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無能領主を演じて生き延びます  作者: ガスト


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第21話 無能領主、王都へ潜入する

毎回評価してくださる数人の方ありがとございます


夜明け前の街道は、冷たい霧に包まれていた。


 王都へ続く関所の前。

 商人の馬車が数台、順番を待っている。


「次の方どうぞ!」


 呼ばれて進み出たのは――

 くたびれた外套に身を包み、背中を丸めた一人の男。


 ――アレン・グリード。


 ただし今の彼は、誰がどう見ても“冴えない三流商人”だった。


「え、えっと……乾燥薬草と、魔獣の皮を少々……」


 おどおどと差し出された通行証を、門兵が確認する。


「領名は……“グリード領”?」


 一瞬、門兵の眉が動いた。


 だがすぐに、鼻で笑う。


「ああ、あの“無能領主”のとこか。

 最近、軍が出たって噂になってたな」


「ひ、ひぃ……ぼ、僕らも大変でして……」


 縮こまるアレン。


 門兵は興味を失い、手を振った。


「よし、通れ」


「あ、ありがとうございますぅ……!」


 頭を何度も下げながら門をくぐる。


 ――王都、侵入成功。


(よし。

 やっぱり“無能の評判”は便利だな)


 アレンは心の中でだけ、静かに笑った。


 


◆◇◆◇◆


 


 王都は相変わらずの活気に満ちていた。

 石畳の街路、立ち並ぶ商店、行き交う貴族と兵士。


 だがアレンの目には、別のものが映っている。


(……あちこちに“宰相派”の影。

 街の警備配置も変わっている)


 彼の異能――

 “群れの王”に付随する感覚共有。


 人には見えぬ小動物、鳥、魔獣の使い魔たちが、

 王都の上空や路地裏で情報を集めていた。


(第二軍団の動員準備……

 騎士団幹部の一部が急に入れ替わったか)


 思った以上に、宰相アーウィンの動きは早い。


 だが――


(それでも、まだ“王都内部”は固め切れてない)


 だからこそ、来た。


 アレンは向かう。

 王城ではない。貴族街でもない。


 目的地は――

 旧中央文書院。


 


◆◇◆◇◆


 


「……久しいな、ここも」


 半ば廃れた石造りの建物。

 表向きはただの保管庫だが――


(王国の“黒歴史”と“失脚者の記録”が眠る場所)


 前世知識で知っていた。

 そしてこの世界でも、確実に存在している。


 警備は最小限。

 それでも普通なら近づけない。


 ――普通なら。


「……出てきなさい」


 アレンが小さく囁く。


 影から現れたのは、

 人の形をした影――《シャドウウルフ》の上位個体。


 音もなく警備兵の背後に回り、

 一瞬で気絶させる。


「……ありがとう。後は隠れてて」


 アレンは静かに中へ入った。


 


◆◇◆◇◆


 


 埃の積もった書架。

 古い王印、封蝋、破棄寸前の文書。


 アレンは迷わず、特定の棚へ向かう。


「……あった」


 引き抜いた羊皮紙には、

 一つの名が書かれていた。


 ――アーウィン・クラフト。


 宰相就任前。

 地方で起きた“反乱事件”。

 公式記録では――「不慮の暴動」。


 だが、アレンは知っている。


(住民三千人“処分”。

 反乱をでっち上げ、功績として王都に売り込んだ事件)


 決定的証拠まではまだ足りない。

 だが――糸口には十分だ。


 その時。


 ――床が、わずかに軋んだ。


「……誰だ?」


 アレンが振り返る。


 闇の奥から現れたのは、

 黒い外套を纏った――騎士。


 王国紋章ではない。

 だが、間違いない。


(直属暗部……“宰相の犬”)


 騎士は低く告げた。


「無能領主アレン・グリード。

 ――宰相閣下がお呼びだ」


 空気が、一気に凍りつく。


 アレンは、ゆっくりと文書を胸に抱えた。


(……なるほど。

 王都に来たのは、正解だったな)


 彼は、静かに口元を歪める。


「それは光栄ですね。

 ただ――」


 影が、蠢いた。


「――ここで捕まる気は、ありません」


 無能領主と宰相。

 ついに、王都の闇で直接交錯する。


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