第三十五話 突然の来訪者
「はぁ……ふぅ……」
元々運動が凄く苦手な私にとって、急いで歩くことを想定されていない、ヒールの高い靴で急ぐのは、中々に大変なものでした。
しかし、泣き言は言わずに一生懸命屋敷に向かって歩みを進めます。
急がないと、もし本当にお姉様だった場合、自分の思い通りにならなければ何をするかわかったものではありません。
シャルディー家に迷惑をかけないため、エヴァン様との幸せな時間を邪魔させないため、一秒でも急ぎませんと。
「大丈夫か?」
「は、はい……が、頑張ります……」
「……シエル、少し失礼する」
「えっ……ひゃあ!?」
突然止まったと思ったら、エヴァン様は私のことをひょいっと軽々持ち上げ、そのまま先程よりも早く走り始めました。
「これが、お姫様抱っこ……! 不謹慎ですが、見られて大興奮です! 主様、成長されましたね……!」
「シエル、俺の首に手を回して、しっかり捕まってろ」
「は、はいぃ!」
あのエヴァン様が、私のためにお姫様抱っこをしてくれた衝撃と嬉しさで、完全に思考が停止しつつも、言われた通りに捕まりました。
いつもは、私がなにかしてエヴァン様が固まってしまうという流れなのに、今回は私の方が、緊張とドキドキで固まってしまいます。
……わかっています。エヴァン様は、緊張する余裕がないほど、急いでくれていると。だから、今は喜んでいる場合ではありません。
でも……でも! エヴァン様にこんなことをされたら、喜んでしまうのも無理はないと思いますの!
「着いたぞ。ゆっくり降りてくれ」
「あ、はい……ありがとうございます、エヴァン様」
幸せな時間というのは、あっという間に終わってしまうのですね……一人で盛り上がってた間に、到着してしまいました。
残念ですが、仕方がありません……今度、エヴァン様にお願いしたらやってくれないでしょうか?
「エレン、お姉様はどちらに?」
「応接室にお通ししてます」
「わかった。シエル、気をつけていこう」
「はい」
気持ちを切り替えて、お姉様と思われるお方が待つ応接室に向かうと、中から怒号が聞こえてきました。
「いつになったら、シエルは来ますの!? ワタクシは急いでおりますの!」
「…………」
「…………」
人の家だというのに、この傍若無人っぷり……思わず、エヴァン様と顔を見合わせながら、溜息を漏らしてしまいました。
さすがに、家にいる時ほどの暴言は飛び交ってはいないようですが……同じ血が流れていると思うと、恥ずかしくて仕方がありません。
「エヴァン様は、外で待っててもらえませんか? エヴァン様が同席したら、お姉様の本音が聞きだせないかもしれません」
「大丈夫なのか?」
「はい」
「……わかった、俺は部屋の外で話を聞いている。何かあったら、すぐに助けに行くから、安心して行ってくるといい」
「ありがとうございます。とても心強いですわ。では……行ってまいります。お姉様、シエルです。お待たせしました」
「やっと来たの!? 早く入りなさい!」
扉を軽くノックすると、お姉様の怒号が私に向けられました。
えっと、一応客人ってお姉様ですわよね? どうして私達の方が、呼ばれているような感じなのかしら? あと、人を招き入れる態度ではありませんわね。いつものことですが、
「まあ、なんでそんなにおめかししているわけ? 全く似合ってないじゃない! そもそも、ワタクシが大変だというのに、悠長におめかしだなんて、忌々しい子ですこと!」
「お姉様の都合なんて、私には関係ございませんので。それで、ご用件とは?」
「そうだったわ。説明の前に、これを見なさい!」
そう言うと、お姉様はドレスの裾を上げて、細い腕を私に見せつけてきました。
私の知っているお姉様の腕は、色白でスラッとしていて……認めたくありませんが、綺麗な腕でした。
しかし、今はグルグルに包帯が巻かれています。その下を見せてもらうと、切り傷や火傷といった怪我でボロボロになっていました。
何があったのかは知りませんが、随分と痛そうですわね。これが他のお方なら胸が痛みますが、相手はお姉様……正直、少しだけ胸がスッとしてしまいましたわ。
「まあ、これは随分と酷い怪我ですわね。お気の毒に」
「どうして他人事なのよ!? 家族がこんな酷い怪我をしているというのに!」
「他人事ですから。あと、家族とか仰らないでください。虫唾が走るので。そもそも、そんな酷い怪我でも、聖女の力なら治せるでしょう? ああ、そういえばお姉様の聖女の力は、あまり強くないせいか、自分の治療は出来ないのでしたわね。これは失礼しました」
「自分なら出来るからって、嫌味を言うだなんて、本当に恥知らずな女ですわね……!」
お父様やお義母様もですが、先程から自己紹介みたいな台詞を好んで使うのは、一体なんなのでしょう? 明らかに、それって私じゃなくてあなた達ですよね? ってことが多すぎますわ。
「申し訳ありませんが、私は諸事情で聖女の力を失ってしまいましの」
「は……? え、あんた聖女の力使えないの?」
「はい」
別に隠すようなことではないので、素直にお話すると、お姉様は嬉しそうな、でも残念なようにも見える、何とも表現しずらいお顔になってました。
「あんたが、どこにでもいる底辺に堕ちたのは喜ぶべきだけど……それじゃあ、ワタクシの傷が治せないじゃないの!」
「はい。諦めてください」
まあ、いくら頼まれたところで、お姉様の治療なんて、絶対にやりません。申し訳ないけど、私はそこまでお人好しじゃありませんの。
「それで、その腕の治療が本題ですか?」
「それもありますが、本題は別ですわ今日話に来たのは他でもない……あんた、エヴァン様と別れて、ワタクシに返しなさい!」
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