第36話 無能領主、名を捨てる
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剣がぶつかる音は、夜を裂く雷鳴のようだった。
林間の空気が震える。
騎兵の突撃を、第二陣形が受け止める。
前列は盾。
後列は槍。
さらにその後ろ、弓。
少数。
だが、隙がない。
◆◇◆◇◆
「押し返せ!」
騎士団長が叫ぶ。
だが馬は罠に怯え、陣は乱れる。
アレンは、最前に立っていた。
守られていない。
守らせてもいない。
ただ、そこに立つ。
◆◇◆◇◆
騎士団長が馬を駆り、迫る。
「なぜだ!」
怒号。
「なぜ王に逆らう!」
アレンは剣を構えたまま、答える。
「逆らっていない」
刃が交差する。
火花。
「王が、道を誤っただけだ」
◆◇◆◇◆
力は拮抗していた。
騎士団長は強い。
だが焦っている。
「貴様は“無能”だったはずだ!」
一瞬。
アレンの目が、わずかに細まる。
「そうだな」
剣を弾く。
「無能を、演じていた」
◆◇◆◇◆
その言葉が、戦場を静かに切り裂いた。
騎兵の動きが、止まる。
兵たちの目が、アレンに向く。
◆◇◆◇◆
「富ませた。
鍛えた。
守った」
一歩、踏み出す。
「それでも無能なら――
俺はそのままでいい」
だが。
「守る者を選んだ瞬間、
仮面は捨てる」
◆◇◆◇◆
騎士団長の剣が、弾かれた。
喉元に刃が止まる。
月明かりが、二人を照らす。
「……殺せ」
騎士団長が、低く言う。
「いや」
アレンは剣を引いた。
「帰れ」
◆◇◆◇◆
その判断は、誰よりも兵を驚かせた。
「なぜ……」
「今日の目的は、一人を救うことだ」
振り返る。
救出された兵士が、立っている。
「それ以上は望まない」
◆◇◆◇◆
騎士団長は、しばらく動かなかった。
やがて、ゆっくりと馬を引く。
「……覚えておけ」
低い声。
「今夜で、お前は“反逆者”だ」
アレンは、静かに頷いた。
「そうだな」
迷いはない。
◆◇◆◇◆
夜が、静かに終わる。
王都は炎を消し、
だが火種は消えない。
丘に戻ったアレンの前に、兵士が跪いた。
「なぜ……助けたのですか」
震える声。
アレンは、少しだけ考えた。
「剣を振らなかったからだ」
それだけだった。
◆◇◆◇◆
だがその瞬間。
遠く王城で、新たな決定が下される。
――第四王命。
グリード領主、討伐。
◆◇◆◇◆
夜明け。
朝日が昇る。
もう、“無能領主”はいない。
いるのは――
王国に刃を向けられた、一人の男。
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