第35話 王都炎上
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夜は、静かに終わらなかった。
王都南門。
火矢が、一本。
夜空を裂いて、落ちる。
乾いた屋根が、赤く弾けた。
◆◇◆◇◆
「侵入者は北区地下より脱出!」
「南門に陽動の火!」
「騎兵隊、追撃開始!」
怒号が飛び交う。
鐘が鳴り止まない。
だが。
「……違う」
馬上の騎士団長が、歯噛みした。
「これは暴動じゃない」
統制されている。
火は広がりすぎない位置にだけ放たれている。
兵の誘導路が、計算されている。
「――戦術だ」
◆◇◆◇◆
地下通路。
黒衣の三人は兵士を抱え、走る。
「歩けるか」
「……はい」
声は震えているが、足は動く。
背後から足音。
「追ってきます!」
先頭の男が短く言う。
「予定通り、分断」
通路の分岐で、二人が残る。
「行け」
「だが――」
「命令だ」
刹那。
鋼がぶつかる音が、狭い空間に響いた。
◆◇◆◇◆
城外丘陵。
アレンは、遠く上がる火を見つめていた。
「第一段階、成功」
参謀が告げる。
「だが、騎兵が出ました」
「来るな」
「え?」
「来るなら、正面から来い」
アレンは、静かに剣を抜いた。
◆◇◆◇◆
王都外縁。
黒衣の男と救出された兵士が、夜林を抜ける。
月明かりが差す。
その瞬間。
矢が飛んだ。
「伏せろ!」
兵士が地に転がる。
黒衣の男の肩を、矢が貫いた。
「……くっ」
林の向こうに、騎兵の影。
「囲め!」
◆◇◆◇◆
丘の上。
伝令が叫ぶ。
「接触しました!」
アレンは、迷わない。
「前進」
その一言で、空気が変わる。
無能領主。
そう呼ばれてきた男が、
今、堂々と旗を掲げる。
◆◇◆◇◆
林間。
騎兵が突撃する。
だが、その前に。
地面が、崩れた。
「な――!?」
落とし穴。
縄罠。
計算された迎撃陣。
「退け!退――」
言葉は、途中で断たれる。
◆◇◆◇◆
そして。
月明かりの中を、
一人の男が歩いてくる。
ゆっくりと。
逃げも隠れもせず。
騎兵がざわめく。
「……グリード領主」
アレンは、立ち止まった。
「彼を、返してもらう」
◆◇◆◇◆
「これは反逆だ!」
騎士団長が叫ぶ。
「違う」
静かな否定。
「俺は、
剣を振らなかった兵を守るだけだ」
夜風が吹く。
背後には、整列した兵。
数は少ない。
だが、揺るがない。
◆◇◆◇◆
沈黙が落ちる。
先に動いたのは、騎兵だった。
「突撃!」
その瞬間。
アレンの剣が、月を映す。
「――第二陣形、展開」
地が鳴る。
兵が動く。
夜が、割れた。
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