第10話 王都の罠、そして密書
雨が止んだ翌朝。
アレンの屋敷の門前に、一羽の黒い鷹が舞い降りた。
脚に結ばれたのは、黒封蝋で封じられた密書。
王都宰相家の紋章が、赤く滲んでいる。
「……ついに来たか」
封を切ると、そこには短い文が記されていた。
『クロフォード領主アレンを、三日以内に王都へ召還せよ。
反逆および収賄の嫌疑あり。同行拒否の場合、討伐隊を派遣する』
「反逆、ね……」
アレンは薄く笑った。
その声には焦りも怯えもない。むしろ、冷静な諦観と――静かな炎があった。
ミレイユが机越しに顔をしかめる。
「明らかに罠です。査察で尻尾を掴まれた宰相派が、先手を打ってきたんですよ」
「そうだな。だが面白い。
――彼らが“俺を王都に呼び戻したい理由”を、逆に利用できるかもしれん」
アレンは机の引き出しを開け、数枚の羊皮紙を取り出した。
そこには、最近の領地改革の報告書が整然と並んでいる。
「税収、兵糧、民の満足度……全て上昇傾向。
このまま改革が進めば、王国で最も豊かな辺境になる。
――宰相にとって、これほど都合の悪い領主もいないだろうな」
ミレイユが息を呑む。
「まさか……行くつもりですか? 王都へ」
「行くさ。だが、“捕まる”ためにな」
その一言に、ミレイユの目が見開かれた。
「捕まる!? 正気ですか!」
アレンは笑って立ち上がる。
「捕まって、裁判にかけられる。
その場で、王都貴族の“裏金と不正”を暴露すればいい。
全てを証拠付きで――公開の場で、だ」
「そ、そんな危険な……!」
「危険なのは今に始まったことじゃない。
生き延びるには、時に自ら罠に飛び込む必要がある」
アレンは窓の外を見やった。
遠く、王都への街道が陽光に照らされている。
あの道の先に、政治の中心――腐敗の根がある。
「俺は“無能領主”を演じてきた。
だが、そろそろ本性を見せる頃合いだ」
ミレイユは黙って彼の背中を見つめる。
その瞳に宿るのは、不安と……どこかの信頼。
アレンは鷹の脚に新たな手紙を結び、空へ放った。
風に乗り、黒い羽が遠くへ消えていく。
「王都に告げろ――“無能領主”、参上すると」
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第10話では、ついにアレンが“自ら王都へ向かう決意”をしました。
敵の罠に自ら飛び込み、逆に内部から壊す――まさに生存戦略の真骨頂です。
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