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無能領主を演じて生き延びます  作者: ガスト


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⸻ 第12話 王都到着、宰相派の罠と王妃の微笑

王都クロイツェン。

白い城壁と尖塔が並ぶその都に、アレンの馬車が入った瞬間――

ざわめきが起こった。


「見ろ、あれが“無能領主”だ」

「処罰されに来たんだろう? あんな顔でよく笑えるな」


市民の視線は冷ややかだった。

アレンはその罵声を無視し、ただ窓の外を眺めていた。


「……人の噂なんて、都合のいいものだな」

「評判を信じる方が楽なんですよ」

ミレイユが苦く笑う。


「だからこそ、演技が生きる。

俺が“本当に無能”だと、誰もが信じているうちは――好きに動ける」


アレンの目がわずかに笑った。

その冷静さに、ミレイユは背筋が凍る。

この男の“生き延び方”は、常に一歩先を読んでいる。



王宮の謁見の間。

磨き上げられた大理石の床、金糸の垂れ幕、王座の下に整列する貴族たち。

その中央に立つのは、宰相アーウィン・クラフト。

白髪に整った口髭、だが目の奥は氷のように冷たい。


「――アレン・クロフォード領主。お前に問う。

貴様が領地で収賄および兵糧横領を働いたという報告がある。弁明はあるか?」


アレンは深く一礼した。

「ございますとも。……私は無能ゆえ、領地の細事など何一つ把握しておりません」


貴族たちの間に笑いが広がる。

「ほら見ろ」「開き直ったぞ」

嘲笑と軽蔑の声が渦巻く中、アレンはただ微笑んでいた。


アーウィンが冷たく言う。

「では、己の罪を認めるのだな?」


「いいえ、宰相閣下」

アレンはゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、氷のような静けさが宿っている。


「“罪があるかどうか”をお決めになるのは、神でも宰相でもなく――証拠です」


一瞬、場が凍る。

アレンが懐から一通の封書を取り出した瞬間、アーウィンの顔がわずかに引きつる。


「これは、貴族商会と宰相派が交わした密約の写しです。

王国南方からの税の一部が、“消えている”。

……不思議ですね? 領地の収支とぴったり合わない」


ざわめき。

ざわめきが止まらない。

宰相派の貴族が顔を青ざめさせる中、王座の上から澄んだ声が響いた。


「静粛に」


その声に、すべての喧噪が消えた。

声の主は――王妃セレスティア。

淡い金髪と深紅の瞳。

その美貌には、凛とした威厳が宿っていた。


「宰相殿。告発の内容は事実確認を要します。

アレン卿を直ちに拘束するのは、早計ではなくて?」


アーウィンが歯を食いしばる。

「王妃陛下、それは……!」


「あなたの正義を疑うわけではありません。

ただ――私は、正しいことが正しく行われる国でありたいのです」


その一言で、謁見の間の空気が一変した。

アレンはその様子を見ながら、ゆっくりと頭を下げた。


(やはり……王妃は、まだ“王国”を見捨てていない)


王妃の瞳が一瞬、アレンの方を見た。

その目には、確かな“意志”があった。

まるで「次はあなたの番」と告げるように。



謁見が終わり、アレンが王宮の廊下を歩いていると――

壁の影から、先ほどの青年・レオンが現れた。


「アレン様、王妃陛下が密かにお会いになりたいと。

今夜、離宮の庭園へ」


アレンは短く頷いた。

「……動くか。やっと本番が始まる」


王都の夜が、静かに幕を下ろしていく。

その暗闇の中、誰も知らぬ密談が始まろうとしていた。


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