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デマはSoraに打ち勝つか?

作者: 稀Jr.

いまは亡き半村良という SF 作家がいた。彼の代表作に「産霊山秘録」がある。この小説は架空ではあるものの日本にも陰謀論的な伝奇ロマンが成立することを示して、読者もほんとうに「ヒの一族」がいるのではないかと痕跡を探しまくったという。日本の中で大集団で探索が行われたかどうか定かではないが、架空の話にあえて踊らされる人々がいたのは確かなことだ。

似たようなところに、ヒバゴンやツチノコの話がある。これは、実在の有無は兎も角として、伝承や発見例などを含めて話を広げる社会現象ともなっている。今は廃れたかもしれないが、UFO と同じく観光地化するぐらいの勢いがあった。


さて、深刻な陰謀論や架空の思想や歴史がある一方で、SNS に広がるデマがある。かつて、読み切りとして配られていたわら半紙とは違い、昨今の SNS のデマはさほどお金がかからない。簡単にデマっぽい話をでっちあげて流していく。ともすれば、当たりとして「いいね」や「リポスト」が貰えるわけだが、それは金銭的な収入にはならない自己満足の世界であった。

しかし、SNS で収益化が進むと状況が一変した。青バッチ党と呼ばれる集団が、それぞれのムラを襲うことになったのだ。世の中が乱世である。青バッチ党は、名前の後ろの青バッチを付けて徒党を組み、デマで襲撃をする。デマをちぎっては投げ、ちぎっては投げて、相手を疲弊させるのだ。その命中度はあまり良くはないが、数で押し切る。つまりは占い師のように、当たるも八卦、当たらぬも八卦で 64 通りの中からひとつ当たれば、それこそ万々歳。数千、数万のリポストが発生して、青バッチ党の収入となる。収入は胴元 SNS から分配されるもので、当たれば当たるほどよい。だから、デマであろうと嘘であろうと、なんとなく「これいいんじゃないか?」の発言を繰り返して、当たりを狙うのである。


さらに、青バッチ党は進化してきている。なんとなく真実っぽいものだけではない。敢えて突っ込みを入れさせる作戦に移行しはじめた。つまりは、おとり作戦である。かつては、ムラを直接襲っていた青バッチ党ではあるが、今は森に潜み、ちょっとした隙を使って待ち構えている。

例えるならば、森を通るところに「熊のぬいぐるみ」とか「熊のシャツ」とか「熊のプーさん似の政治家」だとかを置くのである。そうすると、ほんものの熊を見た人にとっては、「熊のプーさんに似ている政治家は、きっとアレだ!」とコメントを付けることになるのだ。突っ込み満載である。ひょっとして島国の人もいれば大陸の人もいる。半島の先っちょの人もいれば、半島の根元のミサイル大好きの人もいるわけだ。場合によったら、鉄砲大好きの人も出てくるかもしれない。そんなわけで、熊のプーさんが出てきたとしても、それは政治家のアレとは限らない。よく見ればメロンをかぶっているかもしれない。鮭を咥えているかもしれない。熊じゃなくて、鮭が熊を咥えているかもしれないし。熊さんこちら、手の鳴る方へ、と誘っているかもしれないのである。

しかし、誘われたムラ人は、がぶり!

と熊のきぐるみから出てきた青バッチ党のメンバーに襲われて、身ぐるみをはがされてしまうのだ。身ぐるみはがすと裸になってしまい、ちょっとそれ 18 禁じゃない? ということになって、青バッチ党が被っていた熊のきぐるみを着せて一件落着である。


そんな中で、もっと組織的にデマを流そうというデマ党が現れた。

青バッチ党は、徒党を組んでいるようで徒党を組んではいない。組織立ってはいないので、基本はひとりひとりの狼である。日本オオカミであればすでに絶滅しているので、ひょっとすると他の国の狼かもしれない。以前は、アラビア語圏のオオカミが多かったのだが、最近はどうだろう。AI かもしれない。YouTube では料理番組から一気にオオカミになった例も聞く。

デマ党は、青バッチ党とは違う。組織立ったものだった。いうならば、曹操軍のようなものである。曹操軍は、組織立っていて、兵士も訓練されている。三国志では劉備玄徳が日本では有名なわけだが、曹操だって負けてはいない。いや、デマ党だって負けてはいないのである。頭を使っている。ちょっとだけだが。


「あの地区には、熊が多いので、どんぐりを配置さえておくと熊がどんぐりに惹かれてやってくる。どんぐりに毒を仕込めばいいのだ」

「家に来た熊だが、庭にいた飼い犬に追い払われた。うちの飼い犬はすごいぞ、重さが 1トンもあるからな。熊なんか目じゃない」

「熊は雑食だから、魚も食べるんだ。だから、熊に魚を与えれば熊はおとなしくなる。うまい、サバとかハマチとかエンガワを与えればいいのだ。酒でもてなせば、酔っぱらって帰ってしまうぞ」

「熊には酒粕の団子がいいんだ。酒粕にはアルコールが含まれているから、酒粕の団子にハチミツを掛けて放り投げると、熊はそっちに興味をもってしまう。そこを猟銃で一発で、ずどんだ!」

「穴に潜んでいる熊はな、後ずさりができない。穴には入って行った敵を攻撃はできないのだ。だから銃剣を以って熊の穴に突っ込んでいけば助かる確率は高いぞ。うちの父親もそうしていた」


とかなんとか、デマなのか本当なのかわからないデマをデマ党は流します。

実際のところ、SNS でのデマの威力は甚大です。昨今、マスゴミとか、オールドメディアとか、一般的な新聞やテレビの信頼度が落ちてしまっているので、「SNS こそ、情報元が世界一ィィィィィィ!」という人が多くなっておりまして、もう SNS のデマに飛びつく飛びつく。まさしく、バーゲンセールに飛びつくデマ党のようです。秋に帰ってきた産卵時の鮭のようですね。


昨今は、曹操軍...じゃなかった、デマ党には、さらに新しい武器が加わっています。鉄砲伝来じゃなくて、Sora の登場です。Sora ではリアルな動画が作成できます。まるで本物のような熊が作れるので、まるで本物のような熊のプーさんに似た政治家も作れます。黄金に輝く米国大統領や、さんぜんと輝く経済安全保障担当大臣の像も作れます。

なんといっても、デマ動画には "Sora" の文字を入れれば、架空であることを示せるので、デマの流し放題です。デマ党によれば、これは架空です。想像の産物なのです。ほら、"Sora" と書いてあるでしょう? だから、デマではなく作品なのです。思想の自由を謳歌させてください。それを見て間違ってしまう人がいるかもしれませんが、皆さんの力でデマを見抜いてください。なにせ "Sora" と書いてあるのですから、これを見逃すわけがありません。私達は、創作の自由、想像の自由、表現の自由を重んじていきますよ!!! みなさん、わが、デマ党に応援をください。クラウドファンディングをください。政界に押し上げてください。熊といっしょに我々は頑張ります。


と、デマ党党首が叫んでいる。1 分程度の TikTok の動画が拡散されてどんどんと広がっていく。果たして、デマ党が表現の自由を主張しているのか。本当のところはよくわからない。あたかも本当のようなイケメンのデマ党党首。資金は皆のボランティアだというが本当かどうかはわからない。


いや、あれ?

ああ、よく見れば、隅っこに "Sora" と書いてありますね。


【完】


参考 https://x.com/ichiro_satoh/status/1982003679210418266

クマ追い払う架空動画 SNSに多数 “誤った認識生じるおそれ” https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014959211000

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