第三十八話 愛の告白
復讐が終わってから二週間後の夜、私はエレン達にバッチリと身支度をしてもらってから、エヴァン様がお仕事が終わるのをのんびりと待っていました。
「エレン、以前大切なお話をするなら今日が良いって仰ってましたが、今日は何か特別な日なのですか? 例えば、エヴァン様のお誕生日とか」
「いえ、それ以上に特別な日なのですよ。最高にロマンチックなのです」
エヴァン様のお誕生日以上に特別って、なんだか想像が出来ない。でも、私利私欲も混じっているとはいえ、私達の幸せを願ってくれているエレンの仰ることですし、間違いは無いでしょう。
「シエル、いるか?」
「エヴァン様! はい、どうぞ」
ノックと共に部屋に入ってきたエヴァン様は、今日も社交界に行く時のように、ばっちり身支度を整えられていました。
これからするお話は、とても大事なことです。だからなのか、エヴァン様はどこか緊張した面持ちでした。
かくいう私も、とても緊張しております。ただ告白のお返事をするだけなのに、緊張しすぎて今日食べた物が……いえ、やめておきましょう。
「想像以上に仕事が溜まってしまっていてな……待たせてすまなかった」
「いえ、お気になさらず。それで、私達はこれからどこに行けばよろしいのでしょう?」
「以前行った泉だ」
あの綺麗な泉ですね。以前行った時は、お姉様の来訪に邪魔をされてしまったから、今日こそのんびり過ごしたいですわ。
「ではシエル様、目隠しをしてください」
「え、どうして――きゃっ!」
なにか言う前に、私の目には目隠しが付けられてしまいました。これでは、泉に行くことが出来ません。
「本日のシチュエーションのために、ご協力くださいませ。きっと素晴らしいものがご準備出来ます」
「俺は良いのか?」
「主様は、既に知っておられるでしょう? シエル様は、まだご存じではないので」
「……なるほど、意図は理解した。シエル、俺が誘導するから、ゆっくり行こう」
「はい」
私はエヴァン様の腕に抱きつきながら、ゆっくりと歩みを進めます。
どこを見ても真っ暗闇のこの状況、普通ならとても怖いですが、エヴァン様がお隣にいるだけで、その恐怖がどこかに行ってしまいますわ。
「足元に枝がある。気をつけて」
「はいっ」
「ちょっと茂みが多い。気をつけて」
「はいっ」
注意をされて、私がそれに答えるというやり取りを何度もしていると、少しひんやりしているところに到着しました。
これは、近くに水があるということ……つまり!
「なるほど、こうなるのか……シエル、外していいよ」
目隠しを外してエヴァン様のことを見ると、空を指差しました。何かあるのかと思って見上げると、たくさんの流れ星が、ヒュンヒュンと飛んでいく光景でした。
「これって、流星群……ですわよね? 初めてみましたわ……!」
「俺もエレンから聞いたんだが、今日は数十年に一度の、大規模な流星群が見れる日らしいんだ」
なるほど、エレンは今日が流星群だと知っていて、なんとかこの日に合わせられるように、日程を考えてくれたのですね。エレンらしい気の使い方ですわ。
「上もいいが、下もとても素晴らしい」
「下ですか……? わぁ……!」
エヴァン様の視線を追いかけて水面に視線を移すと、そこには大きな満月の横を楽しそうに駆け回る星々が、水面に綺麗に映っていました。
「本当に綺麗ですわ……」
「ああ、そうだね」
「……? エヴァン様、私ではなくて、泉か空を見なければ意味がありませんよ?」
「意味? 意味ならある。この流星群や水面を見て喜んでいる君が、一番綺麗で輝いている」
「ひゃい!?」
あまりにも直球な褒め言葉に、子犬が鳴いたような変な声が出てしまいました。
今まで褒められたり、ドキドキするようなことを言われた経験はありますが、今日ほどドキドキしたことはないかもしれません。これも、復讐を終えて肩の荷が下りたからでしょうか?
「え、えっと……そうですわ! せっかく流れ星が流れているのですから、願い事をしませんか!?」
「願い事か。ああ、そうしよう」
私の突拍子もない提案に、嫌な顔一つしないで、両手を組んで願い事を始めるエヴァン様。私もそれに続いて、同じ様に願い事を始めました。
私の願い……それは、愛するエヴァン様とこれからもずっと一緒にいること。そして、一緒に幸せになること……それ以外のことは望みません。
「これでよし。シエルは何を願ったんだ?」
「私ですか? エヴァン様とずっと一緒に、そして一緒に幸せになりたいってお願いしましたわ」
「なんだって? 俺も同じことを願ったんだが……」
「まあ、そうでしたの? 私達、息がピッタリですわね」
クスクスと笑い合う私達の間に流れる空気は、とても穏やかで居心地の良いものでした。
……今なら、私の本当の気持ちを、素直にエヴァン様に伝えられる気がしますわ。
「……エヴァン様。あの時の返事……お伝えしてもいいですか?」
「っ……! あ、ああ」
私はエヴァン様を愛している。そして、それはエヴァン様だって同じのはず。だから、これから伝えることは、断られることは無い。
それがわかってるのに、緊張で胸がバクバクいって、体の震えが止まりません。気持ちを伝えるのって、こんなに勇気がいることでしたのね……。
「……すー……はー……私達、婚約者なのですから、あらためてこういうことをお伝えするのは恥ずかしいですけど……私……あなたの気持ちをお聞きした時、とても嬉しかったです。でも、復讐のことがあったので、先延ばしにしてもらいました。その復讐が終わった今、自分の気持ちを包み隠さずお伝え出来ますわ」
ここでいったん区切り、もう一度深く深呼吸をして覚悟を決めてから、真っ直ぐエヴァン様を見つめました。
「私……あなたことを、心の底から愛しています。ずっとお傍に置いてほしいです」
やっと言えた愛の言葉。ありきたりなセリフかもしれませんが、私の愛を全て込めて伝えたつもりです。
でも、これだけでは足りません。この短い間でたくさんもらい、育んて来た愛を伝えるには、もっとエヴァン様に伝えたいことがあります。
それを伝えるには、いくら時間や言葉があっても足りません。だから……私は行動でその愛を伝えました。
「エヴァン様……んっ」
私は美しいキャンバスのようになった泉を背景にしながら、エヴァン様の首に手を回すと、そのまま唇を奪いました。
キスなんてしたことがないので、ちょっと勢いが強くなってしまいましたし、ほんの数秒程度で離れてしまいましたが……それでも、私の愛は伝えられたと思いますわ。
「ぷはっ……あの、私の気持ち……伝わったでしょうか?」
「…………」
「エヴァン様?」
エヴァン様は、完全に固まったまま、微動だにせずに後ろに倒れていってしまいました。
何かしらのアクションがあると思っていたので、すぐに支えることができました。そのまま倒れたら、泉に落ちていたかもしれません。
「もう、本当にエヴァン様ってば……いつもは冷静でお強いのに、こんな時は凄く初心なの、とても可愛らしいですわ」
倒れたエヴァン様に膝枕をしながら、私はもう一度流星群を眺める。
お星さま、見ていてください。私はずっと底辺な人生でしたが、これから最高に幸せな人生を歩んでいきますわ。エヴァン様と……一緒に!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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