本来の設定もきちんとあるようで良かったです
ランキング入りと通知がきて仰天しました。
大変喜ばしいです。ありがとうございます。
今後も宜しくお願い致します!
休暇が明けネモフィラが帰ってきた。
「ロレーヌ!」と愛らし絵顔で抱き着いてきたときはあまりの可愛さに、イベリスと接触してからのストレスは一気に吹っ飛んだ。…気がする。
「ねぇロレーヌ、殿下と婚約破棄しないの?」
「どうしたの急に」
「だってこないだの休日、イベリスと二人で下町のカフェにいたから」
「あぁー」
ネモフィラの言葉に記憶が少し甦る。チュートリアルデートのイベントだ、と。
ということは物語はこれから一気に動くというわけで。そうなると私の死亡フラグも経ち始める。
ドクンと心臓が強く脈打つ。イベリスが逆ハー狙いなのか何なのか分からないが処刑だけはなんとかしても逃れないと。
「ロレーヌ?顔色悪いよ」
心配そうなネモフィラをぎゅっと抱きしめ、笑う。
「ネモフィラがいるから大丈夫」
「ならいいけど」
二人で会談を降りて森の手前まで行く
今日は課外授業で薬草などについての勉強だ。
結果があるので大丈夫だが,稀に魔物が入り込むらしい。なので教師から離れないようにと言われる。教師は攻略対象の兎の獣人で医務医をしているアルストロメリア・シフォングレア先生と、同じく攻略対象のアルベール先生だ。そして一年生を護衛するという名目で二年生も同行しているので、エルフで騎士を目指している---こちらも攻略対象のグラジオラス・ル・カギュラスがいた。
これだけ攻略対象がいるのだ。何かしらのイベントが発生するのかもしれないと、警戒する。
「ルードベルク嬢」
「はい、アルベール先生」
「ここは地属性の力が安定しています。どうでしょう、土の精霊を召喚してみては?」
「そうですね、やってみます」
四大精霊との契約はさっさとやるべきだと思っていたのでちょうどいい。
土の魔力を身体に循環させ自身の魔力と混じらせ詠唱する。
「地を自在に泳ぎ我らに恵みを与える地の精霊よ。今、姿を現し、その知性と恵みを我に給え」
土埃が舞い上がり、その中から人型の影が見えた。
現れたのは癖毛の茶色い髪を耳まで伸ばしている、くりくりとした大きな金色の瞳を持つ少年だった。
「やっと呼んでくれた!もーーずっと待ってたんだからなー!」
私を見た途端、瞳を輝かせ抱き着いてきた彼は「ぼくはノーム!宜しく、ロレーヌおねぇちゃん!」と笑った。
「名前、当てなくてよかったの?
「あ・・・!えっと、その、うん!ぼくはおねぇちゃんが遊んでくれたらそれでいい!」
ノームって老人の姿をしていると聞いていたけど、この世界では少年らしい。見た目は11歳から14歳ぐらいだろうか。とにかく無邪気に笑うノームが愛らしくてたまらない。
「おねぇちゃんはあと水の精霊だけ?四大精霊で契約してないの」
「えぇ、そうね」
「そっか。おねぇちゃん今何してるの?」
「授業で薬草採取をしているの。ポーションの材料になるのをね」
「ふぅーん。あ、それはまだ若いからダメだよ。その隣のは大丈夫」
「教えてくれてありがとう」
「えへへ」
頭を撫でてやればノームはまた嬉しそうに笑う。
「ロレーヌ、私も褒めて」
しかしやはりというかネモフィラを見た瞬間に驚いたような表情を見せた。
「どうかしたの?ノーム」
「え、えっと、なんでもない!」
ネモフィラを見るも彼女も首を傾げていた。
シルフといいイフリートといい、いったい何なのか。謎だ。
「それよりおねぇちゃん、あっち大変そうだよ?」
「え?」
ノームが指さした方ではイベリスを中心に攻略対象達が魔物を討伐している所だった。あれは戦闘チュートリアルだったはず。流石攻略対象というべきか、あっという間に魔物を討伐していくも数が多かった。見れば他の生徒たちも魔物と戦闘している。
「どうしてこっちにはこないの?」
「わかんない。ぼく別に何もしてないよ?」
しばし考えて、魔物使いとしての素質のおかげか?と思い当たる。
悪役令嬢ロレーヌが魔物使いと分かるのも確かこの時だったはず。
私は恐怖を抑え込み、今にも襲われそうな生徒の前に立った。
「私に歯向かう気なら容赦しないわよ」
魔物に言葉を通じるのかは分からないがそう言いながら睨みつければ、鳥型の魔物と狼型の魔物は体を震わせ後ずさる。
「他の魔物を連れて帰りなさい」
狼型の魔物が遠吠えをすれば、他の魔物たちも一斉に森の奥へ消えていく。
「おねぇちゃん大丈夫?」
「えぇ、大丈夫。問題ないわ」
怖かった。もし失敗していたらと思うとぞっとする。
「素晴らしい。ルードベルク嬢は魔物使いの才能もあるみたいですね」
アルベール先生の言葉に私は「そうみたいですね」としか返せなかった。
「裏切者だ」
不意に冷たい声が背後から聞こえた。
振り返ればノームが冷たい眼差しでアルベール先生を見ていた。それにファルダル殿下も。
先ほどまで愛らしい表情を浮かべていたノームがいきなり敵意を見せていることに驚いていると、シルフが現れて「このバノーム!」とノームの頭を叩いた。
「いたい!何するんだよぉ!シルフのいじわる!」
「誰が意地悪よ!あんたこれ以上何か言うつもりならさっさと帰ってきなさい!」
「あ」
よく分からないけどノームは何かやらかしたらしい。
「シルフ、ノームもうちょっとだけ傍に置きたいのだけど、ダメ?」
「え?うぅん、ロレーヌがそれを望むなら私に拒否する権利はないわ。ノーム、大人しくしてるのよ?わかった?!」
「分かってるって。シルフはいちいちうるさいなぁ」
「なんですって!」
まるで小さい子供の喧嘩を見ているみたいだ。
ネモフィラは気にせず薬草採取をしているし、私も授業を再開する。
たまにノームがひっついてくるけど可愛いから気にはならない。
「おねぇちゃん大好き!」
「私もよ」
「えへへー」
ネモフィラと言いノームと言い本当に可愛い。
二人のおかげであっという間に薬草採取も終わり授業も終わった。
「ロレーヌ」
「なんでしょう、殿下」
「少し話さないか」
「いいですよ」
ネモフィラに先に行くように伝え、殿下と久しぶりに二人っきりになった。
「君はどうして初対面の時から俺を嫌っているんだ」
「別に嫌ってはいませんでしたよ。今は嫌いです」
「え」
ショックを受けたその顔に思わずため息を吐いてしまう。
「婚約者をずっと放置してたんですよ。好きになれというほうがおかしいでしょう。何をそんなにショックを受けているので?」
何も言えない殿下にため息を吐く。
最初に婚約破棄の条件を突きつけたのは私だが、別に嫌っていないとはきちんと言っていた。それなのにずっとぞんざいな扱いをし、この学園に来てからさらに扱いが悪くなったのだ。嫌いにならないわけがない。
ノームを見ればじっと殿下を見つめており「裏切者」となんども繰り返している。
「ロレーヌ、こいつ攻撃していい?」
「だめよ。仮にもこの国の次期国王なのだから」
「えーー!!」
「それにまだ婚約者だから」
甘いと思っているのかノームは頬をめいいっぱい膨らませる。そんな姿も愛らしいと小さく笑うと私は殿下に向き直った。
「では殿下、これ以上私を幻滅させないでくださいね」
あっかんべー!と殿下にするノームに思わず笑みがこぼれた。
ネモフィラの所に戻ればノームはすぐに還ってしまった。
「ねぇネモフィラ、この後の授業はどうせ歴史だし、のんびりお昼を食べてゆっくりしましょう?」
「うん。授業が終わったら下町にあるお風呂屋さんに行こう?」
「そうね。そうしましょう」
じんわりと掻いた汗のせいで髪が身体に張り付き少し気持ち悪い。
ハンカチで軽く汗を拭うも教室も暑いので汗が噴き出てきてしまう。
それでも授業は始まるのでこのなんともいえない気持ち悪さは忘れるしかない。
この世界の歴史はファルダル殿下の婚約者になったときに詰め込まれたので、復習に近かった。が、隣にいるネモフィラは目を丸くさせ頭を抱えていた。
「どうしたの?」
「先生が何を言っているのかわからない・・・」
まさかネモフィラが歴史が苦手とは。
以外だなぁと思いながらも教師の言葉に耳を傾ける。
いまやっているのは神話に近い時代の話だった。いまよりもっと自然が豊かで人が精霊や神様を敬い近い存在として共存していた時代。この話は好きだった。想像するだけできっと心豊かな優しい時代だったのだろうと思える。しかし平和は長く続かない。人が精霊を行使し、精霊も神も裏切った結果、人間はしばらく魔法が使えず精霊との交流も行えなくなったのだ。数百年、数千年に一度だけ現れる精霊使いはいわば神の使いと言われており代行者とも言われているらしい。そして精霊使いが現れた時代はとても豊かになり黄金時代を迎えるとも言われていると。
自分がそんな存在だとは思わないが、精霊とこうして触れ合えるのは素直に嬉しかった。
授業が終わり寮に一旦戻りアイテムボックスに香油や石鹸などを入れて下町に向う。下町に向かう際はただ塔から出ればいい。塔の前にある門が下町と繋がっており簡単に移動できるのだ。
「ネモフィラ、早く行きましょう」
「うん」
下町にあるお風呂屋さん。現代みたいに湯船があるわけではない。蒸し風呂だ。
薄いローブを着て中に入り座り、たらいの中に魔法で水と火を入れお湯を作り頭から被れば気持ちが良い。
「はぁーーさっぱりするー!ネモフィラもする?お湯作るわよ」
「いいの?お願い!」
同じようにお湯を作りネモフィラにお湯をかければ、ネモフィラも笑顔を輝かせ「気持ち良い!」と言ってくれた。
何度か同じようにお湯を浴びれば身体は温まってくる。他を見れば魔法を扱える人間は、私と同じようにお湯を作って湯浴びをしていた。
「ネモフィラは、将来はやっぱり商人?」
「うん。旅商人なんてできららいいなぁって」
「もし私が皇妃になったらお抱えの旅商人になってもらおうかしら」
「そうなったらはりきっていい品揃えるわね」
なんて将来の事を喋りながらお風呂を上がり、風魔法で髪を乾かし制服に着替えた。
お風呂屋を出ればもう夕暮れ時だった。
「夕飯どうしようかしら。ロレーヌ、早く帰ろう?」
「そうね。私もお腹がすいたわ」
学園に戻り食堂に行けばファルダル殿下がいきなり話しかけてきた。
「ロレーヌ、イベリスに口うるさく言うのをやめろ」
「はぁ?」
おっと。つい前世の私が全面に出てしまった。ファルダル殿下が面食らった表情をしている。でも許してほしい。証拠もないし身に覚えもないのにいきなりそんなことを言われれば淑女らしくない、はしたない声を上げてしまうのはしかたないと思う。
「私、授業が終わってからずっと下町のお風呂屋さんに行ってましたわよ。あぁ、私の証言が信用ならない様でしたら、どうぞいくらでも聞き込みに行って下さってもかまいませんわ。というか殿下、貴方・・・私に嫌っている云々聞きに来た時のお話、もう忘れましたの?これ以上私を幻滅させないでくださいまし。あと、イベリス嬢のお話のみ聞いて私が犯人と決めつけるということはやはり婚約破棄で宜しいということですわね。わかりました、今週の休日に国王陛下と女王陛下にお話ししてまいりますわ」
にっこりと笑えば殿下は黙り込んでしまう。
この人はいつもこう。都合が悪くなれば黙り込む。
「お話は終わりまして?私、ネモフィラと食事をしたいのですけれども」
「殿下、邪魔」
「あらネモフィラ、ふふっ。心の声が漏れていますわよ」
「漏れているんじゃなくて出しているの」
では失礼、と殿下の横を通り過ぎて本日の夕食を食べる。
唇を噛み締め俯く彼が見ていられない。
「ロレーヌ、ダメだよ」
「・・・わかってるわ」
ネモフィラにそう言われ彼から目線を外す。
ここで彼を許せば甘やかすことになる。
お風呂から上がって帰ってきて美味しい食事をして、明日の予習を少しして寝るはずがどうしてこんな暗い気持ちにならないといけないのだろう。
ビーフシチューを掬うスプーンは止まったままでため息ばかりついてしまう。
「んぐっ」
いきなり白パンを口に入れられ驚く。
下を見ればノームが眉を寄せていた。
口の中の白パンを飲み込み「ノーム?」と声をかければ、ノームは怒ったような声で「ロレーヌがあんなやつのために悲しんで食事できないのはおかしいよ!」と言ってくれた。
「ロレーヌ、ちゃんと食事摂って?人間はご飯を食べなきゃ死ぬんでしょう??」
「別に一食ぐらい抜いても死なないけど、そうね、ちゃんと食べなきゃね。ありがとう」
「んへへへ」
ノームを横の開いている椅子に座らせれば上機嫌になっていた。
ネモフィラも機嫌が悪そうにしていたけれど、いつのまにか機嫌が直っていた。いや、機嫌が悪かったというより、心配してくれていたのか。
「二人とも、ありがとう」




