第18話 無能領主、王国軍の“本隊”と対面する
谷を満たしていた沈黙は、巨大な影がゆっくりと姿を現すことで破られた。
山道の向こう側――濃厚な土煙。
そして、轟く規律正しい足音。
王国軍第一軍団 本隊。
アレンは馬上で“震えているふり”をしながら、その実、心の奥底では冷静に戦況を見つめていた。
(……来たか。
帝国との国境防衛を担う“正規軍”。
ここが、この茶番を大きく動かす分岐点だ)
彼は気づいていた。
査察隊が消え、領内で不審な動きが広がり始めた“その裏”に、必ず軍が絡んでいることを。
その証拠が、目の前に現れた。
銀甲冑で統一された千の兵。
規律の塊のような隊列。
そして、その先頭に立つ――
王国軍第一軍団長 クレイグ・バルゼン。
父である宰相アーウィンに忠義を誓う強硬派。
ゲームではアレンを“即座に抹殺する”冷酷な人物だった。
「アレン・グリード領主。
王国軍の名において、貴殿を拘束する」
軍団長が淡々と宣告した瞬間、取り巻きの兵士たちが一斉に槍を構えた。
領主に向けて槍を向けるなど、本来は軍規違反だが――
これが「処刑イベント」である証だった。
(……まあ、そう来るよな)
アレンは震えながら馬から降りる。
もちろん“演技として”だ。
「ど、どうか!
ぼ、ぼくは何も悪いことしてないんですぅぅぅ!」
地面に座り込み、情けなく泣きわめく。
周囲の兵士が鼻で笑う。
軍団長は興味もなさそうに顎を少し動かした。
「抵抗する意思なし、と判断。
拘束し、王都へ連行しろ」
「はっ!」
兵士がアレンに近づく。
――その時。
谷全体に、低い唸りのような音が響き渡った。
「……?」
兵士たちが振り返る。
音の方向はアレンの背後――村の方角。
アレンが静かに口角を上げる。
(やっと来たか)
森が揺れた。
濃い陰から一斉に飛び出したのは――
従順に頭を垂れ、アレンの前へ跪く魔獣の群れ。
牙を持つ熊型魔獣が五頭。
影を這う狼型魔獣が二十。
そして、頭上には鷲型魔獣の影。
王国軍第一軍団の兵士たちが慌てて後退した。
「ば、ばかな……!
魔獣が、領主の前で……跪いている……?」
「あり得ん! 魔獣使いでもここまでの規模は――!」
軍団長が険しい表情のまま目を細める。
(やっと“無能”の仮面を破ってくれるか?
アレン・グリード)
アレンは、震えた声で立ち上がり――
しかし、その瞳は鋭く輝いていた。
「……王国軍第一軍団。
ここで全滅されたくなければ――」
魔獣たちの咆哮が谷を揺るがす。
次の瞬間、アレンの声が響いた。
「――僕の話を、最後まで聞いてくださいね?」
その場にいた全員の背筋が凍りついた。
無能領主の“豹変”。
隠されていた“力”。
そして、王国軍本隊と魔獣軍団が対峙するという異常事態――。
谷の空気が、完全に変わる。
ここから先はもう、誰も止められない。
アレンが仕掛ける“逆転劇”が始まろうとしていた。
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