第11話 王都行きの馬車、そして見えない同盟者
王都へ向かう街道は、朝霧に包まれていた。
湿った空気が肌を撫で、遠くで車輪の軋む音が響く。
馬車の中、アレンは腕を組んで目を閉じていた。
「……三日か。王都までは、退屈な旅になりそうだな」
向かいの席でミレイユが息を吐く。
「退屈なんて言える立場じゃありませんよ。
あの密書を出したのが宰相派なら、道中で襲撃される可能性だって――」
「承知の上だ。むしろ、その方が都合がいい」
アレンはゆっくりと目を開けた。
その瞳には、冷たい光が宿っている。
「“襲撃者”を捕らえれば、宰相派が裏で動いている証拠になる。
……つまり、罠の中にもう一つ罠を仕込めるというわけだ」
ミレイユは呆れ半分に笑った。
「まったく……本当に生き延びる気あるんですか?」
「あるさ。俺は死にたくない。
だからこそ、敵より先に動く。それが生存戦略だ」
その時だった。
馬車の外から、馬の嘶きと金属音が響いた。
「――止まれっ!」
護衛の兵士の怒声。
直後、矢が車体を貫いた。
「来たな」
アレンは立ち上がり、外へ飛び出す。
街道の先に、黒装束の男たちが数名。
王都の紋章を刻んだ指輪をしている。――つまり、王都直属の人間。
「王都の兵が、なぜ襲う?」
ミレイユが剣を抜きながら叫ぶ。
「“口封じ”だろうな。
……俺を生きて王都に連れて行きたくないらしい」
アレンは冷ややかに笑い、馬車の陰に身を隠した。
そして懐から一枚の小瓶を取り出す。
「それ……まさか、例の煙幕薬ですか?」
「そう。領内の錬金術師が作った新型だ。実戦デビューだな」
アレンは小瓶を投げつける。
瞬間、白い煙が爆ぜ、敵の視界を奪った。
「ミレイユ、三秒後に右へ回り込め!」
「了解!」
白煙の中、鋭い剣閃が走る。
悲鳴。血の匂い。
そして、沈黙。
やがて霧が晴れると、黒装束の男たちは全員地に伏していた。
アレンはその中の一人の懐を探り、何かを取り出す。
「……手紙だな。封蝋付き、王都宰相家の印章入り。
“アレン・クロフォードの処分は密かに行え”……だと」
ミレイユが息を呑む。
「つまり、公式な召喚状も、最初から“罠”だった……」
アレンは静かに手紙を懐にしまった。
「これで十分だ。王都で裁判が始まる前に、宰相派の腐敗を証拠付きで突きつけられる」
馬車に乗り直そうとしたその時――
「お待ちください、アレン様!」
若い男の声がした。
見ると、一人の青年が馬に乗って近づいてくる。
銀髪に蒼い瞳、王国騎士団の制服を着ていた。
「あなたは……誰だ?」
青年は馬を止め、胸に手を当てて一礼した。
「王都近衛第三隊所属、レオン・グラントと申します。
……あなたを密かに護衛するよう、王妃陛下のご命令を受けております」
「王妃、だと……?」
アレンの眉が動いた。
その名は、彼の記憶の中にもしっかり刻まれている。
“革命育成記”の中で、唯一、宰相派を敵視していた聡明な王妃――セレスティア。
「なるほど……王妃も動いたか。
王都は、もう静かじゃなさそうだな」
アレンは小さく笑った。
霧の向こう、陽光が差し込む街道を見据えながら。
「行くぞ。舞台は整った。
次は――王都の中で、駒を動かす番だ」
馬車が再び走り出す。
その車輪が刻む音は、まるで運命のカウントダウンのように響いていた。
お読みいただきありがとうございます!
第11話では、アレンが王都への道中で“初の襲撃”を受け、そしてついに「王妃側の密使」と接触しました。
このレオンとの出会いが、後の王都篇の鍵になります。
次回、第12話
「王都到着、宰相派の罠と王妃の微笑」
腐敗と権謀の都で、アレンが再び“無能”を演じる――その裏で、革命の火種が静かに燃え始める。
(ブックマーク・評価・感想で応援していただけると嬉しいです!)




