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第三十三話 世界一美しい女性

「う~ん、う~~~~ん……」


 あれから更に一週間経ったというのに、私は一向にいい方法が思いつかず、頭を抱える日々を送っていました。


 世間では、フラン様によって国王の悪事が暴かれて大騒ぎされているというのに、シャルディー家の屋敷の中は、至って平和そのものです。


「シエル様、これをごらんください。国王の悪事が芋づる式に出てきてしまい、近いうちに国王を辞任すると新聞に書かれていますよ」


「本当ね。当然の報いだわ」


 家族ほど憎んでいなかったとはいえ、私を苦しめる一端を担っていた国王の破滅なのだから、もっと喜ぶべきなのでしょうけど、今は呑気に喜んでいる暇はありません。


「……シエル様。最近ずっと難しい顔をしていますよ? 少しは息抜きをした方がよろしいのではないでしょうか?」


「心配してくれてありがとう、エレン。でも、早く私は目的を達成したいんですの」


 一秒でも早く、私を苦しめていた最後の一人であるお姉様に復讐したいですし、復讐を全て終わらせて、過去と決別して……エヴァン様と幸せな生活をしたいです。


 そのためには、休んでいる暇などありません。なんとかして、誰にも迷惑をかけない方法を考えませんと。


「疲れている状態では、頭が働かなくて、良い方法は思いつかない。エレンはそう言いたいのだろう」


「え、エヴァン様!? いつのまに私の部屋に……!?」


「先程帰ってきたんだ。国がごたごたしているせいか、夜に予定されていたパーティーが急遽中止になって、早く帰ってこれたんだ」


 今日一日、エヴァン様は屋敷のお仕事やお付き合いで、留守にしていると聞いていた。

 なので、勝手に顔がにやけてしまうくらいには、早く会えたが嬉しいです。


「そうでしたのね。お出迎えも出来なくて、申し訳ないですわ」


「予定外のことなのだから、気にすることは無い。それよりも、せっかく早く帰ってこれたのだから、少し俺に付き合ってくれないか?」


「何かお仕事で手伝えることでもあるのですか?」


「違う。そうだな……世間一般的に言うと、デートの誘い……だ」


「デート!?」


 ど、どど、どどどどうしましょう!? あのエヴァン様から、デートのお誘いをしていただけるなんて、嬉しすぎますわ!


「もちろんよろこんで! それで、どこに向かうのですか?」


「出かけたいのは山々だが、世間はどこも騒がしくなっているからな。屋敷の敷地内でのんびり過ごすのはどうだ?」


「わかりましたわ!」


 一緒にお出かけ出来ないのは残念ですが、お家デートというのも良いですね。誰にも邪魔されず、のんびりと過ごしましょう。


「そうと決まれば、主様は早くお部屋に戻ってください」


「……急にどうしたんだ、エレン」


「デートなのですから、いつも以上に身支度に気合を入れなければならないのです。それくらい、おわかりでしょう?」


「私じゃなくて、エレンが一番張り切っておりますわね……」


「当然ではありませんか。お二人のイチャラブ成分は、私に生きる気力を与えてくださいますから」


 イチャラブ成分というのはよくわかりませんが、その言い方だと、また私達が一緒にいるのを覗き見る気ではないでしょうか? 見られて困るものではないのですが、少々恥ずかしいですわ。


「ほら、わかったら早く出ていってください」


「わかった。それじゃあ、俺も一旦着替えてくる」


「どうしてそうなるのですか!? せっかく外行きのバッチリ決まった格好を自分から崩す人間が、どこにいるのですか!?」


「エレン……少し怖いのだが。シエルから何か言ってくれないか……?」


「きっと私達が何を言っても、エレンの耳には届きませんわ……素直に従った方がよろしいかと」


 別に私達に悪いことがあるわけでもないですし、エレンだって私達のことを考えて仰っているのでしょう。だいぶ私利私欲が混ざっている気もしますが。


「それじゃあ、俺は部屋で少し休憩しているから、準備が出来たら呼んでくれ」


「わかりました」


 エヴァン様を見送った後、私は気合の入ったエレンの手によって身支度を整え始めます。


 一応、名目上はお家デートなのですが、エレンはかなり重要なパーティーに出る時に着るようなドレスだったり、装飾品を引っ張りだしてきました。


「エレン、さすがにそれはやりすぎではないかしら……?」


「お二人の大切なデートで、やりすぎなんてことは断じてありません! それに、シエル様だって、主様に可愛いと思ってもらいたいでしょう?」


「はいっ!」


 エレンの気迫に感化されたのか、それとも本心だったからか。私は、エレンの問いかけに対して、即座に大きな声で返事をしていました。


「ふふ、ご安心ください。私がシエル様を、世界一美しくドレスアップしてさしあげます」


「なにを言っている。シエルは既に、世界一美しいだろう」


「きゃあー!? エヴァン様、お部屋に戻ったのではないですか!?」


「戻る途中に、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がしてな。急いで戻ってきた」


「どう考えても聞こえる距離ではなかったと思うのですが!?」


 剣の道を究めると、そういうのもわかるようになるものなのでしょうか? いや、さすがにそれは無いと思うのですが……。


「主様、さすがにそれは少々気持ち悪いです……」


「……なぜだ……俺はただ、事実を述べに来ただけなのだが……」


 私達の反応が納得いかないような様子のエヴァン様は、なにがいけなかったのかブツブツ独り言を言いながら、今度こそ自室へと戻っていかれました。


「さて、改めまして……シエル様を世界一美人にさせていただきます」


「え、えっと……お手柔らかに?」


「無理です」


 そこは嘘でもわかったと言ってほしかったのですが、それをお伝えする前に、エレンや数人の使用人の手によって、私の身支度がどんどんと進められました。


 その結果、とても綺麗な薄水色のドレスを身にまとい、装飾が凝った作りの髪飾りやイヤリングをつけてもらい、いつもはおろしている銀の髪は、ウェーブがかかったフワフワの髪になり、それを編んでおろした形にしてくださいました。


「わあ……とっても素敵ですわ」


 日頃から、皆様は私の身支度を丁寧に、かつ綺麗にしてくださるのですが、今日はその中でも特に綺麗にしていただきました。


「では、主様をお呼びしてきますので、少々お待ちください」


「はい」


 エレンに言われた通りに、ソファに座ってエヴァン様が来るのをのんびりと待つ。


 エヴァン様、綺麗って褒めてくれるかしら……もし褒めてくれたら、とっても嬉しいですわ。


 なんてことを考えながら、一人の部屋でニヤニヤしていると、扉がノックされる音が聞こえてきた。


「俺だ。入っていいか?」


「はい、どうぞ」


 部屋に中に入ってきたエヴァン様は、ドキドキする私の姿を見るや否や、たくさん褒めてくれる……なんてことはなく、その場で全く言葉を発さなくなってしまいました。


「エヴァン様?」


「…………」


「あの……?」


「……………………」


 いつもの様に、固まってしまったのかと思いましたが、今回はいつもの様に触れ合ったりしていません。

 なのに、いくら声をおかけしても、エヴァン様は一向に動く気配がありません。


 もしかして、今日の私はエヴァン様のお気に召さなかったのでしょうか? せっかくエレン達が、一生懸命準備してくださったのに……。


「はあ、まったく主様は……シエル様、少々お耳を塞いでいてくれますか?」


「耳……? はい、わかりましたわ……」


 落ち込みながら耳を塞ぐと、エレンはすーっと大きく息を吸い込み――


「主様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ――その声は、まるで屋敷を破壊しかねんばかりの、とんでもない大声量でした。思わずその場で尻餅をついてしまいそうになったくらいでした。


「うおっ!? なんだ、なにごとだ!?」


「なんだはこちらのセリフです。主様、見惚れるお気持ちはわかりますが、こんな素敵なシエル様を前にして、何も言わないのはあまりにも最低です。なので、一喝させていただきました」


「あ、ああ……すまない。あまりの美しさに、立ったまま気絶をしてしまったようだ」


 き、気絶って……今までに、私と触れあって固まってしまうのは拝見いたしましたが、気絶は初めてのことですわ。


 ……それにしても、美しいですか……え、えへへ……一秒にも満たない短い言葉なのに、嬉しくてだらしない顔になるのが止められません。


「いきなり不甲斐ないところを見せてすまなかった。それじゃあ行こうか。ああ、エレン。先に断っておくが……これから行く所は、例の場所だ」


「例の場所ですか……では、私はついていけませんね。残念ですが、屋敷で留守番をしています」


 ついてくる気は満々だったのかというのは、この際置いておくとして。例の場所というのは、一体どこのことを指しているのでしょう? とても楽しみですわ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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