後のお茶を飲みながらしみじみとつぶやかれる。
「ゆきしろの飯が美味いんだって」
「褒めてももうデザートはでませんよ?」
「本音だってーの」
はいはい、と洗い物に立つ後ろ姿を眺め、自分より細い体を腕に閉じ込めてみる。
ゆきしろは怯む事なく「どうしました?」と聞いてくる。
「襲われたのに、怖くねーの?」
「恐怖は感じてませんからねぇ」
「そうか。よかった」
「…貴方、もしかして襲われた事があるんですか?」
「ああ」
「貴方を組み敷くなんて猛者がいたとは」
「中学の時に女にヤられたんだよ」
「え?」
「相手の女は俺をものにしたかったらしくて強引にな」
「それで、女みたいなのを毛嫌いしてたわけですか」
「ああ…んで、人嫌になって、連みたくねぇから1匹狼気取ってサボって、喧嘩して…見かねた親にココ入れられた。ま、正直、有難かったわけだがな」
「もう、いいです」
身じろいでこちらを見たゆきしろは
「え?なんで、怒ってんだ?」
珍しく険しい顔して、頬を摘ままれた。
「あんたが可哀想だからに決まってんだろ、バカ」
「っ!?」
「貴方の事だから、こっそり泣けもしなかったんでしょ?男だからとかしょうもない矜恃で」
ハァとため息吐いて、手が離される
「…しょうも、なくないだろ」
「しょうもないですよ。男でも女でも、嫌な事は嫌だと言っていいんですから」
「っ…」
「ほら、薄っぺらい胸で良ければお貸ししますよ?」
抱き込まれた暖かな腕の中。
優しく髪を撫でる手に涙腺が崩壊したのは言うまでもなかった。
泣いて愚痴ってまた泣いて
ようやく落ち着いたのは夕方になろうとしてからだった。
「あー、頭痛てぇ。喉も痛てぇ」
「そりゃ、これだけ泣けばそうなりますよ。目が真っ赤ですよ、うさぎちゃん」
「っるせー!どうすりゃいんだよ?」
「こすっちゃダメですよ?腫れますからね。氷取ってきますから待っててください」
「ああ」
「はい。あ、横になって乗せた方が効率いいですよ」
ゆきしろの言う通りソファに横になり氷嚢を目に当てる
「あー、つめてぇ」
「少しそうしてなさいね。私はおやつ作りますから」
「え?」
「泣いたらお腹が空くでしょ?甘いもの食べてリラックスですよ」
「あ、ああ。ありがと」
なんで、こいつってこんな優しいんだろ。
本当に恋人に出来たらいいのにな
優しくて頼りになって恰好良い。
もっと一緒に居たい。もっと俺だけ見てて欲しい。
あんな話するくらい、信頼してる。
ああ、心底惚れちまってんだ。
腹も心も餌付けされて、もう、ゆきしろなしじゃ生きてけない。
うわ、どうしたらいいんだよ!?
***
泣く姿を、自分に縋り付く姿を見て、優越感を感じる自分がいた。
「参りましたねぇ」
どうやらこの人に絆されてしまったようです。
甘い香りのホットケーキにバターを乗せ、甘い蜂蜜をたっぷりかける。
男同士の不毛なお遊びに本気になるなんて愚かしい事この上ないんですがねぇ。
「鷹明さん、ホットケーキ焼けましたよ」
ニコリと微笑みを張り付けてリビングへ戻れば飛び起きた彼の目は大分赤みが引いていた。
気まずい話しは美味しい物と一緒の方が楽ですね。
いただきます!と頬張ったのを見てから、貴方の傍に居れる猶予を聞く為に口を開く。
「ああ、そうだ。恋人ごっこはいつまで続ければいいんです?」
私の言葉に顔色が曇る貴方が愛おしい。
「罰ゲームなら期間があるはずですよね?」
「…カズは、とりあえず1ヶ月って」
「なら、今週いっぱいですね」
「…ああ」
そんな寂しそうな顔されたら、嬉しくなってしまうじゃないですか
貴方も、私の事を色好く思ってくれてるのでは?なんて愚かな期待をしてしまう。
「しかし、明日にはまた新聞が出るでしょうし、一週間で別れるのは違和感がありますねぇ」
「え?」
「だって、鷹明さんが荷物持ちまでしたんですよ?一週間で私に飽きた。というのはいささか無理があるでしょ?」
「あぁ、そうだな。ケンカ、とかは?」
「別れる程のケンカとなると、浮気とかですか?」
「無え!俺が荷物持つくらい尽くしてんのに浮気はしねぇし、ゆきしろが浮気っうのはもっとない」
貴方が別れに応と言うなら引いたのに、悪足掻きするチャンスを得ては私は引けませんよ?
「なら、夏休みまでは関わりを続けませんか?夏休みになれば何かあったとしてもおかしくないですし。変に探り入れられるのは不愉快ですので」
「ゆきしろは、いいのか?」
「構いませんよ?あ、貴方が嫌ですよね」
「嫌なんかじゃねーよ!」
「そんなに焦って否定して貰えるとなんだか嬉しいですね」
「っ!るせー」
フイと背けた照れ顔の緩んだ口に後もう少し猶予を伸ばす企てを乗せる。
「ああ、そうだ、夏休みにいつでも良いので時間頂けませんか?」
「え」
「実は、母が、貴方を紹介しろと、恋人がどんな人か見たいと言われてまして」
「ま、マジか、うわあ、申し訳ねえっ」
「あ、仮初めの恋人なのは知ってますよ?それでも、会いたいと。
ただ、長兄は刀の錆にしてくれる!と意気込んでるそうで。少々、お招きし難いのですが」
「刀の錆…あ、いや!挨拶しに行く!行かせてくれ!無理に付き合わせて危ない目に合わせちまってるの俺だし」
「貴方って本当バカですね。私が、嫌なら嫌と言う性格だと言ったのは貴方でしょう?なのにまだそんな些細な事をウジウジと。私が貴方と『お付き合い』して失ったものはノーマルの称号だけです、これはお互い様でしょう。この学園での評価も貞操も生活もなにも失ってませんから、貴方が気にする事はありません。わかりましたか?」
「は、はい」
「嫌な思いしたなら二度とそうならないよう対処するだけです!」
「うん、そうだな、ありがとう」
「さて。でしたら、私も鷹明さんのご家族に会わせて頂けませんか?」
「へ?」
「鷹明さんが頼んで下さったそうですが、不届き者を成敗して頂いたお礼を申し上げたいですし、恋人だと偽ってしまった謝罪もしたいので」
「…あの、さ」
「はい?」
「や、実は親父がさ、ゆきしろの事、その…恋人っうより、嫁扱いしてんだよ。」
「…」
「…」
「嫁?」
「うん、嫁」
「…それは…なんというか。驚きました」
「だよなぁ」
「そこまで寛大なお方とは」
「え?」
「婚約者をつける程の家柄なのに男の恋人を容認どころか嫁扱いとは」
「あー、いや、俺がさっき話した通り、あんまりにも人間不信だったから、大切に出来る人が出来て良かったって」
「そこまで酷かったんですね?」
「あ、ああ。うん」
「…でしたら、罰ゲームのことは伏せたままの方が良いですか?」
「できれば」
「分かりました、では、その時までは恋人面させてもらいます。二学期からはご迷惑かけないようにしますから。」
「…あのさ、雪白」
「はい?」
「いや、今日はありがとな。飯美味かった。明日も弁当作ってくれるか?」
「はぁ。約束通り作りますが?」
「うん、楽しみにしてるな!んじゃ、また明日!」
「はい、また明日。」
どこか焦る様に部屋を出て行ってしまいましたが
なんだったのでしょうか…




