⸻ 第12話 王都到着、宰相派の罠と王妃の微笑
王都クロイツェン。
白い城壁と尖塔が並ぶその都に、アレンの馬車が入った瞬間――
ざわめきが起こった。
「見ろ、あれが“無能領主”だ」
「処罰されに来たんだろう? あんな顔でよく笑えるな」
市民の視線は冷ややかだった。
アレンはその罵声を無視し、ただ窓の外を眺めていた。
「……人の噂なんて、都合のいいものだな」
「評判を信じる方が楽なんですよ」
ミレイユが苦く笑う。
「だからこそ、演技が生きる。
俺が“本当に無能”だと、誰もが信じているうちは――好きに動ける」
アレンの目がわずかに笑った。
その冷静さに、ミレイユは背筋が凍る。
この男の“生き延び方”は、常に一歩先を読んでいる。
◇
王宮の謁見の間。
磨き上げられた大理石の床、金糸の垂れ幕、王座の下に整列する貴族たち。
その中央に立つのは、宰相アーウィン・クラフト。
白髪に整った口髭、だが目の奥は氷のように冷たい。
「――アレン・クロフォード領主。お前に問う。
貴様が領地で収賄および兵糧横領を働いたという報告がある。弁明はあるか?」
アレンは深く一礼した。
「ございますとも。……私は無能ゆえ、領地の細事など何一つ把握しておりません」
貴族たちの間に笑いが広がる。
「ほら見ろ」「開き直ったぞ」
嘲笑と軽蔑の声が渦巻く中、アレンはただ微笑んでいた。
アーウィンが冷たく言う。
「では、己の罪を認めるのだな?」
「いいえ、宰相閣下」
アレンはゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、氷のような静けさが宿っている。
「“罪があるかどうか”をお決めになるのは、神でも宰相でもなく――証拠です」
一瞬、場が凍る。
アレンが懐から一通の封書を取り出した瞬間、アーウィンの顔がわずかに引きつる。
「これは、貴族商会と宰相派が交わした密約の写しです。
王国南方からの税の一部が、“消えている”。
……不思議ですね? 領地の収支とぴったり合わない」
ざわめき。
ざわめきが止まらない。
宰相派の貴族が顔を青ざめさせる中、王座の上から澄んだ声が響いた。
「静粛に」
その声に、すべての喧噪が消えた。
声の主は――王妃セレスティア。
淡い金髪と深紅の瞳。
その美貌には、凛とした威厳が宿っていた。
「宰相殿。告発の内容は事実確認を要します。
アレン卿を直ちに拘束するのは、早計ではなくて?」
アーウィンが歯を食いしばる。
「王妃陛下、それは……!」
「あなたの正義を疑うわけではありません。
ただ――私は、正しいことが正しく行われる国でありたいのです」
その一言で、謁見の間の空気が一変した。
アレンはその様子を見ながら、ゆっくりと頭を下げた。
(やはり……王妃は、まだ“王国”を見捨てていない)
王妃の瞳が一瞬、アレンの方を見た。
その目には、確かな“意志”があった。
まるで「次はあなたの番」と告げるように。
◇
謁見が終わり、アレンが王宮の廊下を歩いていると――
壁の影から、先ほどの青年・レオンが現れた。
「アレン様、王妃陛下が密かにお会いになりたいと。
今夜、離宮の庭園へ」
アレンは短く頷いた。
「……動くか。やっと本番が始まる」
王都の夜が、静かに幕を下ろしていく。
その暗闇の中、誰も知らぬ密談が始まろうとしていた。
高評価お願いします




