第22話 宰相直属暗部、全滅
旧中央文書院――
王都の中心から外れたこの廃れた施設は、本来、静寂だけが支配している。
だが今、空気は殺気で満ちていた。
「アレン・グリード。
抵抗は無意味だ。ここで捕らえられ――」
宰相直属の暗部騎士が言い終える前に。
――ゴッ。
鈍い音とともに、
彼の背後の影から《シャドウウルフ》が飛び出し、
喉元に牙を突き立てた。
「がッ……!? がはっ――!」
黒い外套の騎士が崩れ落ちる。
アレンは彼を冷たく見下ろした。
「無能領主にしては、強すぎる……とは思わないのか?」
返事はない。
騎士はすでに意識を失っていた。
◆◇◆◇◆
「……まだいるね」
アレンの周囲に、じわり、と五つの影が広がる。
天井裏、書架の上、死角の角。
殺気は消している。
だが、動きと気配は魔獣たちが捉えていた。
(宰相直属の暗部……“黒手の六人”。
王都最強の影部隊)
アレンは息も乱さず、呟く。
「――こっちも、本気を出さないとね」
その瞬間。
闇が揺れ、十数体の獣影が姿を現した。
細身の狼。
壁を這う《クローリザード》。
天井から飛び降りる《スカイバット》。
全て、アレンの群れ(レギオン)。
「……囲まれたな」
どこかから暗部の一人の低い声が聞こえた。
「だが、我らは宰相直属の――」
アレンは手を上げ、指を鳴らした。
「――“喰らえ”」
瞬間、闇が爆ぜた。
◆◇◆◇◆
暗部の一人が剣を抜くより先に、
《クローリザード》が腕に噛みつき、骨を砕く。
「ぐああああっ!!」
叫ぶ暇もなく、
《シャドウウルフ》が喉へ食いついた。
別の一人は後方へ跳び退るが――
「――遅いよ」
アレンの背後から飛んだ《スカイバット》が顔面に突撃し、視界を奪う。
狼群が一斉に襲いかかり、
暗部の外套が赤黒く裂けた。
◆◇◆◇◆
書架の裏。
最後の一人が、呼吸を殺しながら潜んでいた。
(……この化け物、何者だ?
無能?処刑予定?とてもそうは見えん!)
心臓の音がうるさい。
だが、その音が――
“返ってくる気配”に気づいた時。
背筋を冷たいものが走った。
(気配感知能力……!?)
「見つけたよ」
声が耳元で囁かれた。
「ひ……!」
振り返るより早く、
影が彼を地面へ引きずり倒す。
アレンが静かに歩み寄る。
「君たちは王都でも指折りのエリートだ。
でも――僕の“音のない群れ”には勝てない」
薄暗い書庫に、静寂が戻る。
宰相直属暗部、“黒手の六人”。
――全滅。
◆◇◆◇◆
「さて――時間がない」
アレンは懐に隠した文書を取り出し、
上着の内ポケットに深くしまった。
(今の戦闘……
宰相側も“気づく”のは時間の問題)
このまま王都に潜伏は危険だ。
だがアレンの口元は、不敵に歪んでいた。
「――上等じゃないか。
宰相アーウィン。今度は僕のターンだ」
壊れかけた文書院の扉を押し開ける。
黎明の光が差し込む。
アレンの影だけが、静かに王都の石畳に伸びていった。
高評価お願いします




