第十八話 寂れた領地
「へっへっ、到着しやした。あっしは商売の話をしてくるんで、お二人は好きにしてくだせえ。時間に遅れたら、旦那といえど置いていくんで、あしからず」
「わかりました。本当にありがとうございます」
私は一旦商人のお方と別れ、関所から一番近い村へとやってきました。
まだここを離れてからそれほど時間は経っていないのに、以前よりも数段は寂れて見えるのは、きっと私の気のせいではないでしょう。
「とりあえず、村長様のところに行きましょう」
「ああ……それにしても、事前に君から聞いてはいたが、こんなに酷いとは思ってなかった。領主たるもの、領地と領民は絶対に守り、発展させなければならないのに」
「私もそう思いますわ。ですが……お父様にとって、領民は税をむしり取るだけの、体のいい存在としか思っておりません」
「まったく最低な人物だ。だが……これでフィルモート家が不思議な行動をしていたのが納得できた」
不思議な行動? 一体何の話でしょう? 心当たりがありませんわ……。
「なにをしていたのですか?」
「フィルモート家が主催のパーティーに、何度か招待されたことがあるのだが、毎回フィルモート家が送り迎えをしてくれていたんだ」
「そういえば、パーティーの時は毎回大人数を動かしておりましたわね……でも、どうして?」
「目の前に広がる光景が答えだろう」
光景って、この寂れた村の風景のことを仰っておられるのですよね?
「送迎の際に、毎回外に出ないようにと念を押されていた。キャビンにも窓が付いていなかったし、よほど外を見られたくなかったのだろう」
「もしかして、この領地の惨状を見られて、外部の人間に情報を漏らされるのを嫌った?」
「俺はそう思う。外を見ないようにさせれば、隠蔽は容易だろうからな。村人が密告しようにも、その場で殺せば問題ないだろうしな」
私はあくまで内情を知っていたから、そんな隠ぺいをしているとは知りませんでしたが、事情を聞いた状態だと、とても納得がいきますわ。
「本当に、どこまでも最低な人達ですわ……自分の領の民を、一体何だと……あっ!」
怒りに身を焦がしながら歩いていると、畑で仕事をしているお婆様の姿を見つけました。
元々、お年を召していることもあって、仕事の早さはそれほどなかったお方ではありますが、前よりもさらに早さが落ちている気がしますわ……。
「エヴァン様、ちょっとお声がけをしてきてもよろしいですか?」
「もちろんだ。俺も行こう」
エヴァン様の厚意に感謝しながら、お婆様の元にやってくると、なんだか怪訝な表情で見られてしまいました。
「こんな寂れた村に、何かご用ですかな? それとも、ワシを騙して、何か取ろうと思ってるんか? ふん、ここにあるのは土と不作の野菜だけさね」
「静かに。これからお見せするものを見ても、大きな声を出さないでくださいね」
もしかしたら、見回りをしている兵士がいる可能性も否定できません。
だから、念には念をということで、忠告をしてからウィッグを取り外すと、お婆様は目を丸くして驚いておりました。
「そ、その銀の髪……それに、どことなくあの方に雰囲気が……いや、ワシは信じんぞ! もう、あのお方は……ここには来れないのだから……!」
正体がバレないように、いつもと違う雰囲気に見えるお化粧をしてもらったので、まだ信じてもらえないようです。
「以前、この畑で採れたジャガイモを、お婆様が蒸かして私に振舞ってくださりましたわね。本当においしかったですわ。私、今でもあの味を覚えておりますもの」
「それは、シエル様との思い出……あ、ああ……あなたは……本当にシエル様? よかった、ご無事で……」
昔のことを話したら、無事に信じてもらえましたわ。涙を流して私との再会を喜んでくださいました。
「でも、どうして……?」
「説明すると長くなってしまうのですが……新しい婚約者のお方が協力してくださったおかげで、こうしてまた来ることが出来たのです」
「なんということじゃ……シエル様の笑顔が、ワシらの希望が、また見られるなんて……さっさとお迎えが来なくて、本当に良かったわい……」
涙を流して喜んでくれるお婆様につられて、私も涙を流しながら、抱擁を交わしました。
こんなに痩せ細ってしまって……毎日何とか生きることで精いっぱいなのでしょう……あまりにも不憫で、そして何もしてあげられない自分が不甲斐なくて、胸が締め付けられます。
「は、早くこの村や他の村の人にも、教えてあげなくては!」
「お待ちください。実は、今日もお忍びで来ておりまして……私が来たことが、フィルモート家に知られると、都合が悪いのです」
「そうでしたか。では、年寄りは静かにしています。それで、シエル様はこれからどちらに?」
「あまり時間がありませんので、とりあえずは村長様の家を目指しながら、出会った村の方々に挨拶をして回ろうかと。突然あんなことがあったので、きっと心配をかけてしまっていると思いますので」
「そうでしたか。では、これ以上お引止めするのも申し訳ないですね」
「そんなことはありませんわ。お婆様、私はどんな時でも皆様の味方です。だから、今はおつらいでしょうけど……頑張ってください」
私はお婆様ともう一度抱擁を交わしてから、再び村長様の家を目指して歩きだしました。
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