表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能領主を演じて生き延びます  作者: ガスト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/32

第1話 目覚めたら“断罪予定の領主”でした

休日に思いつきで始めました

よろしくお願いします

第1話 目覚めたら“断罪予定の領主”でした


――頭が割れるように痛い。

まぶたの裏に、まるで火の粉のような光がちらつく。


「……っ、ここは……?」


目を開けた瞬間、知らない天井が見えた。

いや、知らないどころじゃない。見渡す限り中世ヨーロッパ風の豪奢な寝室だ。

白漆喰の天井、金の縁取り、窓から見える石造りの街並み。

そして寝台の横には、立派な全身鏡と古めかしい机。


(え、なにこれ……どこ?)


目をこすってもう一度見ても、会社のワンルームではない。

俺が最後に覚えているのは――深夜二時まで仕事をして、ベッドに倒れ込み、スマホでお気に入りのゲーム『革命育成記』を開いたところだ。


「……まさか、な」


鏡の前に立ち、自分の姿を見た瞬間、血の気が引いた。


金髪、青い瞳。白いシャツに深紅のマント。

どこからどう見ても、あのゲームに出てきた“断罪される無能貴族”――

アレン・クロフォード侯爵だ。


「嘘だろ……? よりによってコイツかよ……!」


アレン・クロフォード。

王国南部のクロフォード領を治める地方貴族。

だが、彼は物語の途中で――革命軍に断罪され、打ち首になる運命だ。


理由は単純。

・重税を課し、領民を貧困に追いやった。

・隣国との戦争で敗北。

・最期は屋敷に火を放たれ、笑われながら死ぬ。


まさに悪役貴族のテンプレ。


(終わった……転生初日から詰んでる……)


頭を抱えていると、ノックの音がした。


「アレン様、朝のご支度はいかがなさいますか?」


扉の向こうから聞こえるのは、年配の男性の落ち着いた声。

ゲームでも見覚えがある――忠実な執事、ガリウスだ。


「……あ、ああ、入ってくれ」


自分でも驚くほど自然に返事が出た。

扉が開き、グレイヘアの老執事が深々と頭を下げる。


「お目覚めでございますか。昨夜は珍しく、酒も召し上がらずお休みになられたとか」

「そ、そうだったかな?」

「はい。領民の陳情をすべて突き返された後でしたので、気疲れなされたのかと」


(うわ、最悪。ゲームのまんまの行動履歴だ……)


どうやら“前任のアレン”は、領民の訴えを無視して寝たらしい。

つまり、俺が転生したのは最悪のタイミングだ。


「……あのさ、ガリウス」

「はい、アレン様」

「領地の財政って、今どうなってる?」

「財政、でございますか?」


執事が不思議そうに眉をひそめる。


「まさかお忘れに? 赤字が七年続いております。兵糧庫は底を突き、農民たちは税を納めるにも困窮しております」


やっぱり……そう来たか。


「ふむ。……じゃあ、今日の予定は?」

「午前は貴族会議、午後は……城下の市場にて騒ぎが起きているとか。ですが、アレン様が民の場などに行かれる必要はございません」


俺は思わず笑ってしまった。


「いや、行く」

「……は?」

「市場を見に行く。無能なりに暇つぶしってやつだ」


そう言ってやると、ガリウスの目がわずかに見開かれた。

彼にとって“怠惰な領主”が民の様子を見に行くなど、あり得ないことなのだろう。


(いいだろう。無能を演じるのは表だけだ)


俺は心の中で決意する。

この領地は、放っておけば二年後に革命軍に占領される。

だが――“未来を知っている”俺なら、変えられる。




昼の市場は、思った以上に活気がなかった。

露店の数は少なく、野菜はしなび、通りには沈んだ顔の人々。


「これが、クロフォード領の現実か……」


馬車のカーテンを開けた俺の呟きに、護衛の兵士が慌てて頭を下げた。


「も、申し訳ございません、アレン様! 不届き者が増えぬよう、すぐに――」

「いい。誰も悪くない。……少し歩く」


馬車を降り、土の道を歩く。

周囲の視線が痛い。

子どもたちは母親の背中に隠れ、商人たちは目を逸らす。


「――領主様だ」

「また視察のフリか?」

「どうせ税を上げる相談に来ただけだろう」


そんな声が聞こえる。

……まあ、そう思われても仕方がない。


すると、一人の少女が倒れそうになったのが目に入った。

両腕には籠いっぱいのリンゴ。

転びかけた拍子に、赤い果実が道に転がる。


俺は咄嗟に手を伸ばした。


「っとと、大丈夫か?」


少女が見上げたその瞬間、周囲がざわついた。


「りょ、領主様が……子どもを助けた?」


俺は微笑みながら、転がったリンゴを拾い集めた。


「……すまんな。落ちちまったのは俺のせいでもある」

「い、いえ……! そんな、もったいないお言葉……」


少女は震える手で籠を受け取り、ぺこりと頭を下げた。

その顔を見て、俺は確信する。


(この世界は“ゲーム”じゃない。人がちゃんと生きてる)


――なら、救わなきゃならない。


俺は振り返り、ガリウスに命じた。


「ガリウス。明日から配給所を再開しろ。備蓄穀物を一部、民に回す」

「な、なんと……!? しかしそれでは貴族会議が――」

「俺が説得する。どうせ無能扱いなんだ、少しぐらい暴れても文句は出まい」


執事が絶句する。

だが、俺はもう止まらなかった。


(演じてやるさ。表では無能な怠け者、裏では改革者)


未来の俺を打ち首にした革命軍に言ってやりたい。

――この領主は、そう簡単には死なないぞ、と。



夜。屋敷の執務室。

窓から見える月が静かに輝いていた。

机の上には、領地の地図と帳簿。


「まずは穀物。次に税制。

 そして――兵の再訓練だな」


ペンを走らせながら、俺は笑った。


「どうせ“無能領主”なんだ。

 なら、せいぜい狡猾に生き延びてやるさ」


その瞬間、胸の奥で何かが燃え上がるのを感じた。

絶望の中で芽吹く、わずかな希望の火。


――俺の“生存戦略”が、いま始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
めちゃくちゃいいですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ