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第三十話 愚かな当主

■バルナルト視点■


「ええい、ステイシーはまだ見つからんのか!」


「は、はい……懸命に捜索しておりますが、いまだに足取りはつかめておりません」


 我が愛しの妻、ステイシーが姿をくらませてから二週間が過ぎた。


 ステイシーは、毎年行われている、とある貴族のパーティーに向かって以来、消息を絶ってしまった。


 だから、ワシは多くの傭兵を雇い、全力でステイシーの捜索をしているのだが……一向に見つけることが出来ない。


「ふざけるな! それもこれも、貴様らが揃いも揃って無能だからだ!」


「そ、そのようなことは……」


「ワシに口答えするつもりか!? いい度胸じゃないか! 誰か、この女を懲罰房に連れて行け!」


「なっ!? そ、それだけはおやめください! 私には、結婚を約束した男性が――」


「ほう、それは面白いことを聞いた。貴様で溜まりに溜まったストレスを発散させてもらおう!」


 最近雇った傭兵達に拘束された女の使用人は、泣きじゃくりながら部屋の外に連れていかれた。


 ワシが心から愛する女はステイシーだけだが、だからといって他の女を抱かないというわけではない。


 本来なら、あの女の容姿はそこまで好みではないが、このストレスを溜めておいては体に毒だ。それに、気を紛らわすのにも丁度良さそうだ。


「くそ……本当に、どこに行ってしまったのだ……?」


 ステイシーが使う予定だった道は、最短かつ安全を考慮して、森を伐採した道を使っている。あそこなら、崖崩れや落石といった自然現象の事故は起こらないはずだ。


 そうなると、誰かに襲われたという可能性しか無いのだが……そうならないように傭兵を雇ったというのに、その傭兵すら消息不明なのだから、どうしようもない。


「バルナルト様、失礼します!!」


「なんだ貴様、ノックをすることも知らん馬鹿なのか?」


「申し訳ございません! この情報を早くお伝えしたくて!」


「情報だと? まさか……!?」


「はい! ステイシー様の目撃情報を手に入れました!」


 傭兵の一人が扉を壊す勢いで入ってきた無礼を咎めたいが、今はそれどころではない。


 あれだけずっと探させていたステイシーの情報が、やっと手に入ったのだ。それ以外のことなど、どうでもいい。


「それで、ステイシーはどこに!?」


「どうやら、ステイシー様はこの村の人間に誘拐されてしまったようです! 傭兵達も、そこに捕まっていると!」


 広げられた地図には、この屋敷から一番近いところにある村に赤い丸が付けてあった。


 まさか、こんな近いところだとは思っても見なかった。確か、異国の地でこういうのを示す言葉があった気がするが……まあいい。


「ワシやフィルモート家に対する反逆というわけか。面白い……! 貴様、傭兵全員を中庭に集めろ!」


「はっ!」


 ワシは急いで身支度をして中庭に行くと、そこには今回の件で雇った多くの強者達が、並んでワシの到着を待っていた。


「今日集まってもらったのはほかでもない。ついに我が妻、ステイシーの行方が分かった! ステイシーは、ここから一番近い村の愚民共に誘拐されたようだ! そこで、貴様らにはワシと共に村に向かい、ステイシーの奪還と領民の虐殺をしてもらう!」


 領民が減れば、その分税を納める人間が減ってしまうが、そんなことは他の領民の税を増やせばいい。

 それよりも、ステイシーに危害を加えた領民達が、粛清される様をこの目で見なければ気が済まん!


「さあ者ども、ワシに続け!」


『おぉぉぉぉーー!!』


 ワシは逞しい馬に乗り、傭兵達の先頭を切って屋敷を出発した。


 こんな馬鹿げたことを企むだなんて、本当に愚か者だ。このワシを怒らせたこと、その身をもって後悔させてやろう。



 ****



 屋敷を出発してから数十分程で、ワシは目的地である寂れた村へとやってきた。


 まったく、この辺りは辛気臭くてかなわん。いるだけで、愚民共の貧乏臭いのが移ってしまいそうだ。


「む……あれは……」


 村を破壊してでも、徹底的に捜索をするように指示をしようとしていると、ボロ雑巾の様に汚らしい村人達が、徒党を組んでやってきた。


 一丁前に、鎌やクワといった農家の道具で武装をしているが、その程度でワシが雇った傭兵達に太刀打ちできると思ったのか。本当に愚かな者どもだ。


「随分な出迎えではないか。その愚かさに免じて、一度だけ聞いてやろう。我が妻、ステイシーを攫ったのは、貴様達か?」


「…………」


 愚民共は、生意気にも何の返事も返さなかった。その代わりに、持っている武器を持つ手に力を込め、いつでも戦えるようにしていた。


「それが答えか……この愚民共め。ワシへの反逆のためにステイシーを攫ったその愚かな行為、後悔させてやろう! 貴様ら、奴らに二度と逆らおうと思えないように、痛い目に合わせてやれ! それとそこの貴様、城に行って援軍の要請を!」


「…………」


「なにをしている! ワシの命令が聞こえなかったか!?」


「聞こえてるぜ。この状況でも偉そうに出来る、その胆力が面白くってな」


「一体何を……!?」


 不敵に笑う傭兵の男に続くように、他の傭兵達も愚民と戦わず、愚民共と肩を並べてワシに武器を向けた。


 ど、どういうことだ? 一体何が起こっているというのだ!? どうしてワシが雇った連中が、ワシの安全を脅かす輩と戦わないのだ!?


「酷い間抜け面ですわね、お父様」


「っ……!? き、貴様は……!」


 領民達の中から聞こえてきた声に、思わず自分の目を疑った。


 そこにあったのは……フィルモート家から嫁がせる形で追い出した、シエルの姿だった。


「どうしてここに……まさか……貴様の仕業か、シエル!」


「ええ、そうですわ。あなたの雇った傭兵の方々は、私が事前に依頼をしていた方々……つまり、私の味方ですわ。もちろん領民の方々も。いなくなったお義母様の情報を見つけたという情報を流せば、お父様なら必ずお越しになると思ってましたの。お父様の性格なら、必ず領民が粛清する様を見届けようとするでしょう?」


 この愚かな娘め……認めたくはないが、ワシの考えを完全に熟知している。ワシは、シエルの罠に完全に落ちてしまった……!


「ステイシーをどこにやった!?」


「お義母様? 今頃は、とても素晴らしい場所で可愛がってもらってると思いますわよ?」


「ふざけるな! 事と次第によっては、その四肢をバラバラにするぞ!」


「……お父様、この状況でも強気でいられるのは、ある意味尊敬に値しますわ」


 シエルは普通に笑っているだけなのに、なぜかワシの体は悪寒に襲われた。この女の笑顔に、ただならぬ恐怖を感じたのだ。


 相手はあのシエルなのだぞ? 生まれてからずっと、ワシらから疎まれて、虐げられてきた……あのシエルだというのに……!


「その態度が、いつ変化するのか……とっても楽しみですわ。皆様、例の場所までお父様をお連れくださいませ」


 シエルのその言葉を最後に、ワシは傭兵達に襲われて、その場で押さえつけられてしまった。


 シエルめ、一体何を企んでいるかは知らんが……ワシにこんなことをした報いは、必ず受けてもらう! 今のうちに調子に乗っておくがいい!


ここまで読んでいただきありがとうございました。


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