第34話 救うか、守るか
三日。
たった三日で、人は消える。
密書は机の上に置かれたまま、夜が二度、過ぎた。
アレンは眠らなかった。
◆◇◆◇◆
「軍を動かせば、王都は即座に“反乱”と断じます」
参謀の声は冷静だった。
「兵は足りる。勝てる可能性もある。
だが――王国は割れます」
「内戦か」
「ええ。火は一気に広がる」
アレンは頷く。
それは、望んでいない未来だ。
◆◇◆◇◆
「では、少数での救出は?」
「成功率は低い。
失敗すれば、彼は即時処刑。
……そして、我々との繋がりを疑われる」
机の上の密書を、指で叩く。
「助ければ戦。
助けなければ――」
「信を失います」
沈黙。
◆◇◆◇◆
夜明け前。
アレンは一人、兵舎を歩いていた。
訓練を終えた若い兵士たちが、剣を磨いている。
誰も、命令を待っている。
目の奥にあるのは、不安と――期待。
「……お前たち」
声をかけると、全員が立ち上がった。
「もし、俺が一人を救うために王都へ向かうと言ったら、どうする」
迷いのない声が返る。
「行きます」
「命令でなくても?」
「はい」
アレンは、目を閉じた。
◆◇◆◇◆
丘の上。
朝日が昇る。
世界は美しい。
戦など、存在しないかのように。
「……守ると決めた」
最初に。
あの日。
剣を振らず、民を盾にしなかった自分を、守ると。
ならば。
「守るのは、領地だけじゃない」
◆◇◆◇◆
王都、地下牢。
兵士は壁にもたれ、天井を見ていた。
三日後。
静かに、消える。
怖くないわけがない。
だが。
「……間違ってなかった」
その時。
かすかな音がした。
石が、ずれる音。
◆◇◆◇◆
同刻。
王都外縁。
黒衣の影が、三つ。
「目標、地下通路入口」
「見張り二名」
「排除は?」
わずかな沈黙。
「――最小限で」
低い声が、答えた。
◆◇◆◇◆
石壁が、静かに開く。
地下へ続く暗い通路。
「……なんだ?」
牢番が振り向く。
次の瞬間、首元に冷たい刃。
「声を出すな」
牢の前。
鍵が回る。
兵士は、目を見開いた。
「……なぜ」
黒衣の男は、短く告げる。
「領主が、選んだ」
◆◇◆◇◆
その瞬間。
王城の鐘が鳴り響いた。
「侵入者だ!!」
叫びが、夜を裂く。
◆◇◆◇◆
丘の上。
遠く王都を見つめていたアレンのもとに、伝令が駆け込む。
「作戦、露見!
王都が動きます!」
アレンは、ゆっくりと頷いた。
「……そうか」
目を閉じる。
そして、開く。
迷いは、もうない。
「全軍、第二陣形」
参謀が息を呑む。
「本気で、やるのですね」
「一人を救う」
短い言葉。
「そして――
戦を、終わらせる」
◆◇◆◇◆
王都の門が、開く。
騎兵が溢れ出す。
夜が、裂ける。
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