第十五話 この気持ちの正体
「ここが目的地だ」
綺麗な森の中に鎮座する石碑には、ここに眠っている多くのご先祖様の名前が刻まれておりました。
シャルディー家の歴史は、とても長いというのは聞いたことがございますが、この沢山の名前を拝見すると、本当に多くのお方がシャルディー家を守り、繁栄させてきたのだと思わされます。
「父さん、母さん、今日は新しい婚約者を連れてきたよ」
エヴァン様は、手に持っていた花束を石碑の前に置きながら、とても優しい声色で報告をしていました。
「エヴァン様のお父様とお母様って……」
「ああ。二年前に事故で亡くなったんだ。本当に突然だった」
エヴァン様のご両親が、既にお亡くなりになっているというのは存じておりましたが、改めて聞くと、とても悲しい気持ちになります。
シャルディー家の雰囲気の良さからして、きっとご家族の仲も良好だったのでしょう。そんな家族が突然いなくなってしまったエヴァン様の気持ちを考えたら、慰めたくなって……無意識に手がエヴァン様に伸びていました。
しかし、それは直ぐに引っ込めました。せっかくのお墓参りで、突然驚かせて台無しにしてしまっては、元も子もありませんもの。
「シエル、俺は色々と報告がしたいから、少し待っててくれないか?」
「わかりました」
私に声をかけてから、エヴァン様は両目を閉じて祈り始めました。
せっかく連れて来てもらったのですから、私もシャルディー家のご先祖様達に、ご挨拶と祈りを捧げたいです。
「…………」
私は両膝を地面につかせ、両手を組んでから祈り始めました。
自分のことや、シャルディー家の皆様へのご挨拶、特にご両親への挨拶をしてから、今までここに来てからのご報告や、屋敷の皆様にとても良くしてもらっていること、エヴァン様は元気だから安心してほしいということ……伝えたいことは山ほどあって、なにを話せばいいか迷ってしまいます。
「……………………」
どれだけの時が経ったでしょうか。一通りの報告と祈りが済んだ私は、最後に伝えたかったことを、無意識に口にしてしまいました。
「エヴァン様の未来の妻として、彼を支えることを誓いますわ」
自分の妻という言葉がきっかけに、いつもの胸のきゅんってなる胸の高鳴りや、体の高揚を感じました。
「終わったか?」
「はい。エヴァン様もお済になられたのですか?」
「ああ。だいぶ前にな」
え? それじゃあ、私はそれに気づかないで、ずっと一人で報告と祈りを……!? 私としたことが、夢中になり過ぎですわ!
「えーっと……私……お待たせして、申し訳ございません!」
「どうして謝る? 俺のご先祖のために祈ってくれたのだろう? 俺はとても嬉しい。ありがとう」
「っ……!!」
今の頬笑みは……反則ですわ。あまりにも綺麗で、格好よくて……胸が撃ち抜かれたかのような衝撃を受けました。
ああ、ようやくわかったかもしれません。一緒にいると、きゅんとするこの気持ち。一緒にずっといたい気持ち。笑ってくれると嬉しくなる気持ち。馬鹿にされていたら怒りたくなる気持ち。
他にも色々ありますが……それらをまとめて呼ぶ言葉があります。
そう……私には復讐と領民を助ける使命があるのに、エヴァン様に恋をしてしまったのですわ。
「エヴァン様、私……」
「……?」
あなたに恋をしてしまいました。そう伝えるのは、なにもおかしなことではありません。だって、エヴァン様は私の婚約者……愛の無い婚約から、愛のある婚約に変わるだけです。
しかし、この恋は前の婚約者である、ローランお兄様を裏切る行為なんじゃないかという考えが過ぎってしまって……それ以上口に出来ませんでした。
ローランお兄様とは、婚約者ではあり、とても親密な関係ではありましたが、恋仲というわけではありません。それでも、後ろめたさが残ってしまうのです。
「い、いえ……」
「……俺も、君の未来の夫として支えるよ」
「き、聞いてたのですか!?」
「あの距離で、聞こえないという方が無理があると思うが……」
た、確かにその通りですわ……うう、恥ずかしくて顔から火が出そう……。
「で、でもすでに私はエヴァン様に、とても支えてもらって、幸せになっております! だから、これ以上だなんてとても……!」
つい自分の恥ずかしさをなんとかしたくて、エヴァン様の優しさはこれ以上は遠慮するような言い方をしてしまいました。
ですが、エヴァン様は私の言葉に怒ったりせず、キョトンとした表情を浮かべておりました。
「なぜ遠慮する? 俺がしたいのだから、遠慮する必要は無い」
「ですが……前々から思っていたのですが、どうしてそんなに優しくしてくださるのですか? 最初の婚約者だったお姉様ならまだわかりますが、私は代わりに当てられた女なのですよ?」
「俺は昔から、君のことを見ていた。社交界で誰とでも明るく振舞う君は、俺にも挨拶を交わしてくれたのが印象的だった。誰にでもそうやって振舞える君に、憧れを抱くと同時に、とても綺麗だと思っていた」
「き、綺麗……」
まさか、両親にもっと愛想よくしろと怒鳴られるのを避けるためにしていたことが、褒められるとは思っておりませんでしたわ。
「本当は、もっと君と話したかった。だが、俺は会話が苦手だ。聞かれれば答えることは出来るが、自分から話題を振ることが出来なかった。それに、俺のような人間と話して、君の評判まで下げるのが怖かった」
そんな時まで、エヴァン様はお優しい考えを持ってくださっていたのですね。なのに私は、評判を鵜呑みにして、エヴァン様のことを誤解して……最低ですわ。
「その憧れが、次第に恋心に変わっていき、それも愛情に変化していった」
「あ、愛情!?」
なにも身構えていないで状態で、まさかの愛の告白をされた驚きで、危うく腰が抜けてしまいそうでしたわ……。
「しかし、その時は既に君には婚約者がいた。ローランはとても素晴らしい人格者だ。彼なら君を幸せにできるだろうと思い、この恋は諦めていた。そんな折に、アイシャが俺を気にいり、取り入ろうとしてきた」
「お姉様が……」
「以前も話したが、君の家の人達は、あまり良い印象を抱いていなかった。しかし、アイシャと結婚すれば、君との繋がりが出来る。少しでも……君と一緒にいられる。そう思い、アイシャとの婚約を受け入れた……自分で言うのもなんだが、気持ち悪いだろう?」
「そんなこと、絶対に思いませんわ!」
エヴァン様が望んだことは、ただ好きな人と少しでも一緒にいたい。その気持ちの一体どこが気持ち悪いというのでしょう?
「ありがとう。その後、フィルモート家は突然婚約を破棄してきた。その時に出された代替案として、君と代わりに婚約させるというものだった」
「……もしかして、最初にお会いした時に都合がいいと仰っていたのは、そういうことだったのですね」
「そうだ。君と結婚出来ることは、俺にとって大変喜ばしいことだった。それに、ローラン殿を亡くして落ち込んでいるであろう君を、傍で支えることも出来ると思った。だから、事情を聞かずに了承したのだが……婚約破棄の内情を君から聞いた時は、心の底から君の家族のことを軽蔑したよ」
普通ならそんな不義理なことなんてしないでしょうが、私の家族なら何の悪気もなくやるでしょうね……。
「これが、俺が君を大切にする理由だ。理解できたか?」
「は、はい。とても理解出来ましたわ。あなたのお気持ちは大変嬉しいのですが……」
私も、エヴァン様に対して恋心を抱いているので、素直に自分の気持ちを伝えたいのですが……今の私には、まだやるべきことがあります。
それに、どうしてもローランお兄様のことが頭にちらついて、踏ん切りがつきません。
「私、まだローランお兄様のことが忘れられてなくて……それに、以前お願いしたあの件を全て終わらせるまで、これ以上幸せになれないのです。だから……まだあなたのお気持ちに返事を返すことが出来ません。もう少しだけ……待ってもらえませんか?」
「わかった。君がそうしたいのなら、俺はいくらでも待つ」
あ、あら……? もっとガッカリさせてしまうかと思っておりましたが、いつも通りの雰囲気ですわね……?
エヴァン様を嫌な気分にさせてしまうかもと危惧しておりましたが、杞憂に終わって安心しましたわ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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