第三十六話 第三の復讐
「はぁ……?」
いきなりエヴァン様を返せと言われても、全く意味が分かりません……もしかして、はい良いですよ、なんて言ってもらえると、本気で思ってたでしょうか?
「失礼する。話は聞かせてもらった」
「エヴァン様!」
部屋の外にいたはずのエヴァン様は、落ち着いた様子で部屋に入ると、私の隣に腰を下ろしました。
「まあ、お久しぶりですわ! ワタクシ、またあなたに会いたくて――」
「猫を被るのはもうやめろ。話は外で聞いていた。これ以上不快な言動をすれば、即座に斬り捨てる」
「ちっ……これだから根暗な野蛮人は……」
今、聞き捨てならない言葉が聞こえてきましたわね……いつもなら問い詰めているところですが、それでは話が一向に進みませんわ。ここはグッと我慢しましょう。
「エヴァン様を返せというのは、どういうことですか?」
「言葉の通りですわ。もともとはワタクシの物なんですから、返せと言ったら返すのは筋ですわ」
「エヴァン様を物扱いだなんて、一体何様のつもりですの?」
あまりにも身勝手すぎて、体中が怒りでどうにかなってしまいそう……。
「……どうして、そのような考えになったんだ?」
「ワタクシは、ルベン様との真実や愛を見つけ、結婚しました。結婚して初夜を迎えたワタクシは、期待と緊張で大変なことになってました。そんな状態で呼ばれた場所は……ルベン様の地下の牢屋でしたの!」
初夜をそんな所で迎えるだなんて、意味がわかりませんわね……どういうことなのかしら?
「そこにあった鎖で繋がれたワタクシは、ルベン様にムチで叩かれ、熱された鉄で焼き印を入れられたナイフで体中を傷つけられ……ワタクシは一晩中虐げましたの! それも、その日から毎日! やめてとお願いしても、彼はとても良い笑顔で……アイシャは美しいが、壊れていく様はもっと素敵って……ああ恐ろしい!」
え、えぇ……ルベン様の裏の顔は、そんな加虐嗜好の持ち主だったのですね……見た目ではわからないというのは、こういうことを言うのですね。
「それで、エヴァン様を返せと?」
「そうですわ! どうせワタクシが押し付けた結婚で、幸せなんかじゃないでしょう!? だからワタクシが、その地獄から解放してあげるって言ってるの! 感謝なさい!」
「不要ですわ。だって私……」
私の気持ちや、私達の関係性を知らしめる一手として、私はエヴァン様の頬に顔を近づかせ、そのまま頬にちゅっと口づけをしました。
ごめんなさい、エヴァン様。こんなことをされたら、ビックリして固まるに決まってますよね。ですが、お姉様に説明するにはこれが一番ですの。
「私、とても幸せなんですもの。お姉様のことは心の底から大嫌いですが、エヴァン様にめぐり合わせてくれたことには、感謝してますの」
「か、感謝していると言うなら、お返しくらいしなさいな! 姉であるワタクシがここまで頼んでるというのに、妹の分際で歯向かうの!?」
「そこまで仰るなら伺いますが、私がお姉様にお願いをして、叶えてくれたこと、覚えていますか?」
「もちろんよ。勉強を教えたり、ダンスを教えたり、社交界の振る舞い方を練習したり……他にも沢山ですわ」
お姉様の記憶の中は、一体どうなっているのでしょう? 嫌味のつもりで言ったのですが……あまりにも都合よく書き換え過ぎではないでしょうか? 関心を通り越して、恐怖を覚えますわ。
「そんなことはしてもらってませんね。勉強をしてたら、邪魔をしながらシエルは馬鹿だとずっと悪口を言われました。ダンスは珍しく教えてくれたと思ったら、当日のダンスは別で、私だけ踊れなくて恥をかかされたり、社交界の振る舞い方も間違ったことを教えられて相手を激怒させてしまい、私は罰としてお父様に酷い暴力を受けました。その時、あなたはニヤニヤ笑いながら見てましたよね?」
自分でも驚くくらい、お姉様からされてきた嫌なことがスラスラと出てきます。
本当に私って、お姉様のことが嫌いなんだなと、改めて思わされましたわ。
「とは言っても、世界で一人だけの姉の頼みを無下にするのも、忍びないですわ」
「なら、はやく――」
「そうだ、せっかくですから、お義母様と同じことをしてもらいましょう。それをすれば、許してあげますよ」
「同じことって……?」
「土下座、ですよ」
「はぁ!? 冗談じゃないわ!」
「そうですか。嫌なら話は終わりです。お引き取りを」
「ま、待って!」
悔しさと怒りと恨みで顔がとんでもないことになっているお姉様は、未練たっぷりな雰囲気で土下座をしました。
お義母様の場合は、ここで謝罪の言葉を言っていただきましたが、今回は少し違います。
私は、テーブルの上に乗っていた、水の入ったコップを手に取り、お姉様の頭に目掛けてかけてあげました。
「な、なにす――」
「喋らないでくださる?」
「い、いたいぃぃぃぃぃ!!」
勢いよく顔を上げようとするのを、足で踏みつけることで止め、そのままぐりぐりと踏みつける。
ヒールの高い靴を履いているから、かなり傷むでしょうね。いい気味だわ。
「痛い? そうですか。だから何ですか?」
「やめなさいって言ってますのよ!」
「やめませんよ。だって、私にも同じ様にやって、同じ様に止めませんでしたもの。どうして私だけ止めないといけませんの? もしかして、やられる覚悟もないのに、やっていたというのですか? お姉様、さすがにそれは愚すぎですわ」
「うぐぐぐぐ……こんな屈辱、お父様とお母様がいれば……!」
「残念ですが、その二人は二度と帰ってはきませんわ。ついでにお伝えすると、国王陛下も時期に表舞台から消えるでしょうし。もうあなたの後ろ盾はありませんわ」
「そんな……」
あぁ……その絶望に満ちた表情、とても素晴らしいですわ! 散々調子に乗っていたのが、今ではどん底にまで叩き落とされるお姿……胸がスカッとします!
「散々調子に乗ってましたが、これからあなたはどうなってしまうのでしょうね? 誰も助けてくれませんわ。彼を除いては」
「彼……!?」
「あなたの旦那様ですよ。彼ならあなたを愛してくれます。良かったですね、真実の愛だったのでしょう? ちょうど私も真実の愛を見つけましたし、いいことづくめですわ」
「嫌っ、あそこには戻りたくありませんの! お願い、助けてください! なんでもしますから、もういじめられるのは嫌なの!」
……なんだか、昔の自分を見ているようで懐かしいですわ。
私も、こうやってなんとか酷いことをされるのがつらくて、必死にお願いしましたが、何一つ受け入れてもらえませんでした。
だから、このお願いだって、絶対に受けてやるものですか。私の知らないところで、勝手に苦しんでいるのがお似合いですわ。
……そんなことを思っていると、固まっていたエヴァン様が、お姉様の前に出ました。
「人間には、いつか帰るところがある。俺にとってはシエルの隣。シエルにとっては俺の隣。君はルベン殿の隣だ。これはもう変わることは無い。それが嫌で、俺達を引きはがそうとするなら……」
エヴァン様は、鞘から剣を出し、先端の部分をお姉様の頬に添えました。
「相応の覚悟はしてもらう。抵抗するならそれも構わない。シエルを守るためなら、俺は躊躇わずに斬る」
「ひぃぃぃ!? お、覚えてなさいよ……この恨み、必ず晴らしてやるんだから……!」
いかにもやられ役が言いそうなセリフを吐きながら、お姉様は屋敷を出ていかれました。
ちょっと不完全燃焼な感じではありますが、これで第三の復讐は終わりですわね。私がこれ以上やらなくても、彼がたっぷりお姉様を可愛がってくださるでしょう……ふふ……ふふふ……!
「……はぁ」
……わかっていたことですけど、復讐をしてもなにもありません。スカッとはしましたが、お母様やローランお兄様が帰ってくるわけではありません。
ですが、やっと過去との決着がつきました。これで前を向いて進んでいけると思いますわ。
「あの、エヴァン様。やっぱり幻滅しましたよね?」
「してないが?」
「だ、だって……あんな辛辣なことを言ったり、酷いことを……」
「彼らは、当然の報いとしか言えないような人達だからな。当然のものを見せられても、なにも思わない」
「そうですか……よかった……嫌われたらどうしようかと思って……」
事前に私が復讐をするとは伝えていたとはいえ、実際に見たら気持ちが変わるかもしれません。だから、嫌われるかも……って思うのは、当然です。
「そんなことはない。俺はずっと君が……そうだ、君の目的は達成したし、例の答えを聞かせてくれないか?」
「例の答え……エヴァン様が告白してくれた時のですよね。わかりました」
「でしたら、一つ提案が」
「わぁ!? エレン、いつの間に部屋の中に……ビックリしましたわ」
「一件落着したようなので。私に最高の計画があるのです!」
エレンの計画って……なんだか嫌な予感もするけど、せっかく考えてくれたのだから、話を聞くだけでもしてみようかしら。
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