第8話 無能領主、断罪される?
前回、アレンは王都査察隊に包囲され、領主権を剥奪されてしまいました。
しかし、彼は決して“無能”では終わらない。
今回は、処刑イベントを“逆転劇”へと変える一話です。
王都監察官、アーサー・クラフト。
その名が告げられた瞬間、屋敷の空気が一変した。
王の血に連なる宰相家。
若くして監察官の地位にあり、法と秩序の代弁者として知られる男。
だが、その目の奥には、冷たい光が宿っていた。
「本日をもって、あなたの領主権を剥奪します」
その言葉を聞いたロイ・エッセンは、まるで勝ち誇ったように口角を上げる。
アレンの側近ガリウスは顔を青くした。
「アレン様、そんな……!」
「静かに」
アレンは手を軽く上げた。
焦りも、怒りもない。
まるで全てを見通しているように。
「領主権を剥奪、ね。理由を聞いても?」
アーサーはゆっくりと封筒を取り出し、読み上げる。
「国王陛下の名のもとに――ボルストン領主アレン・ボルストンは、
宰相府の密命書を不正に入手し、内乱を企てた疑いがある。
よって、その権限を即時停止し、王都への召喚を命ずる。」
その声は澄んでいた。
正義を語る声のようでいて、
どこか芝居じみている。
(そうか。お前たちは“この瞬間”を作るために動いていたんだな)
アレンは目を細めた。
⸻
屋敷の中庭に、兵と民が集まっていた。
王都査察隊が広場を占拠し、アレンを囲む。
一方で、村人たちも怯えながらも彼の名を呼ぶ。
「領主様! 本当に連れて行かれるのか!?」
「うそだろ……あの人が反乱なんて!」
ロイが冷笑を浮かべ、群衆に声を張る。
「聞け! この男は王命に背き、密書を隠し持っていた!
国家に仇なす者は、いかに地位を持とうと断罪される!」
怒号が広がる。
だが――アレンは動じない。
「……なるほど、演出まで完璧だな」
ロイが目を細める。
「何を言っている?」
「こうやって群衆の前で俺を“悪”に仕立て上げる。
そして王都へ連行、見せしめとして処刑。
……だがな、ひとつだけ、致命的なミスをした」
「……何だと?」
アレンはゆっくりと、懐から“もう一枚の書簡”を取り出した。
それは、宰相府の封蝋が押されたもの――だが、色が違う。
赤ではなく、黒。
「これが何か、わかるか?」
アーサーの目が一瞬だけ動いた。
ほんのわずかに。
「……偽物か、または脅しでしょう」
「違う。これは、昨日署名した“血盟契約”の写しだ。
領内の民兵団と商人ギルドの代表、計二十名の血判付き。
この契約のもと、俺は領地の治安と税を保証している。
――つまり、俺を排除すれば、領の秩序が崩壊する」
ざわめきが広がった。
「王命よりも民の安寧を取った、それだけだ。
俺は国を裏切ってなどいない」
アーサーが冷笑する。
「言葉で罪は消えません。証拠はすでにここに――」
「証拠? そうだな。じゃあ、俺からも“証拠”を出そうか」
アレンは合図した。
門の外から、荷車が引かれてくる。
その上には麻袋。
ロイが眉をひそめた。
「何だ、それは?」
「王都の倉庫から横流しされた銀貨と穀物。
お前の部下が運んでいたものだ」
ロイの顔色が一気に変わる。
「ば、馬鹿な! そんなはずは――!」
「夜のうちに調べさせたんだよ。
お前たちが来る前に、密輸路を閉じた。
――つまり、“本当の裏切り者”はどっちだ?」
ざわっ、と群衆が動く。
視察官の顔が青ざめ、民兵がざわついた。
アーサーの目が、鋭く光る。
「……なるほど。そこまで計算していたのですか」
「無能に見せて、油断を誘っただけだ」
「……ですが、それであなたが無罪になると思わないことです」
アーサーが右手を挙げる。
部下たちが一斉に剣を抜いた。
「我々が断罪するのは、“王命に従わぬ者”。
秩序を乱す存在は、理屈ではなく、力で処理する」
アレンは小さく笑った。
「王都の理屈は相変わらずだな」
そのとき、空が鳴った。
雷のような音――ではない。
屋敷の外、街道沿いに並ぶ農民たち。
彼らが一斉に鍬や鎌を掲げ、声を上げた。
「領主様を奪うな!」
「俺たちはアレン様の下で生きてきたんだ!」
数百の声が、風に乗って響く。
ロイが青ざめ、アーサーが無言で周囲を見渡す。
アレンはゆっくりと前に出て、静かに言った。
「……民の声は、王の法より重い」
沈黙。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
アーサーの目が細くなる。
「面白い。あなたはただの小領主ではないようだ。
叔父上の言う通り、“放っておけば王をも脅かす男”だ」
「その通りだよ」
アレンは笑いながら、アーサーに歩み寄る。
その間、兵も民も息を飲んだ。
二人の距離、わずか数歩。
アーサーが手を伸ばしかけた瞬間――
アレンが、耳元で囁いた。
「お前の叔父……アーウィン・クラフトは、もう終わりだ」
アーサーの表情が凍る。
「……何?」
「すでに王都の“反宰相派”には密書を送った。
俺を断罪した瞬間、クラフト家の汚職が暴かれる」
アーサーの目が大きく見開かれた。
そして――その瞬間。
轟音。
屋敷の門が爆発した。
黒煙が上がり、兵士たちの悲鳴が響く。
アレンは、薄い笑みを浮かべて言った。
「……話の続きは、王都でしようか」
そしてそのまま、煙の中へ姿を消した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
ついに始まった王都との対決。
宰相クラフトの甥・アーサーとの対面は、
まさに“ゲームを超えた運命の分岐点”。
そして、最後の爆発――
アレンは本当に逃げたのか?
それとも、次の罠が始まったのか?
次回、第9話
「王都潜入」
舞台はついに王都へ。
無能領主の仮面を被ったまま、アレンの反撃が本格化する。
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