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無能領主を演じて生き延びます  作者: ガスト


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第33話 力で黙らせるという選択

更新遅れてすいません

王城の奥は、夜でも明るい。


 蝋燭の炎が揺れ、磨き上げられた床に影を落とす。

 その影の中で、宰相アーウィンは立っていた。


「……第三王命を発令する」


 静かな声だった。


 怒りでも、焦りでもない。

 むしろ、諦めに近い響き。


「王都内での虚偽流布を禁ずる。

 違反者は拘束。

 必要なら見せしめとする」


 側近の喉が、ひくりと動く。


「……民も、ですか」


「民だからだ」


 即答だった。


「火は、小さいうちに踏み消す」


 


◆◇◆◇◆


 


 翌朝。


 王都の掲示板に、新たな布告が貼られた。


 ――反逆者を擁護する発言を禁ずる

 ――虚偽の証言は国家転覆罪に準ずる


 文字は黒く、力強い。


 だが、それを読む人々の顔は、どこか曇っていた。


 


◆◇◆◇◆


 


「……虚偽、ね」


 市場の女が、小さく呟く。


 隣の男が、視線を逸らす。


 声は出さない。

 誰も、何も言わない。


 だが、沈黙は、同意ではなかった。


 


◆◇◆◇◆


 


 その日の昼。


 あの兵士が、拘束された。


 掲示板の前で証言した、あの男。


 抵抗はしなかった。


 ただ、縄をかけられながら、

 周囲を見回した。


 怒りの目。

 怯えた目。

 涙をこらえる目。


 彼は、ほんの少しだけ、笑った。


「……大丈夫だ」


 誰に向けた言葉か、分からない。


「俺は、嘘をついてない」


 


◆◇◆◇◆


 


 その姿を、

 遠巻きに見ていた少年がいた。


 まだ剣も持てない年齢。


「……なんで?」


 母親の袖を掴む。


「本当のこと言ったのに」


 母は、答えられなかった。


 


◆◇◆◇◆


 


 王城。


「拘束は完了しました」


 報告を受け、アーウィンは目を閉じる。


「……公開処罰は?」


「検討中です」


 沈黙。


 宰相は、ゆっくりと首を振った。


「いや。

 今回は――静かに消せ」


 側近が息を呑む。


「騒ぎを大きくするな。

 恐怖は、音を立てない方が効く」


 


◆◇◆◇◆


 


 一方、グリード領。


 報告を聞いたアレンは、しばらく何も言わなかった。


 机の上に置かれた紙を、見つめる。


「……拘束、か」


 短い言葉。


 だが、その奥に、重い何かが沈んでいる。


 


◆◇◆◇◆


 


「助けますか?」


 参謀が、静かに問う。


 アレンは、すぐには答えない。


 窓の外を見る。


 畑を耕す人。

 走り回る子ども。


 守ると決めた日常。


「……動けば、戦になる」


 小さく呟く。


「動かなければ、

 あの兵士は――」


 言葉が、途切れる。


 


◆◇◆◇◆


 


 夜。


 アレンは一人、丘に立っていた。


「……難しいな」


 誰もいない空に、零す。


 守るために立ち上がった。


 だが今は、

 一人を守るために、多くを危険に晒すかを問われている。


 


◆◇◆◇◆


 


 その頃、王都の地下牢。


 拘束された兵士は、壁にもたれかかっていた。


 暗い。


 冷たい。


 だが、不思議と後悔はなかった。


「……剣を振らなかった」


 それだけは、確かだった。


 


◆◇◆◇◆


 


 夜更け。


 グリード領へ、一通の密書が届く。


 差出人は――

 王城内部の者。


 そこに書かれていたのは、短い一文。


『処刑は三日後。

 静かに、消される』


 


◆◇◆◇◆


 アレンは、紙を握りしめた。


 迷いは、まだ消えていない。


 だが――

 時間は、待ってくれない。


 


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