第十四話 陰口は許しませんわ
翌朝、私は今日もエヴァン様が朝の鍛錬をしている風景を見にきました。実は、鍛錬を見に来たあの日から、今日まで私は欠かさず見に来ておりますの。
「ふっ!」
「うわぁ!?」
エヴァン様が木刀を振り抜き、お相手の男性の木刀を吹き飛ばしてしまいました。
今日の鍛錬は、実践を想定して、外部の人を招いたそうです。
聞いたところによると、相手のお方はエヴァン様よりも剣の年季が倍以上あるお方だそうです。体格もエヴァン様の方が劣っているのに、その力の差は圧倒的で、終始エヴァン様の優勢で進んでおりましたわ。
「さすがはエヴァン殿。ワシもまだまだですね」
「……お手合わせ、ありがとうございました」
尻もちをついていた相手のお方に手を差し伸べて起き上がらせたエヴァン様は、そそくさと私と初老の使用人の元に戻ってきました。
「エヴァン様、お疲れ様です! はい、どうぞ!」
「ありがとう。シエル、洗濯が上手になったな。とてもフカフカで気持ちがよくて、癒される」
「洗い方が上手になったのもありますが、タオルに少しだけ聖女の力を纏わせているんです。それの効果ですのよ」
「そうだったのか。さすがはシエルだ」
私を褒めてから、私の頭に手を伸ばそうとしましたが、途中で固まってしまいました。
きっとエヴァン様のことですから、女性に自ら触れようとしてしまい、どうすればいいか混乱しているのでしょう。
「エヴァン様。大丈夫ですわ。してください」
「い、いいのか?」
「はい。あなたになら、されたいですわ」
「…………」
「大丈夫、頑張って!」
私の応援が効いたようで、エヴァン様は私の頭に手を乗せて、控えめに撫でてくださいました。
こ、これは……凄いですわ。ただ頭に触れられているだけなのに、胸のきゅんきゅんが止まりませんわ!
それどころか、抑えきれないほどの高揚感を感じます! もっとしてもらいたいという欲望まで! ああ、私は本当に一体どうしてしまったのでしょう!?
「なんなんですか、あの態度。礼だけ済ませて、さっさと婚約者の元に行ってますよ。しかも、なにを見せつけてるんだか。ご主人様が手加減していたのも知らないで……」
「まあいいではないか。若者に花を持たせるのも、大人の務めだ」
「さすがはご主人様。相手が例のエヴァン様でもその余裕、感服いたしました」
人が幸せに浸っていると、相手のお方と、連れてきた使用人が去る前に話していた内容が、耳に入ってきました。
あまり彼らのことを悪く言いたくないのですが……負け惜しみにしか聞こえませんわね。ああでも言わないと、尊厳を守れないのでしょうね。
……腹立たしいですわね。一言言わないと、納得できませんわ。
「あの、彼に何か言いたいことでも?」
「ひっ!? な、なんでもありませんよ~! あ、あはは~!」
「そんなコソコソ話しているような小心者ですから、エヴァン様に手も足も出ないのですわ」
「ふん、何も知らない小娘が……ごほん。では、我々は失礼いたします」
睨みつけながら嫌味を言うと、彼らは不満そうな表情で屋敷を後にしました。
……さすがに言いすぎたでしょうか? ついカッとなって言ってしまいましたが、これでシャルディー家と彼らとの関係が悪くなったら、どうしましょう!?
「あ、あの! 申し訳ございません! エヴァン様の悪口が聞こえて、ついカッとなって……出過ぎた真似をしてしまいました!」
「気にしなくていい。慣れているからな。それよりも……シエルのことを小娘だなんて、許せないな。元々彼のことは好きではなかったが、付き合いは長いから我慢していたが……もう金輪際手合わせに呼ぶのはやめよう」
あ、これは完全に怒っておりますわね……表情からは読みにくいですが、明らかに声に怒りがこめられていますもの。
さきほどは私が怒っていましたが、そんなの比にならないかもしれません。
「まあいい……それよりも。こういう時、どう言うのが適切なのかわからないんだが……」
「は、はい?」
「俺……君が怒ってくれたのが、凄く嬉しかった。いや、怒ったことに喜ぶなんて、おかしなことか……? すまない、忘れてくれ」
「忘れませんわ。だって、私も同じ気持ちでしたもの」
私だって、普段は落ち着いた性格のエヴァン様が、先程の彼らに怒ってくれたのが、嬉しかったですもの。
「お互いのことを考えて、それで怒った。それってお互いを想い合っているってことですよね」
「想い……そうか、なるほどな……いいな、そういうの」
「私も、そう思いますわ」
なんだかちょっぴり体がむずがゆくもあり、暖かさも感じながら、エヴァン様にえへへと笑ってみせると、エヴァン様も僅かに口角を上げてくださいました。
社交界で勘違いをしている方々は、この控えめですが綺麗な笑みを見られないなんて、本当に残念ですわね。まあ、独り占めするつもりは満々ではありますが!
「そうだ。一つ、相談があるんだ」
「はい?」
「これから、シャルディー家の先祖が眠る墓参りに行くんだ。敷地内だからそんなに遠くないんだが、一緒に来てくれないか?」
「ご先祖様のお墓って、私が行ってもよろしいのでしょうか?」
「いてくれた方が、助かる」
そういうことでしたら、私もご一緒させてもらいましょう。私も将来的には、正式に結婚をしてシャルディー家の一員になるのですから、挨拶はきちんとしませんとね。
「それじゃあ、一旦解散して準備をしにいこう。エレン、彼女のことを頼む」
「かしこまりました。シエル様、参りましょう」
「はい。では後ほど」
私はエレンと一緒に自室に戻ってくると、あまり派手な装飾は無い、黒のドレスに着替えさせてくださいました。
「エレン、シャルディー家のお墓ってどこにありますの?」
「屋敷の敷地内にありますよ。シャルディー家では、毎月決まった日にお墓参りをして、ご先祖様に色々とご報告をしているのです」
シャルディー家には、そんな素敵な風習がありましたのね。フィルモート家の人間がお墓参りをしているのなんて、聞いたことがありません。
そもそも、私はフィルモート家のご先祖様が眠るお墓がどこにあるのかすら、知らされておりません。
「そろそろ主様の準備も終わっているでしょう。まいりましょうか」
「はい」
身支度をしっかりと終えて玄関に行くと、私と同じ黒い服に身を包んだエヴァン様が、既に来て待っておられました。
「来たな。それじゃあ行こう」
エヴァン様は、私の前に手を出しましたが、そのままの形で固まってしまいました。
貴族社会では、男性が女性をリードするのは常識。きっとそれをしたかったのでしょうが、緊張で固まってしまったのでしょう。
「エヴァン様、大丈夫。落ち着いてくださいませ。先程も出来たのですから、今回もあなたなら出来ますわ」
「シエル……ああ、ありがとう」
エヴァン様に落ち着いてもらってから、自分の手をエヴァン様の手に乗せました。そして、そのまま手を繋いだ状態で、屋敷を出発しました。
まだ緊張されているのか、動きはとても固いですし、手汗も凄いことになっておりますが、それでも手を離さずに頑張ってくれているのが、なんだか愛おしくて仕方がありません。
「ここから先は、少し足元が悪くなる。気をつけて」
「わかりました」
エヴァン様に連れられた場所は、小さな森でした。木漏れ日がとても気持ちよく、歩いているだけで気分が良くなりそうです。
そんな森の中を歩いていると、少し開けた場所に出ました。そしてそこには、明らかに人工物と思われる、大きな石碑が置かれていました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
読んでいただいた方々に、お願いがございます。5秒もかからないので、ぜひ⭐︎による評価、ブックマークをよろしくお願いします!!!!
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!




