第27話 それでも、前に立つ
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夜明け前――
グリード領の空は、重く低い雲に覆われていた。
丘の上。
まだ眠る村々を見下ろしながら、アレンは静かに立っている。
背後には、集まった者たち。
兵士、元農民、商人、そして――領民。
誰一人、強制されてここにいる者はいない。
◆◇◆◇◆
「……王国軍が来るそうです」
側近の報告に、誰かが息を呑む。
「第二軍団。
正規軍です」
それは、
“勝てない”と言われる響きだった。
ざわめきが走る。
「無理だ……」
「相手は王命だぞ……」
アレンは、ゆっくりと振り返った。
剣を抜かない。
怒鳴らない。
ただ、目を合わせる。
「――帰りたい人は、帰ってください」
一瞬、時間が止まった。
「今なら、まだ間に合う。
王都は、あなたたちを罰しない」
誰かが叫ぶ。
「な、なにを言って……!」
アレンは、首を振った。
「これは、僕の戦いです」
そして、胸に手を当てた。
「皆さんの命を、
“覚悟の証明”に使うつもりはない」
◆◇◆◇◆
沈黙。
風の音。
やがて――
一人の老兵が、前に出た。
「……若造」
皺だらけの顔で、笑う。
「わしはな、
命令で戦ってきた」
杖代わりの槍を、地面に突き立てる。
「だが初めてだ。
“帰っていい”と言われたのは」
そして――
「それでも、
ここに立ちたいと思った」
その言葉が、火を点けた。
◆◇◆◇◆
「俺も残る!」
「家族を守るって、
初めて実感した!」
「領主様が前に立つなら、
俺は逃げない!」
次々に、声が上がる。
涙を浮かべる者。
歯を食いしばる者。
アレンは、しばらく黙っていた。
――そして、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
震えそうになる声を、必死に抑える。
「僕は、無能です」
ざわつき。
「剣の腕も、名声も、
王国に並ぶものじゃない」
顔を上げる。
「でも――
皆さんを見捨てる選択だけは、しない」
◆◇◆◇◆
遠くで、地響きがした。
正規軍の進軍。
旗が、見える。
王国の紋章。
それを見て、
誰かが震えながら呟く。
「……怖い」
アレンは、答えた。
「ええ。
僕も、怖い」
そして、一歩前に出る。
「だから――
僕が、先に立ちます」
彼は、剣を抜いた。
だが、構えは低い。
威圧ではない。
誇示でもない。
――守るための位置。
◆◇◆◇◆
その姿を見て、
人々は悟った。
この男は、
背中で命令する指導者ではない。
盾になる指導者だと。
誰かが、叫んだ。
「旗を……!」
掲げられたのは、
豪華でも威厳でもない布。
ただ、
「守る」と誓った印。
風に翻る。
◆◇◆◇◆
アレンは、前を見据えた。
(逃げ道はない。
でも――)
背後から、確かな“気配”。
人の数。
心の重さ。
(……独りじゃない)
彼は、静かに呟いた。
「来い、王国軍」
その声は、震えていなかった。
「ここは、俺たちの居場所だ」
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