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第二話 理不尽な姉と、理不尽な暴力

「…………??」


 呆気に取られるとは、まさにこのことでしょう。人間というのは、驚きすぎると、本当に口をポカンと開けたまま、何も言えなくなってしまうものなのですね。


「お姉様は、一体何を仰っておられるのですか?」


「あんな根暗よりも、もっと素敵な男性を見つけましたのよ。ルベン様という素敵な殿方ですの」


 ルベン様って、確かマニャール伯爵家のご子息様でしたわね。とても人当たりが良いお方で、老若男女問わずに人気がある男性です。


 私も何度かお話をさせてもらったことがありますが、その噂に違わぬ人格者でしたが……。


「すでに結んでいる婚約は、どうするおつもりですの?」


「もちろん破棄させていただきますわ。何を考えているか全くわからない殿方よりも、ルベン様のようなお優しい殿方に可愛がってもらった方が、幸せに決まってますもの」


 お姉様がそう言いたくなる気持ちは、全くわからないわけでもない。

 その婚約者というのは、ルベン様と全く逆で、いつも表情に乏しくて口数も少なく、なにを考えているかわからないお方ですの。


 社交界の噂では、目を合わせたら殺されるとか、世界を滅ぼそうとしているとか、あまりにも凄すぎる噂が出るくらい、恐れられているお方ですの。


 私も、何度かご挨拶をしたことはありますが、確かに少々愛想が乏しいお方だと感じました。


 ですがお姉様は、ああいう怖そうでミステリアスなお方って、特別感があって素敵ですわ! とか言って……お父様の協力の元、なんとか婚約したというのに……。


「話し合いも無しに、勝手に別の婚約者に変えるのなんてもってのほかですし、それを妹である私に押し付けるのも論外ですわ!」


「あなた、ちょうど婚約者が亡くなってフリーになったではありませんか? だから、その穴埋めにワタクシが協力してあげようとしてますのよ! おーっほっほっほっ! なんて素晴らしいタイミングかしら! ほら、泣いて感謝してもよろしくてよ?」


「っ……! なんですか、それ。それが大切な婚約者を失った私に対する言葉ですの!?」


「あらやだ、キャンキャン吠えないでくださる? 耳が痛くてかないませんわ」


 はぁ……と心の底から溜息を漏らしながら耳を塞ぐお姉様の行動は、明らかに私を煽っているようにしか見えません。


 私の大切な婚約者の死を利用するような発言も、簡単にお姉様の婚約者を裏切るような身勝手な行いも、私を怒らせるには十分でした。


「……お姉様、そんな身勝手な要望が、お相手に通ると本当にお思いですか?」


「もちろん。結婚が破談になれば、両家の得るものが無くなって面倒ごとに発展するでしょうが、結婚相手がワタクシからあなたに変わるだけ。これなら両家とも結婚は出来るから、問題は無いでしょう?」


 それは……そうかもしれないけど、勝手に変えるというのは、信用問題に関わりますわ。結婚をする以上、互いに信用が無いと、いつか大変なことになってしまうかもしれませんもの。


「それに……ワタクシは何をしても許されますの! だって、ワタクシはとても美しいから! 美しい人間の言うことを聞くだなんて、最高の名誉だと思わない?」


「…………」


 ダメだ、あまり汚い言葉を使いたくはありませんが……我が姉ながら、あまりにも考え方が愚かすぎて、ついていけませんわ。


 こうなったら、お父様とお義母様に直接お話した方が早そうですわね。聞いてくれるかは、定かではございませんが。


「急用が出来たので、失礼しますわ」


「あらやだ、どこに行くの? まだ泣いて感謝をしてもらっておりませんわ」


「当然です。私はお姉様に感謝の気持ちなんて、これっぽっちも抱いておりませんもの」


「ふぅん……そう」


 今までずっとヘラヘラして、大切な人を失って悲しみに暮れる私を、わざと小馬鹿にするような態度を取っていたのに、突然冷たい表情を浮かべると、私の腕を掴んで、床に無理やり倒しました。


「愛人の子の分際で、偉そうにほざかないでくれます? 不快ですわ」


「がっ……うっ……や、やめ……」


 床に倒れる私の頭に、お姉様の足が乗せられる。しかも体重をかけてぐりぐりとしてくるから、頭が割れるように痛みました。


「そんなあなたでも、この家にいられるのはワタクシ達の寛大な心だというのが、まだわからないんですの?」


 寛大な心? 冗談はその意味不明な考え方だけにしてほしいですわ。


 私をここに置いているのは、追い出したせいで私が面倒なことを起こすことを恐れているのと、私を良いように利用して、自分達の楽しい玩具にしているだけでしょう?


 こんなところ、こっちからさっさと逃げだしたい。しかし、今の私には行くあてなんて無いし、お金もないし、手に職があるわけでもない。あるのは、少し特別な力だけの、至って普通の貴族なのだから。


「ほら、ありがとうございますと、たてついてごめんなさいは? ほら、ほらほらほら!!」


「あぁぁぁぁぁ!? あ、ありがとうございます……生意気にたてついて、ごめんなさい……!」


「ふん、最初からそう言えばよろしいのよ」


「い、いたいいたいいたい……!! ど、どうして……!?」


「謝罪は聞いたけど、さっきキャンキャンうるさかったのが頭から離れませんの。だから、その原因を作ったあなたに……お・し・お・き」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


「そうだ。せっかくこの部屋に来たのだから、何か良さそうなものは貰っていきましょう。とはいっても、既に取り尽していて、あとは汚いネコのぬいぐるみだけですわね……はあ、少しはワタクシのことを考えて、新しい服でも用意しておくのが礼儀でしてよ」


「やめ……やめて……いた、い……」


 頭に走る激痛はその後も続き……痛みに耐えきれず、私の意識は薄れていく。


 ――ここでの生活は、こんなことばかり。理不尽に虐げられ、都合のいいように使われる。


 私、この先どうなってしまうのかしら……そんなことを考えていたら、いつの間にか意識は絶望の闇の中に沈んでいった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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