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第二十二話 真夜中のお茶会

「…………」


 再び目を覚ますと、部屋の中は一つの光源以外、何も明かりをともしておりませんでした。


 外も真っ暗ですし、だいぶ夜が更けてきた頃に目を覚ましてしまったようですわね……。


「シエル、起こしてしまったか?」


「……エヴァン様?」


 声のした方を見ると、唯一の光源であるランプに照らされたエヴァン様が、私のことを見つめていました。


 ……どうして、私のベッドのすぐ横に、小さな机と椅子が置かれているのでしょう? それに、どうしてエヴァン様がそこに座っておられるのでしょう?


「なにか飲むか? それともお腹がすいたか?」


「いえ、お気持ちだけいただいておきますわ。それよりも……どうしてエヴァン様が、こんな夜更けに私の部屋に?」


「君に、もしものことがあった時のために、夜はここで仕事をしている」


 仕事? 言われてみれば、確かに机の上には、色々な書類が山積みに……。


「それに、本当なら君をもっと支えてあげなければいけないのに、俺にはその方法が思いつかなかった。だから、せめて君が元気になるまで、少しでも一緒にいようと思ったんだ」


「エヴァン様……ありがとうございます。私には、そのお気持ちだけで胸がいっぱいですわ」


 このお方は、どれだけ私に優しくしてくれるのでしょうか? どれだけ私を喜ばせてくれるのでしょうか? どれだけ……私に恋をさせてくださるのでしょう?


「私、少々お花を摘みに行ってまいりますわ」


「歩けるのか? 無理はしない方がいい。誰か呼んでくるか?」


「お気遣いは不要ですわ。少しは動かないと、余計に具合が悪くなってしまいますもの」


 そう伝えてから、そそくさと部屋を後にした私は、お手洗いではなく調理場へと向かいました。

 そこで、以前エレンに教えていただいた、おいしいお茶の淹れ方で、二人分のお茶を用意いたしました。


「これでよし。もう遅いですし、そーっと戻りましょう」


 極力カチャカチャと音が鳴らないように自室に戻ってくると、出迎えてくれたエヴァン様が、目を丸くしておりました。


「シエル、それはどうしたんだ?」


「ささやかではございますが、お礼をと思いまして。休憩がてら、一緒にいかがですか?」


「…………」


「あ、お仕事に支障をきたすようでしたら、無理にとは……」


「いや、全然無理じゃない。その……なんていうか、君の気持ちがとても嬉しくて、言葉が出なかった」


「そ、そうでしたか」


 少しだけ頬を赤くするエヴァン様、とっても可愛らしいですわ……胸がきゅんきゅんして、どうにかなってしまいそう。


「せっかくだから、バルコニーでお茶をしないか? 今日は月も星も綺麗な夜だ」


「それは素晴らしいご提案ですわ」


 私は淹れてきたお茶を、エヴァン様は仕事に使っていたランプを持って、一緒にバルコニーへと出てきました。


 エヴァン様が仰っていた通り、夜空には満天の星空が広がり、満月が私達を優しく見守ってくださっていました。


「シエル、足元に気をつけて」


「ありがとうございます」


 私のことを気遣ってくださるエヴァン様は、わざわざ椅子を少しだけ引いてから、私の手を取って座らせてくださいました。


 一見スマートに見えますが、私に触れる時に少しだけ固まったり、照れてしまうところが、なんともエヴァン様らしいです。

 格好いい一面もあり、可愛い一面もあるエヴァン様は、本当に素敵なお方ですわ。


「……うん、とてもおいしい。シエル、お茶を淹れるのうまくなったな」


「ありがとうございます」


 おいしいと思ってもらえて、良かったですわ。


 まだ何も出来なかった頃、お茶くらいは淹れられるだろうと己惚れて、試しに淹れてみてエヴァン様に振舞った時も、おいしいと言ってくださいましたが……あとから自分用に淹れてみたら、お世辞にもおいしいものとは言える代物ではありませんでしたの。


 あの時ほど、ちゃんと振舞う前に練習をしたり、味見をすればよかったと後悔した日はありませんわ。


「本当、よかったですわ……ふふっ……」


「ん? どうかしたのか?」


「こうしてのんびり過ごせているのが、幸せだと思いまして。今も苦しんでいる領民のことを考えたら、のんきに幸せを噛みしめている時間は無いのですが……」


「……そうだろうか? 上手く言えないが……彼らは、君が自分達のために苦労しているよりも、幸せにしている方が、喜ぶんじゃないか?」


「そんなこと……」


「俺は、まだ彼らとほとんど交流はないし、全員と話したわけでもない。だが、皆とても優しい人ばかりだった。そんな彼らが、今の考えを聞いたら……と思ったんだ」


 エヴァン様の仰る通り、皆様とても優しいお方ばかりです。そんな彼らが、私の苦労を見たいとは、私も思えません。


 しかし、その優しさに甘えてしまっては、いつまでたっても彼らを地獄から救えません。それはそれ、これはこれとして、私の決意は揺るがないようにしなければ。


「励ましてくださり、ありがとうございます。少しだけ、肩の荷が下りた気がします」


「そうか。ちゃんと励ませたのなら……よかった」


 エヴァン様はお茶を飲み終えた後、立ち上がってバルコニーの手すりの所まで行き、空を仰ぎ見ました。


「シエルもこっちに来るといい。この美しい空を見ていたら、少しは安らぐだろう」


「はい」


 言われた通りにエヴァン様の隣に行った私は、自然とエヴァン様に寄り添うように、体をピタリとくっつけました。


「し、シエル?」


「エヴァン様、私……あなたに出会えて、本当によかった」


「……ああ、俺もだ」


 ――お母様、ローランお兄様、そして領民の皆様。私は必ず、目的を達成すると、ここに改めて誓います。


 だから……今だけ、ほんの少しだけ。この幸せを噛みしめさせてくださいませ……。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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