第十三話 この胸がきゅっとする感覚は?
シャルディー家で過ごすようになってから二週間が経ちました。
あれから私は、エレンを筆頭に多くの使用人にお願いをして、一通りの家事を教わりました。
お願いをした時は、主様の奥様にそんなことをさせられないと断られましたが、何度も説得をしたり、エヴァン様にもお願いをすることで、なんとかやらせてもらえるようになりました。
おかげで、まだ完璧とは言えませんが、色々なことが出来るようになりましたわ。
それと、最近は文字の勉強も始めましたの。
実は、私は幼い頃から社交界でのマナーや立ち振る舞いと言ったことは勉強させられましたが、文字の勉強はさせてもらえませんでした。
そのことを、エヴァン様に伝えたら、私に文字を教えると言ってくださいましたの。使用人の方々も、それに賛同してくださいました。
申し出はとてもありがたかったのですが、ただでさえ時間を割いて色々なことを教えてもらっているのに、これ以上は申し訳ないと思ったのですが……。
『俺の妻となる女性が、文字の読み書きも出来ないようでは困る』
……と、エヴァン様に言われたので、ありがたくその厚意を受け取ることにいたしました。
言い方は少しきついように聞こえるかもしれませんが、エヴァン様のことですから、こうでも言わないと私が首を縦に振らないとわかっての発言だったのでしょう。
おかげさまで、少しずつではありますが、文字の読み書きができるようになりましたわ。色々と教えてくれた皆様には、感謝しかございません。
もちろん、ただ幸せな生活を堪能していたわけではございません。私の目的を果たすための方法も、考えております。
実は、なんとか領民に会いにいく案は浮かんでおりまして、エヴァン様にご相談をして、その準備を一緒にしてもらっているのです。
「よし、今日はここまでにしておこう」
「お忙しいのに勉強を見てくださり、ありがとうございました」
「気にしなくていい。ちょうど空いている時間だったし、君と一緒に時間を過ごしたかったからな」
「エヴァン様……ふふっ、私も同じ気持ちですわ」
今日の勉強の先生は、なんとエヴァン様でした。本来なら別のお方が見てくれるはずだったのですが、家族の調子が悪いそうで、エヴァン様に半ば無理やり休暇にされ、実家に帰っているのです。
なので、その代わりにエヴァン様が私の勉強を見てくださったという次第です。
エヴァン様の教え方はとてもお上手なんですのよ。わかりやすくかみ砕いて教えてくださるので、スッと頭に入ってきますの。
……本当に、エヴァン様は会話が苦手なのか、最きい疑問に思えて来ましたわ。もしかして、自分が苦手と思っているだけで、普通に話せるのではないでしょうか?
「…………」
「エヴァン様?」
「ああ、すまない。少しぼんやりとしてしまった。俺はそろそろ仕事に戻らないといけないから、これで失礼する」
「わかりました。本日はありがとうございました」
「どういたしまして。また夕食の時に会おう」
いつもの様に私の元を去るエヴァン様でしたが、一瞬だけ足元がおぼつかない様子だったのを、私は見逃しませんでした。
先程もぼんやりしておりましたが、もしかして具合が悪いのではないでしょうか? もしそうなら、私の力ですぐに治してさしあげなければ。
「まったく主様は、シエル様の前ではいつでも強がっておられるのですよ」
「強がってるって、やはり具合が悪いのですか?」
「いえ、そういうわけではありません。主様は、シエル様の勉強を自分も教えたいからと、お休みの時間を削って、無理に時間をあけていたのですよ」
「そんな、私のために……?」
「もちろんそれもありますが、主様は少しでもあなたと同じ時間を過ごしたいのでしょう」
エヴァン様の気持ちはとても嬉しい。彼の気持ちを受け取ると暖かい気持ちになりますし、胸がきゅっと締め付けられるような、不思議な感じがします。
だからといって、自分の休息の時間を削ってまでするのは、少々やり過ぎですわ。それで体を壊してしまっては、元も子もありませんもの。
「それだけ、あなたのことが大切ということですよ。それが、上手く言葉にして伝えられていないだけです」
「そのお気持ちはとても嬉しいのですが、どうしてエヴァン様はそんなに私を大切にしてくれるのでしょう?」
ここに来てから、エヴァン様の対応はあまりにも良すぎる。溺愛してもらっているといっても過言ではないでしょう。
いくら婚約者といっても、そこまでしていただける覚えは、全然ありません。
「主様には、主様なりのお考えがあるのでしょう。それを私が代弁するのは、少々筋違いかと」
「そうですわよね……変なことをお聞きして、申し訳ございませんでした」
「いえいえ。話は変わりますが、そろそろコック達が夕飯の支度を始める頃です。今日はいかがされますか?」
「皆様がよろしければ、今日もお手伝いを兼ねて、料理の勉強をさせてほしいです」
「かしこまりました。私の方から彼らにお伝えしてきますので、少しお休みくださいませ。では、後ほど」
今日も綺麗なお辞儀をしたエレンを見送った私は、ベッドに倒れこみながら、少し縫い目が目立つ、ネコのぬいぐるみを抱きしめました。
「本当に……どうしてそんなに優しくしてくれるのでしょう?」
ぬいぐるみに顔をうずめながら、ぽつりと呟く。
このぬいぐるみだって、エヴァン様がどうしてこれだけ持ってきたのかとか、どうしてボロボロなのか聞かれて事情をお話したら、彼が自分の手で直してくださったのですよ? 明らかに、優しいの範疇を超えていると思いますわ。
「はぁ……」
最近、エヴァン様のことを考えていると、この胸がきゅっとすることが増えてきております。それも、頻度が日に日に増してきている自覚もございます。
「嫌な感じというわけではありませんが……お母様、ローランお兄様、これって一体何なのでしょう? 私には、わかりませんわ……」
――結局私は答えが出ないまま、エレンが呼びに来るまで、悶々とした気持ちでいることとなりました。
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